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3. こうなる

 


「真実の愛で結ばれたお二人を祝福したのは本当ですが、結婚の手立てはあくまでこういう方法があるという話を出したまで。

 それを実行するにしても両家と相談し国王陛下に許可をいただかなければ晴れて結婚はできませんわ」


 そのバカにするような目に我慢ならなかったドロシーは拳を作り、そして叫んだ。


「そうよ!チェルシー!チェルシーはどこ?!チェルシーに聞けばいいのよ!あの子は病弱で素行も悪くて勉強についていけず学園を辞めたのよ?!

 優秀なアタシに伯爵家を継いでほしいって言ったのはチェルシーよ!!誰かあの子をここに呼んできて!!」


「ポッドホット伯爵?あなたはご夫人にどんな教育をなされたの?先程も継いでいない子供の言葉ではなんの効果もないと話したはず。

 チェルシーさんが認めたところで意味はありませんわ」


「え?!そんな!だって、お義父様だってアタシの子供を伯爵家に継がせるって言ったのに!」

「それを決めるのも何もかも陛下の許可が必要なことはご存じ?」


 ハッとして国王を見たが彼はドロシーなど見ておらず、視線の先にいるボイルを見遣った。


「ポッドホット前伯爵からの結婚申請は…」

「来ておったが妻の欄がドロシー・ゴゴホットだったので送り返した。ポッドホット前伯爵とドロシー・ゴゴホットは親戚ではあるが家族ではない。

 正当な後継者がいて実親が健在なのに理由なく養女を許可するわけなかろう。またゴゴホット男爵からも娘を他家に移す明確な理由も申請もなかった。

 てっきり己の過ちに気づき結婚を取り止めるのかと思ったが再度ポッドホット前伯爵から他人(ドロシー)の娘の名前で送られてきたのでチェルシー・ポッドホットに書き換えておいた」


「な、なぜですか?!」


「わからぬか?貴様の妻は結婚前から問題を起こしていたのだ。何かにつけて『自分は王妃になる女』だと嘯き王妃や王家がその程度の存在だと蔑んできた。

 その他にもあるし貴様にも覚えがあるだろう。そんな危険な者に権力を与えるなどするわけがない」

「…あっ…」


 確かにドロシーはことあるごとに自分が王妃になれると固く信じているのを思い出した。だが義父が言うにはか弱いドロシーが自分を鼓舞するのに使っている呪文で本気ではないと言っていた。


 それが間違っていたのか?恐ろしいものを見る目でドロシーを見た。


「その毒婦やその家族に何を吹き込まれたのか知らぬが、チェルシー・ポッドホット嬢は正式なポッドホット家の後継者だ。

 そしてお前の異母妹である王女を救った救世主でもある。その恩義ある令嬢の家を乗っ取るような真似を私が許すと思うか?」


 乗っ取り。言われてみればそうだと顔を青くした。お家乗っ取りは重罪。いくらポッドホット前伯爵が決めたこととはいえ父である国王が認めなければ乗っ取りになってしまう。


 そしてチェルシー・ポッドホットの姿を去年の卒業パーティーで見かけた以降一度も見かけていないことに気づく。

 それどころか今日まで顔を合わせたことも話したこともないことに気づき震えた。


 結婚式にもいなかった。彼女はどこに行った?


「ドロシー。ドロシー!チェルシー嬢は今、どこにいる?義母上と一緒にいるのか?」


 ドロシーが呼んでも出てこなかったのは出てきて恥をかきたくなかったからだ。今まで見かけなかったのは新婚だからと気を利かせてくれていたのだ。きっとそうだ。


 なのにさっきから脳裏に悪い予感が浮かんで震えが止まらない。

 もしかしたらチェルシー・ポッドホットはもうこの世にいないのでは?という考えから離れられなかった。


「何を言ってるの?お義母様がチェルシーと行動するわけないじゃない!二人で一緒に出掛けたことがないくらい嫌ってるのよ?

 いるとしたら一人で壁の花にでもなってるんじゃないかしら?あの子友達もいないし。うーん。地味過ぎて見つけられないわ。……チェルシー!!チェルシーいらっしゃい!」


 これお義母様の真似ね。と笑うドロシーにボイルの顔色がどんどん悪くなっていく。


 母である側妃にもこんなヒステリックな声で呼ばれたことがなかったからドロシーの行動も含めて理解が追いつかず震え上がった。


「あらやだ。そうだわ。あの子デビュタントすらやってもらえてないから、まだ夜会デビューできてないのよね」

「もういい。この不埒者を捕らえよ」


 ドロシーの声は会話程度なら可愛らしいものだが叫ぶと耳鳴りがするほど甲高く近くにいた者達は耳を塞いでいた。

 ボイルもそうしたかったが耳を塞いだらドロシーが怒るのは目に見えていたので必死に我慢した。そのせいで国王の声で現れた騎士達の行動を止めることができなかった。


「ちょっと!何するのよ?!アタシはボイル王子殿下の妻で王妃様になもがっ」


 拘束を解くよう命令するつもりがとんでもない言葉が聞こえて思わず持っていたハンカチをドロシーの口に突っ込んだ。


「ほう。結婚してただの貴族になったと思っておったが貴様は自分が王子でいつか王になるとこやつに言っておったのか?」

「いいえ!いいえ!!滅相もありません!!!」


 ボイルの言葉にショックを受けるドロシーが視界に入ったがあえて無視した。

 そんなことを認めれば王位簒奪を目論んだことになってしまう。


 王位簒奪は貴族の家を乗っ取るよりも重い罪だ。そんなつもりもないのに処刑されるなんて冗談じゃない。

 自分は逆らうつもりも反逆の心もないと必死に取り繕った。


「貴様に王位継承権を放棄させてよかったわ。でなければ死ぬまで貴様の妻は王妃になると喚いていたであろう」

「……も、申し訳ございません」

「貴様は国王である余を二度も裏切った。一度目は若気の至り、座興が過ぎたで通せたが二度目は余の前で醜態を晒した。

 あの者を伴侶にすることは認めてやったがポッドホット家を継ぐのは貴様らではない」

「………」

「血の重さがわからぬ貴様に爵位が必要とは思えんな」


 騙された。と思うのと同時になんてことをしてしまったのだとやっと気づいてボイルは膝をついた。

 父である国王に男爵になっても構わないと思われるほど失望されてたなんて知らなくて涙した。



「わたくし、気分が悪いですわ」

「国王よ、もういいだろうか?妻の体調が心配だから帰らせてもらう」

「お恥ずかしいところをお見せした。……で、ではまた後日に」

「いや、改めて話すことなどないだろう。こちらからの救援要請を無視しあわや国境が変わるところだったのだ。ここに来たのは私の生存を知らしめるためと余計なことをさせないための牽制だ。ああ、これからも民は守るがあなた方の言葉を聞くことはもうない」


 もう生け贄のごとく次々わけのわからない令嬢を送り続けることも、その令嬢らをスパイとして利用することもしないでくれ。とうんざりした顔をする辺境伯に貴族達は引きつった顔で国王を見た。


 英雄に対してそんな扱いはあんまりではないのか?何かあった時に貴族を助けてくれないという意味にも聞こえ絶望を露にする者もいた。


「そんな一方的では陛下も困ってしまいますわ。せめて別の場でお話くらいされてもよろしいのでは?」


 疲れた顔のチェシーが辺境伯に声をかけ、国王はホッとした。チェシーという名を聞いたことがなかったが帝国の隠し種なのだろう。帝国では危険から高位貴族を守るために情報を操作していると聞く。

 元は侯爵、もしくは公爵の出なのだろう。そんな高貴なチェシーに国王は感謝した。


「ならば話し合いの前に一つ条件がある」

「条件?」

「そこのドロシー・ゴゴホットには私への接近禁止命令を出していた。距離は五メートル。誰かと結婚し家名が変わってもそれは変わらない。約束を一方的に破ったことへの制裁をお願いしたい」


 は?それはチェルシーのことじゃなかったの??

 とドロシーが目を見開いたが国王は快諾した。


「また紹介も受けず話しかけたこと、上位に名乗らせたこと、妻に対しての無礼の数々もしっかり裁いてほしい」


 ジロリと睨まれたドロシーとボイルは真っ白になった。だが考えていることは微妙に違っていた。

 ボイルはドロシーの態度と今までやってきたと思われる侮辱にとんでもない罰が下されるのでは?と思った。


 ドロシーは接近禁止命令はチェルシーに出されていたと思っていたし、自分はもうゴゴホットではないから罪にはならないと思った。

 けれど恐ろしいと思ったのは確かなので、もがもがと必死にハンカチを咥えたまま訴えた。


 何それ知らない!アタシは王妃様になる女よ!貴賓はただの貴族でしょう?!だったら王妃様(アタシ)より下じゃない!

 だって王家がこの国で一番偉いんだから!アタシは何もしてない!何も間違っていないわ!


 だが誰もドロシーの意見など聞くはずもなく、彼女はハンカチを咥えたまま退場させられたのだった。







読んでいただきありがとうございます。

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