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愛が無くても君となら 〜学年一のイケメン、学年一の美少女の「男避け」になる

作者: 赤井藍

好評だったら連載します。

「ねぇ、私たち付き合わない?」



 夕焼けで真っ赤に染る屋上で、彼女はフェンスに寄り掛かりながらそう言う。



「それはどうして?」


「都合がいいから、かしらね。私とあなたなら付き合っても何も文句は言われないわ」


「まぁ、そうだね。つまり、男避けってこと?」



 彼女、砂原美海(さはらみみ)は学年一の美少女と名高い。当然、男子たちからモテている。

 その砂原から「文句を言われない」というような理由が出るということは、男避けということだろう。

 確かに、好きじゃない相手を振るとしても、何となく申し訳なくなったりすることはある。



「そういうことになるわね。面倒臭いのよ。分かるでしょ?」


「そうだね。何となく気まずい雰囲気になる事もあるね」


「だからそれが疲れたのよ。あなたとは気も合うし、一緒に居ても苦じゃないわ」



 学年一の美少女からそう言って貰えると少し気恥ずかしくなる。恥ずかしさを誤魔化すために頭を掻きながら僕はもう1つ質問する。



「そういうのって普通、付き合ってるフリをするのが多いんじゃないの? 聞いてる感じ、本当に付き合うみたいだけど」


「だって、フリっていうのがバレたら面倒でしょ? それなら付き合った方が得よ。それとも、好きな人でもいるの?」


「いや、特に居ないかな」


「じゃあ丁度いいじゃない。損する事は無いと思うわ」



 彼女の中でこれは既に決定事項のようで、どんな質問をしてもすぐ返ってきそうだった。


 僕は一度冷静に、砂原と付き合ってみた時の事を想像する。

 会話が無くても同じ空間にいて気まずいことは無い。お互い自然体で過ごすことが出来る。

 確かに、僕に損は無さそうな話だった。



「そうだね。じゃあ、付き合おう」


「えぇ、よろしく」



 僕は彼女に手を差し出し、彼女がその手を取る。


 この瞬間、学年一のイケメン、柳沢蓮(さなぎさわれん)と、学年一の美少女、砂原美海の愛の無い交際が始まったのだった。




 ☆




 学年一の美男美女が付き合ったとなれば、噂もすぐに広がる。元々砂原の男避けのために付き合っているので、僕たちもその噂を否定することはなかった。


 初めは玉砕覚悟で告白してくる人も多かったが、次第にその数も減っていき、逆に僕と砂原を崇めるような生徒の集団が出来上がった。

 遠くから手を合わせて神様のように崇められても困るのだが、砂原は「ちょっかいを掛けてこなければいいでしょ」と言うので、僕も気にしなければ問題ないと思うことにし、その事について考えないようにした。


 彼らも直接話しかける気は無いらしく、いつも遠目に見ているだけだったので、これも気にならなくなった。



「今のところ上手くいってるわね」


「そうだね。一か月近く経ったけど、告白してくる子の数は前よりだいぶ減ったし」


「この調子でよろしくね」



 昼休み。誰もいない生徒会室にて、僕たちは弁当を食べながら現状のことを話す。ちなみに、砂原はドーナツを持ってきていた。

 他の生徒会のメンバーは基本的に生徒会室を使わないし、誰にも聞かれずに話をするのには丁度いい。暖房も使えるので、寒い外とかで食べるよりよっぽどましだろう。

 僕と砂原は生徒会長と副会長という関係だったので、簡単に使うことができる。


 周りの生徒からも「二人きりでお弁当を……!」などと僕たちの関係が良好だと思ってくれている声が多く聞こえ、その点から見てもちょうどよかった。



「そうそう。今度から私があなたの分のお弁当を作るわ」


「へぇ、それは楽しみだね。お金取られるとかある?」


「別に取ってもいいんだけれど、恋人から弁当代を貰うなんておかしくないかしら? あまりそういった話は聞かないわ」


「まぁ、それもそうだね。でも申し訳ないから交代で作るようにしよう」



 材料費だなんだと気にしていると、非常に面倒なことになってくる。恋人ではあるものの、「男避け」である僕が一方的に貰うのは気が引ける。それなら交代で作ったほうが何も気にすることがなくて気が楽だ。

 幸い、僕も料理はできるため、一人分多く作るくらい訳ないことだった。



「じゃあ、そうしましょう。明日は私が作ってくるわ」


「ありがとう。……そうだ、僕からも一つ。デートしよう」


「それは突然ね。何か理由が?」


「友人からデートはしたのかと聞かれてね。してないと答えたらあんなに可愛い彼女がいるのにもったいないと言われてしまったんだ」



 その友人はいつかダブルデートがしたいと言っていたし、先に練習しておいた方がいいと思ったのだ。友人は一度決めたら何が何でも実行する人なので、ダブルデート当日に不自然というのは良くない。


 砂原にこのことを伝えると、珍しく少し考え込むように俯く。砂原は頭の回転が速い。だからその砂原が考え込むというのは本当に珍しかった。



「……そうね、それは練習しておいた方がいいわ。ただし、コースとかはあなたが考えてもらえるかしら」


「うーん……頑張るよ。次の土曜日とかで大丈夫?」


「えぇ。その日はフリーだから大丈夫よ」



 参った。そもそも彼女というものは砂原が初めてだ。経験値が無い状態なので、コースを考えるというのは苦労しそうだ。どうせなら楽しめる場所に行きたいし、砂原のことを考えなければならない。

 僕はああでもないこうでもないと悩みながら、初デートのコースを考えるのだった。




 ☆




 あっという間に初デート当日になり、僕は駅前で砂原が来るのを待つ。集合は10時なので、まだあと10分程余裕があった。

 11月にもなると流石に手も冷たくなってきて、僕は手を擦りながら砂原が来るのを待つ。


 あと5分というところで、聞き慣れた口調の声が聞こえてくる。



「ごめんなさい。服を選ぶのに時間がかかってしまって。待ったかしら?」


「大丈夫。そんなに待ってないよ。僕もついさっき来たところ」



 僕は顔を上げて砂原の声がする方を見る。

 普段の制服姿とは違い、お洒落をしている新鮮な砂原の姿がそこにあった。しかし、何故か僕に訝しむような目線を向けてきている。



「本当にさっき来たところ?」



 鋭いなぁと思いつつ、僕はそれが悟られないように自然に返す。



「本当だよ。どうかしたの?」


「いや、それにしては寒そうにしてるじゃない。手とか少し赤くなってるわよ?」


「え? …そういうことか。鋭いなぁ」



 僕は砂原の視線の先にある自分の手を見る。寒さで少し赤くなり、しかも手を無意識で擦り合わせていた。11月も上旬の今、そうなるには確かに時間がかかるだろう。

 こういうところにすぐ気が付くのは、素直に凄いと感じる。人間観察が得意なのかもしれない。


 僕は頭を搔きながら砂原に答える。



「やっぱり男が先にいたほうがいいかと思ってね。君が何時に来るか分からなかったから早めに来たんだ。まさかバレるとは思わなかったなぁ」


「別に今の時代、男だ女だというのは関係ないから、次からは大丈夫よ。寒い中待たせるのも悪いわ」


「それもそうだね。次はそうさせてもらうよ」



 僕はそう言うと砂原に手を差し出す。

 砂原は俺の手を不思議そうに見つめ、俺の事を不思議そうに見つめる。



「いや、手を繋いだ方が恋人っぽいかなぁと。手も冷たいし」



 不思議そうな顔をされた事に恥ずかしくなり、僕は頬を掻きながらそう言う。

 いつどこで誰が見ているのか分からないから、少しでも恋人感を出した方がいいと思ったのだ。


「手が冷たい」というのは照れ隠しでしかないが、砂原はその理由に納得してくれたようで、何度か無言で頷いていた。


 砂原は無言で僕の手を掴み、普通に手を繋ぐ。恋人繋ぎというのも、そこまで熱々なカップルでは無いため、普通に手を繋いで来てくれたことに安心した。



「じゃあ、行こっか」


「えぇ、今日はよろしくね」



 そう言うと、僕は砂原の手を引いて歩き出す。砂原は僕の斜め後ろを着いてきていて、意外にも楽しそうにニコニコとしていた。


 これは期待外れにならないようにしなければ、と思い少し不安にもなったが、今更別の案がある訳でもなかったので、諦めて最初の目的地へと向かう。


 砂原の手は思っていたよりも小さく、そして温かかった。




 ☆




 目的地の前で止まり、砂原はその場所を見つめる。



「……ここ?」


「うん。ちょうど今これやってたから」



 僕はそう言ってその店の前の看板を指差す。


 その看板には「スイーツ食べ放題! 90分3000円でいくらでも食べれます!」と書かれている。

 ネットで調べていて、偶然この店を見つけたのだ。パスタやケーキ、スイーツなどが食べ放題の店で、評判が良かったから来てみようと思ったのだ。


 ふと隣を見ると、砂原が身を乗り出して看板を凝視していた。目をキラキラと輝かせていて、どうやら間違ってはいなかったようである。


 昼休みに一緒に弁当を食べる時、ほとんど毎日スイーツを持ってきていた。

 たまに「体重が……」と小さく呟いて、持ってきたスイーツを前に葛藤している場面も見たため、今日はこの店を選んだのだ。



「入ろっか。ランチ限定だから、早めに入ろう」


「そっ、そうね! 早く入りましょう!」



 待ちきれないという様子で砂原は店に入っていき、僕はその様子を微笑ましく思いながら彼女の後について店に入る。

 店の中は当然女性の割合が高く、僕は少し居心地が悪くなってしまう。しかし、彼女連れの男性も一定数いたため、普通にふるまっている方が自然だろうと思い、僕はそう心がける。


 砂原は席に着くなりメニューを開き、目線を右往左往させていた。目を輝かせて口元が緩んでいるのを見ると、「完璧」というより「普通」の女子高生のように見えてくる。その様子に、僕は頬杖を付きながらつい「ふふっ」と笑ってしまう。


 砂原は僕をジロッと睨みつけ、「何よ」と呟く。それでもまだ口元が緩んでいたため、僕はその様子を更に笑顔で見つめる。



「何かおかしいかしら?」


「いや、ギャップって言うのかな。いつもの学校の雰囲気と違うから、これはこれで可愛いなと」


「……学校では可愛くないと?」



 砂原は少し不服そうにそう言う。 



「そうじゃないよ? ただ、微笑ましいというかなんというか……」


「それって子供っぽいから笑ってたってこと?」



 砂原は更に不服そうにそう言う。女の子って難しい。


 これがどんな感情か具体的に表現するのは難しいため、僕はゆっくりと話し出す。



「いつも学校では窮屈そうに見えるし、『完璧』っていう印象が強いからね。だからこうやってスイーツに目を輝かせているのに安心したって言うのかな。とにかく、子供っぽいからってわけじゃないよ」


「ふぅん。ねぇ、あなたも何か選んだら? どれもおいしそうよ」



 僕の回答に満足したのか、砂原は僕に向けてケーキのページを見せてくる。どれも生クリームなどが多く乗っていて、甘そうだ。僕は甘いものが得意ではないため、イチゴのショートケーキを一つとジェノベーゼを一つ頼む。

 砂原は食べ放題のコースを選び、最初から一気に10個くらい注文していた。90分のコースなのに、、そんなに飛ばして大丈夫なのだろうか。僕は少し心配になったが、砂原がやる気で満ちていたため、邪魔しないように黙って、彼女が次々に平らげていくのを見ていた。






「ーーふう、久しぶりにいっぱい食べたわ」



 満足したのか、砂原は椅子の背もたれに寄りかかってそう呟く。



「よくそんなに食べれるね。僕は甘いのが苦手だから、流石に厳しいかな」


「おいしいものとか好きなものって食べなきゃ損でしょ? 食べれるときにたくさん食べておきたいのよ」


「だからってこの量は凄いと思うけどね……」



 砂原は後半に勢いが少し衰えたものの、最終的には20個以上は食べていた。あまりにたくさん食べるため、途中からは数えるのを放棄してしまった。


 僕が見ていない隙に一皿食べ終わっているということもあり、店員さんも驚いているようだった。

 砂原はなんとも幸せそうにスイーツを頬張っていくため、僕としてもなんだか見ていて飽きなかった。気づいたら90分が終わっていて、腹8分目になっていたというところだ。


 砂原はあれだけ食べていた割には腹が膨らんでいるようには見えず、そういう体質なのかと少し驚いた。いくら食べても太らない人はいるため、彼女もその類なのかもしれない。



「じゃあ、会計済ませてくるから、外で待ってて」


「いや、自分の分は自分で払うわよ」


「……せめて割り勘でどう?」



 連れてきたのは僕なので、砂原に払わせるのは気が引ける。しかし、砂原が意見を曲げるとも思えず、僕は折衷案として割り勘を提案する。

 砂原は少し上を見つめてから、僕に向き直る。



「それで手を打ちましょう。後から何か言ってももう変えないわよ」


「分かった。それじゃあ、外で待ってて。後で割り勘しよう」



 僕は内心上手くいったと思いながら、砂原にそう返す。「後で分け方が楽だし」と付け加えて、砂原を納得させてから会計を済ます。


 どうにかして誤魔化そうと思いながら、僕は店を出た。




 ☆




「ーーさて、次の場所に行こうか」


「……ねぇ」


「次は少し歩くけど、大丈夫?」


「それはいいんだけど、ちょっと……」



 何か言いたげな砂原を無視して、僕は早速次の場所に向かい始める。……向かい始めようとしたのだが、袖を掴まれたため止まる。



「誤魔化そうとしないで。ほら、3000円」


「……誤魔化されてくれればいいのに」


「あとで面倒事が増えるのは嫌なの。分かったら大人しく受け取って」



 誤魔化せなかったことに苦笑しながら、僕は砂原から3000円を受け取る。

 砂原はどんな事に於いても面倒事に繋がることを嫌うらしい。これ以上やっても嫌がられるだけだと思い、僕は今後は砂原の言うことに従おうと思った。



「それで、次は何処へ行くの?」


「まぁ、隠すほどの事でもないかな。図書館だよ」


「へぇ、いいわね。ゆっくりできそう」



 僕も砂原も、あまり騒ぐのが好きな方では無い。テーマパークに行くよりも家で本を読む方が好きなタイプなのだ。

 ゆっくり本を読むには、図書館は最適だ。


 図書館は駅からは少し離れているため、僕達は並んで歩きながら図書館へ向かう。


 周りから好奇の目を向けられ、何だか気分が悪くなる。

 砂原のことを惚けて見つめる男たちも、同じく僕のことを惚けて見つめる女性たちにもイライラとしてくる。

 砂原も同じだったのか、砂原は僕の腕に捕まって僕にだけ聴こえる声で囁いてくる。



「私たちが付き合っているって分かっていても何であんな風に見つめてくるのかしら」


「仕方ないよ、諦めよう。……砂原は僕の彼女なのに」


「全くだわ。柳沢くんは私の彼氏なのにね」



 どちらもそこに恋愛的な意味が含まれていないことは分かっている。好ましいとは思うものの、好きかと聞かれると分からない。

 少なくとも、砂原は男避けとしても自分が女避けとしても完全には機能していないことに苛立ちを覚えているようだった。


 早くここを離れたいと思い、僕と砂原は早歩きで街中から逃げた。




 ☆




 図書館に入り、それぞれ何冊か本を選んでから人の少ない窓際の席に向かう。

 僕達は向かい合って座り、それぞれ本を読み始める。


 会話は無いものの、居心地は良かった。



 一時間ほど本を読んだ後、僕は一冊目を半分ちょっと読み終わった。

 少し休憩しようと思い顔を上げると、本に指を挟んだ状態で砂原が寝落ちしていた。


 食後に、日当たりのいい席で本を読むとなると、眠くなるのも当たり前だろう。僕は砂原の手から本を取り、栞を挟んで置く。

 砂原の寝顔を眺めながら、僕は独り言を呟く。



「たとえ愛が無くても、君とならやっていけそうだよ」



 砂原は何か寝言を呟いていて、寝ている時も可愛いんだなと思いながら、僕は一度外の空気を浴びに行く。


 少し冷たい空気を吸い込みながら、僕は少し考える。

 きっと、この関係は卒業まで変わることは無い。それまでの間、何事も無く過ごせることを願いたい。


 気分転換をしてから、僕はまた砂原の寝顔を見るために図書館に戻るのだった。

お読みいただきありがとうございました。


もし好評だったら、連載版として出そうと思います。連載する場合はあらすじの方に書くと思うので、よければブックマークよろしくお願いします。


評価感想頂けると嬉しいです。


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