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RDW+RTA ~リアルダンジョンズワールド プラス リアルタイムアタック~  作者: 相生蒼尉
第1章 『RDW+RTA ~リアルダンジョンズワールド プラス リアルタイムアタック~』
9/420

9 鳳凰暦2020年4月12日 日曜日 国立ヨモツ大学附属高等学校・中学校内ダンジョンアタッカーズギルド出張所


 現在の時刻は、僕の腕時計で9時35分。


「……有り得ない。どう考えても……ねえ、あなた、説明してもらえるかしら? 秘密保持の魔法契約とか、この異常な魔石の数とかの、今の有り得ない状況について?」


 僕の前にはなんだかちょっとお怒りの様子の、大人な女性の美女さん。まあ、カウンターを挟んではいるけど。なんで怒られなきゃならんのか、とは、正直、思ってる。もっと正直に言えば、ちょっとムカついてる。運悪く、いつもの先輩お姉さまじゃなかったから、こんな感じになったんだろうか? いや、いつものって言っても、先輩お姉さまも、一昨日知り合ったばっかりだけど。


 そして、僕の後ろには、おそらく女子高生の平均より小さい、背が低めの眼鏡っ子少女が、ちょっとビビった感じで僕の背中に隠れながらも、恐る恐る美女の顔を覗いている。そこはちょっと尊い気がする。


 ここはもう、あれだろうか? このパターンの鉄板のどっちかが、必要だろうか。


 あれぇ~、僕、なんかやっちゃいました~? の方が正解か? 魔石の数が多過ぎるって話だし。いや、でも、美女と少女にサンドイッチされてる状態だし、美女さんにキレられる理由も不明だし、どうしてこうなった……、も捨てがたい。


 ……僕としてはその怒りは理不尽だとは思うけど、美女さんが怒ってるみたいなので。それを煽ってもしょうがないし。こっちで。


 どうしてこうなった……。


 そして、それを語るのは驚くほどに長い、なっがーい話が必要になるのだ――。







 朝。僕は意気揚々と、7時の開門と同時に校内へ突入し、さらには小鬼ダンへと突入した。そして、昨日と同じようにトレインしながら、落とし穴落としをして……。


「……また2匹のゴブリンを見逃してしまった」


 またつまらぬものを斬ってしまった風に口に出してみたけど、正確には見逃したのではなく、逃げられた、が正解だ。無念。気持ちを切り替えて、落とし穴の底へ入り、瀕死のゴブリンのトドメを刺してドロップを回収。そして、7時19分。隠し部屋へと、突入。さあ、やろうか、ゴブリンソードウォリアー。


 ……と、思っていたのだけど。


「あれ……? いない。リポップしてない……?」


 隠し部屋の中にはゴブリンソードウォリアーがいませんでした。あれ?

 よく見ると、宝箱もふたが開いたままの状態。


「……やっちまった。宝箱開けたら完全終了だったか。しょうがない。ボス部屋、行くか」


 僕は隠し部屋を出て、3層通路で何匹か仕留めつつ、ボス部屋に突入してゴブリンソードウォリアーを倒して魔石を回収すると、すぐに入口へと転移した。

 小鬼ダン、入ってすぐの転移ポイントで腕時計をチェック。7時25分。


「……ボス狩りの効率が落ちすぎだろ。宝箱、開けるんじゃなかった。1層のトレイン、やめるか? でも、挑発しなかったとしても、追いかけてくることはあるよな? 結局トレインになったら、落とし穴落としで処理する訳だし、それなら挑発した方がわずかとはいえ、ドロップは多いし……マジックスキルで処理すると……ダメだドロップが……」


 とりあえず、もう1度、同じように動いてみる。そうすると――。


「……また2匹、逃げた」


 そこは同じでなくても良かったのに、トレインからまた2匹、逃げられてしまう。次はもうちょっと工夫するか? 手前からじゃなくて、先に回り込んで……。


「いや、それよりもボスボスっと」


 落とし穴の底から、隠し部屋へ。


「やっぱりダメか……」


 実は期待してました。可能性はゼロではないと。でもダメ。リポップ、してません。


「よし、切り替えてボスボスっと」


 3層の通路とボス部屋で戦って、転移陣でスタート地点へ。腕時計は7時48分。


「時間もあまり詰められてない。数をこなせないから、ドロップも……。面倒だから月曜にギルドへって思ってたけど、もう小鬼ダンは卒業して犬ダンに進むか? 魔石は足りてるはずだし。あー、くそ。バスタードソードは美味しいのに。……って、そういや学校のギルドは9時半からか。外の一般のギルドなら24時間……だけど、小鬼ダン卒業前だと学生は利用できない、はず……Hは学生ランクだからな。小鬼ダン卒業って、どう考えても一般のGランクよりはるかに上だろうに。外で学生に死なれたら学校も困るから、こういうのはどうしようもないんだろうな。あー、昨日の帰りに、ギルド行っとけばって、後から言ってもしょうがないことばっかりだな……ギルドの時間まで周回するか……」


 ふぅ、と息を吐いて、僕は再び走り出した。


 ゴブリンを挑発しては引き連れ、挑発しては引き連れ、を繰り返し、10匹以上をトレインしながら、いつもの分かれ道を曲がった瞬間――。


「どうしてわたしばっかりこんな目に遭うんですかぁっ! もう嫌ですっっ! やめて下さいっ! 近寄らないで下さいっ!」


 ――という、まるでレイプ被害寸前のような悲鳴が聞こえて、ほぼ同時に、前に2匹、後ろに2匹で、合計4匹のゴブリンに囲まれている、身長低めの眼鏡っ子を発見した。


 必死でショートソードをぐるぐる振り回してゴブリンを近づけないようにしているけど、それだけだ。あれは攻撃じゃない。でも、近付けたくないのなら正解。


 そんなところに、大量のゴブリンをトレインしている僕が近づいてくる訳なんだけど。


 眼鏡っ子は、ショートソードを必死で振り回しながら、僕に気づいて、嬉しそうに目を見開きつつ、叫ぶ。


「助けてくだ……え……」


 その叫びは力を失い、一転して、眼鏡っ子は恐怖に引きつった表情で、より大きく目を見開いていく。もう眼鏡のレンズより大きくなっちゃうかも。僕の後ろのゴブリントレイン、見たんですよね。わかります。ごめんなさい。


 そして、そのまま白目になったかと思うと、糸の切れた人形劇の人形のように、ぐらりと崩れるように倒れていった。


「それはダメだろう……」


 せめてあのままショートソードを振り回していてくれれば、この場でまとめてゴブリン退治ができたのに。まあ、気を失ったのはトレインしてきた僕のせいか。


 気を失った状態だと、相手がゴブリンでも殺されかねない。僕は加速して、後ろのゴブリンを引き離しつつ、武器をウエストポーチに片付けて、一気に眼鏡っ子のところへ飛び込み、眼鏡っ子を庇うようにしながら抱き上げる。ドン、ドン、ドン、と3発ほど、ゴブリンから棍棒で肩や背中を殴られたけど、それは無視して眼鏡っ子を抱き上げつつ、ゴブリンの包囲を突破して、走り出す。当然、トレインに4匹のゴブリンが追加される。


「……ダメージはほとんどない感じなのに、痛みだけはしっかりと感じるってのは、レベルアップで超人になっても人間らしくいられるようにって、神の意思か何かかな? 痛みも消せよ……頭、やられてないよな、この子……」


 あの叫んでた感じだと、別の意味でもう頭がやられていそうだけど、とは口に出さなかった。


 そのまま、いつものように落とし穴のところまで行って、落とし穴の向こう側に眼鏡っ子を寝かせて、ロープをセットして、タイミングを合わせる。


 眼鏡っ子がいることを除けばいつも通りだ。ゴブリンが次々と落とし穴へと落ちていって、5匹、向こう側に残る。


「……僕が向こうに行って戦ってる間に、こっち側からゴブリンがくると、ダメだな」


 僕は対岸で騒ぐゴブリンを見つめながら、いつもとは別の手段を選択する。


「ゴブリンにはオーバーキルだけど……」


 胸の前で、横に3つ並べて、火、風、火、の簡易魔法文字を手で描く。そして――。


「ファイアストーム」


 騒ぐゴブリンが炎に巻かれて、騒ぎ声が消え去り、炎が消えて魔石だけが落ちた。

 第2階位のマジックスキル『ファイアストーム』だ。小鬼ダンなら、ボスでさえこれ1発で終わる。昨日の朝はMP不足で無理だったけど、昨日1日ボス狩りした今は余裕だ。


 僕は助走もなく壁へと跳んで、壁をひと蹴りすると、対岸へ渡った。そして、魔石を回収して眼鏡っ子の方へとまた、跳んで戻る。


「……助走なしでできるようになった。レベルアップとステータスの上昇は、もう間違いないな。それに、最初からこの方法だったら、ゴブリン逃がさなかったかな? いや、最初の時はMPが絶対に足りないな。ボス狩りしたから、今はできるんだし。それにしても、この子、目、覚まさないな」


 僕は軽く、眼鏡っ子の頬を叩いた。全然目覚めない。


「抱えたまま戦うのはなかなか難しいし、どこか、安全なところは……あるな、あそこに」


 僕は眼鏡っ子を脇に抱えて、ロープを使って落とし穴の底へ降りる。片手で降りられるのは筋力が高くなったからだろう。すごいぞレベルアップ。


 瀕死のゴブリンにトドメを刺して、眼鏡っ子を一度寝かせて、ドロップを回収。上で拾った分と合わせて魔石は19個。これまでで最大のトレインだ。


「隠し部屋なら、この子もゆっくりできるだろ。モンスターもポップしないし」


 眼鏡っ子をお姫様だっこして、背中を隠し扉に当てる。


「回転扉は脇に抱えてると難しいからこうしたけど、これ、顔が近いな……帰りは肩に担ごう」


 ぐるり、と回転扉を動かして、隠し部屋に入る。


 それは、完全なる、僕の油断だった。


「……え?」


 そこには、ゴブリンソードウォリアーが、いた。


「なんで……って、それどころじゃ……」

「グゥギャオオオオオゥゥッッ!!」


 いつもの『ローハウリン』の雄叫び。簡単にレジストできるはずの……なのに、体に震えがくる。


 う、嘘だろ、な、んで……。


 バスタードソードを振り上げたゴブリンソードウォリアーが近づいてくる。


 震えながら、眼鏡っ子を左腕で巻き込むようにして抱きしめて、ゴブリンソードウォリアーに背中を向ける。絶対にやりたくないことだけど、今は他の手段が思いつかない。そのまま震える右手をなんとかウエストポーチへ伸ばす。


 右上から袈裟懸けに背中を斬りつけられる。


「ぐあっっ」


 痛い! 痛い痛い痛いっ!


 ウエストポーチの中へ何とか手を入れる。


 今度は、左上から、やられる。


「ぶぐっっ」


 い、痛すぎて……死にそう……。


 そこで、どうにか目当ての物を手にした。空色に黄色のマーブル模様が入ったソフトボールサイズの玉にあるぽっちを押して、そのまま背後へと転がす。それと同時に両腕で眼鏡っ子を抱きしめて、ぎゅっと目を閉じる。


 バンっ ババンっ、バンバンバンっ、ドガンっ、ドンドンっ!


 目を閉じていても、視界が白くなる。


 リアル閃光轟音玉、マジぱねぇ……。


 音が止んで、目を開く、耳はキーンという何かしか聞こえない。


 眼鏡っ子をそっと寝かせて振り返ると、スモールバックラーシールドを捨てたゴブリンソードウォリアーが、もがきながらバスタードソードを振り回しつつ、盾をなくした左手で目を押さえている。口が激しく動いているけど、何を言ってるのか、全然わからない。聞こえないから。あ、そもそもゴブリンの言葉とか最初からわからんな。


 ……と、とりあえず、ライポ。


 ウエストポーチから取り出したライフポーションを一気飲み。今は味わう余裕はない。でも味は微妙だ。なんだこれは? 青汁系にしては……?


 そして、バスタードソードとメイスを取り出して、一時的にだけど視覚と聴覚を奪われたゴブリンソードウォリアーへと走り寄る。


 そのまま背後へと回り込み、斬りつけ、殴りつける。ゴブリンソードウォリアーも攻撃されれば、こっちを向こうとする。でも、僕も回転するように、ゴブリンソードウォリアーの背中側をキープして斬りつけ、殴りつける。すぐに、ゴブリンソードウォリアーは魔石に変わっていった。


「……こんな簡単に倒せるのに。精神的な不意打ちは抵抗力があってもレジストできないこともあるのか。いい勉強にはなったけど痛すぎ。こんなに痛い思いして魔石だけとか精神的に大赤字。そもそもなんでリポッ……え? 宝箱、戻ってる? あれ?」


 僕は復活している宝箱を見下ろした。


「時間的なもの? ここのモンスターのリポップは5分だけど、宝箱はもっと長い時間がかかるとか? いや……」


 朝から2回、隠し部屋は空き部屋だった。その時と今の違いは、間違いなく、眼鏡っ子。


「……この子がいるから宝箱がリポップしたと仮定して。なら、5分でボスもリポップするのか? でも、この子がこの状態で確認するのもちょっと。あ、今、何時だ? 8時8分? ガイダンスブック、入れてあったはず。あった。保健室、保健室は……休日の保健室は8時半からか。今から出たら、ちょうどいいか? いや、でも……1回だけ……」


 僕は欲望に負けて、1回だけ、リポップを確認するため、と心の中で言い訳して、その場で5分待ち、リポップしたゴブリンソードウォリアーを無敵時間で瞬殺した。


 それから、全然目を覚まさない眼鏡っ子を肩に担いで――回転扉だけはお姫様だっこで――3層の通路の敵はボス部屋前までトレインしてから倒し、ボス部屋のゴブリンソードウォリアーは背中をやられた仕返しのように八つ当たりで倒し、転移陣で入口に戻った。






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[良い点] 不意打ちならフィアー掛かるとか、リアリティが有って手に汗握る。 凄く面白いです。 [一言] こっちがヒロイン?
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