30 鳳凰暦2020年4月15日 水曜日昼休み 国立ヨモツ大学附属高等学校1年1組
私――浦上姫乃は昼休み、学生食堂でからあげ定食400円とささみあげ定食350円で悩んで、ささみあげ定食を選んで食べた。ポン酢がすごく合っていた。
昨日のように魔石9個が続くのなら、いつかはとんかつ定食500円にも手を伸ばすかもしれない。
どうしてウチの学生食堂は安くて美味しいのか、夏休みにあるという課題研究レポートのテーマにして、レシピが手に入らないだろうか。ダンジョンとの関係はなきにしもあらずというところ。テーマとして認められるかは微妙だ。
食後に教室へ戻るタイミングが、寮でよく話す外村とその附中仲間たちの直後になった。
外村たちがお弁当を食べている平坂と設楽のところへ近づいて、話しかけた。
「モモっち~、モモっちのおなしょー彼氏が大変だよー」
「鈴木くんが、呼び出されてたのって、無理矢理、女の子に、その、なんかやっちゃったらしくて……」
「あの人、やばい人だったのね。話を聞いてびっくりした」
「学年最下位の女の子に、おれの言うことを聞けば助けてやるって感じで押し倒したって! 脅迫とかサイアク」
「日曜日に女の子、肩に担いで連れ去ってたって。しかも血だらけで」
「あと、女の子と二人でダンジョンにいたって。その時にやったんじゃないかって話で」
……確か、名前も知らない先輩が血だらけで女の子を担いだ男の話をしていた気がする。あれは鈴木のことだったのか?
しかし、それが仮に鈴木だったとしても、鈴木が女の子をどうにかするとは思えないが? 入学2日目の放課後に、ひたすら素振りを続けるような男だ。誤解だとしか思えない。
そんなことを私が話を聞きながら考えていると、平坂と設楽がほぼ同時にがたんと椅子の音をさせて立ち上がった。設楽も何か言おうとしていたが、先に勢いよく口を開いたのは平坂の方だった。
「みなさん、何をふざけたことを言っているのでしょうか。そのようなことは有り得ません、絶対に、です。外村さん、附中ダン科三席として、そのような不届きな噂をばらまいた者をすぐに確認して下さい。細かく情報を集め、犯人を、たとえ何人であったとしても、明確に、言い逃れができないようにしておいて下さい。大至急です。職員室へ自首させる方向で動いて下さい。附中ダン科の1年女子にはすぐに動くように指示を出して構いません。私は職員室へ向かい、彼の無実を証明します」
……誰だ? 平坂? いや、平坂だ。しかし、いつもと全然口調が違うのだが?
その平坂が設楽を振り返った。
「彼と同じ中学校だったあなたなら、彼はそんな人ではないとわかるはずです。そうですよね?」
「うん……」
「あなたは私と職員室まで来てください、では、動きます。みな、急いで」
……今の平坂はいつもの元気で明るい平坂とは少し違って、本当に清楚華憐なお嬢さまという言葉がよく合う気がする。元々、平坂の見た目はそっちの方が合っている。
「モモっち、スイッチ入っちゃたかぁ。センセ、かわいそ。みんな、動くよ」
外村がそう言って、にやりと笑った。
……わざと平坂を煽った? 外村が?




