25 鳳凰暦2020年4月14日 火曜日朝 通学路
今日は設楽と約束をした火曜日の朝です。
私――平坂桃花が視線を向けると、角の潰れたタバコ屋の前では、設楽が鼻歌を歌いながら、楽しそうに待っています。
あのようないわゆる陽キャな感じの中身なのに、髪型は地味目なお下げをふたつ、ぶらんとさせているのです。しかも実際は剣道少女というのですから、これは『小説版ドキ☆ラブ』でいうならヒロインのサポート役となっているギャップ少女、新このはのようなものでしょうか。どうせなら私が彼をじっくりと観察するためのサポート役になって頂きたいものです。
「おはようー、設楽さん」
「あ、おはよっ! へへ、楽しみ過ぎて早く来ちゃった」
「本当に時間が早くなるのは気にならないんだねー」
「うん、もちろん。あ、待つのも楽しいよ」
「そーなんだね。じゃ、行こっか」
「うん」
……正直、小学校以来の、誰かとの登校です。本当は、彼の観察をしながらそれを実現させたかったのですけれど、これはこれで、心が浮き立ちます。
でも、設楽さんは私にとって、重要な公立中の情報源です。情報収集は必要です。
「そういえば、この前ー、北中には遅刻する人もいたって言ってたよねー」
「いるいる。え? 附中は、いないの?」
「ほら、附中のダン科は、ほとんどが寮生だから。今の高校とは違う、中学の寮の方だけど、中学の寮では朝ごはんはみんなで頂きますして食べるんだよねー。だから、みんなと一緒に行動するから、遅刻とかないんだなー、これが」
「へー」
……違います。こうではありません。これでは私が附中について情報収集されているではありませんか! いえ、そのような情報はいくらでもお譲り致しますけれど!
「だから遅刻する人って、どんな感じなのかなーと思って」
「うーん、総じていい加減なタイプが多いと思うなー」
……彼はいい加減なタイプとやらでは絶対にないと思います。
私の脳裏に、小学校5年の時の林間学校で、川遊び用に持ってきたはずのゴーグルをなぜか飯盒炊爨のカレー作りに持ってきたと思ったら、そのゴーグルを着用してタマネギを切り始めた彼が浮かびました。ええ、そうです。絶対にいい加減なタイプとやらではありません。準備万端にしてから物事に望むタイプだと思います。
では、なぜ昨日は、あのようにギリギリの時間に……?
会話しながら歩く時間は楽しく、あっという間に教室までたどり着きます。設楽さんに気づかれないようにちらりと視線を向けましたけれど、今日も彼はいませんでした。
そして、また、ギリギリの時間にやってきたのです。
……まさか、中学校で彼は、いい加減な人へと変わってしまったのでしょうか?
まあ、この後、1時間目が始まる直前にいろいろあって、その騒ぎでそれどころではなくなってしまったのですけれど。




