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RDW+RTA ~リアルダンジョンズワールド プラス リアルタイムアタック~  作者: 相生蒼尉
第2章 『RDW+RTA+FUCHU+FUTSU act H3 ~3人のヒドインたちによる、附中とフツーの物語~』
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16 鳳凰暦2020年4月11日 土曜日午前 小鬼ダンジョン その1


 あたし――設楽真鈴のパーティーは、あたし、平坂さん、附中普通科からの転科組の雪村さん、一般の田丸さんの4人。成績順という座席で考えると、平坂さんは附中ダン科の首席、あたしが推薦首席、雪村さんは附中転科の6席で1組では最下位、田丸さんは一般12席で1組ではやはり最下位、となる。

 あたしがこのパーティーに加わったのは後からだったから、附中ダン科首席の平坂さんがクラスで最下位の二人の世話をするためのパーティーなのかな、とか勝手に思った。たぶん、間違ってないと思うなー。


 クラスに35人いて、普通は4人パーティーだから、ひとつだけ3人パーティーになる計算だもんね。ソロでやりたいと言い出した人――月城くんと浦上さんがいて、あと、いつの間にかいなくなった鈴木くんがいて、いなくなったのにいてとか変だけど、とにかく、余ってたあたしを受け入れられるパーティーが平坂さんのところで良かった良かった。


 まあ、それでも、雪村さんと田丸さんだって、クラスでは最下位でも、1組には選ばれてるんだから、入試の成績自体は悪くないだろう。


 こんなメンバーだから、自然、パーティーリーダーは平坂さんになる。当然ではある。それに、それが最初の頃の附中ダン科出身の人の役目らしい。


「ではまず、いくつか、確認するねー。パーティーの守秘義務について。パーティーで共有した攻略情報は他へ漏らさないこと。これは、一般のダンジョンアタッカーなら、秘密保持の魔法契約まで結ぶものだから、当然の常識だよねー」


 平坂さんの言葉にうなずくあたしたち。


「次は分配。パーティーの分配は等分が基本だよねー。で、端数が出たら、次回へ持ち越す、もしくはパーティーの資金があるならそこへ加えるってのがフツー。ここまではいいかな?」


 もちろん、うなずく。


「でもこのパーティーでは、端数はリーダーの私が受け取りまーす」

「え、そんなの平坂さんの横暴じゃない?」

「横暴とまでは言わないけど、こっちの了解なしで言われるのはちょっと」


 二人が反論してるけど、あたしは納得。


「……正直、このパーティーだとあたしも含めて、平坂さん以外は今までゴブリン1匹だけだよね? リーダーも任せるし、平坂さんが端数は受け取っていいんじゃないかな?」

「それは、わかってるけど……」

「一方的なのは、ちょっと……」

「うん、わかってるよねー、それに横暴かもねー。でも、終われば納得するよ、たぶん。三つめ、パーティーでの行動中はリーダーの指示に従うこと、これもまあ、フツーだよねー」


 そこにはみんなうなずいた。


「じゃあ、入ろうか。先頭は私で、ダイヤね。ダイヤっていうのは、前列1、中列2、後列1の隊形のことね。中列に右、田丸さん、左、雪村さん、後列に設楽さんね。中に入ったらすぐ、そうするようにしてねー」


 言われた通りの隊形で、平坂さんに続いて進む。ゴブリンが現れたら、平坂さんがタンクとして攻撃を受け止め、中列右の人が攻撃して倒す。1度戦えば、平坂さん以外の3人で時計回りにポジションを代える。

 平坂さんは分かれ道でも迷いなく進んでいく。その背中を信じて歩くのはとても楽だ。

 やがてあたしたち3人は、ゴブリンを5体ずつ倒した。


「……緊張したけど、終わった」

「なかなか、疲れるね」

「確かに」

「え、何言ってんの? これからだよ、これから。はい、交代してー、進むよー」

「え、でも、平坂さん、さすがに、制限回数だよね? ここから戻らないと……」

「リーダーの指示に従ってくださーい」

「え?」

「さすがにそれは」

「従えないなら、自分で帰るー? まだダンジョンのこと、ほとんど知らないのにー?」


 平坂さんが馬鹿にするような目でこっちを見て、挑発するように、からかうようにそう言った。

 まだ数日しか知り合って日が経っていないけど、こんな平坂さんは初めて見た。


「入る前の話、聞いてたかなー? リーダーの指示には従おうねー」


 そう言ってさっさと歩き始める平坂さん。

 あたしたちは離れていく背中を見て、顔を見合わせると、それについて行った。二人は、不機嫌そうな顔を隠そうともしない。

 それからさらに3匹ずつゴブリンを倒して、初心者の限界と言われる10匹まであと2匹となったところで、行き止まりにたどり着いた。


「平坂さん、行き止まりだよ?」

「だねー」

「え、道間違ったの? だっさ」

「しっかりしてよ、首席なんでしょ?」

「うんうん。いい反応だねー。じゃ、戦闘準備。右に田丸さん、左に設楽さん、後ろに雪村さんね。私は釣ってくるから、ここからは動かないように。油断もしない。まあ、行き止まりだから、後ろからの不意打ちはないから安心してねー」


 そう言って、平坂さんは、来た道を走って行き、あっという間に見えなくなった。


「……え、マジ?」

「置き去り? いや、ちょっと嫌味言っただけで……」

「違うと思うよ。釣ってくるって、言ってたから、たぶん、ゴブリンを連れて戻ってくるんだと思う」

「それ、ホント、設楽さん?」

「じゃあ、まだ戦うの? もう8匹ずつ、戦ったよ? 危なくない? 制限を守らないと死ぬかもしれないんだよね? 実際、何年かに1度くらいはニュースになってるし」

「……とにかく、今は平坂さんの言う通りにするしかないと思うけど」

「言う通りにしてこんな目に遭ってんだけど……」


 雪村さんがものすごく嫌そうにそう言った瞬間――。


「はーい、2体、ごあんなーい、右は私がタンクで田丸さん、左はそのまま設楽さんで」


 平坂さんは、ゴブリンを2匹、行き止まりへ引っ張ってきた。

 あたしはびっくりした。タンクなしだ。


「平坂さんっ⁉ タンクは⁉」

「設楽さんなら単独できるよー。集中してねー」


 まさか、単独でやらされるとは……と思いつつも、できる自信はあった。

 そして、その自信の通り、ゴブリンの棍棒を躱すと同時に面への一撃で倒した。隣はまだ、田丸さんが倒せていない。ただ、平坂さんがゴブリンの攻撃を余裕で受け止めているので、危険な感じには見えなかった。


 次は交代を、と思ったが、田丸さんと雪村さんの交代を指示して、あたしはそのままだった。

 そして、また、平坂さんが2匹を引き連れて戻ってきて、あたしが左側を単独で倒して、右側を平坂さんがタンクで雪村さんが倒すまで眺める。


「よーし、じゃ、前は設楽さん一人、後ろは右に田丸さん、左に雪村さんねー」

「ちょっと待って平坂さん! 設楽さんはもう10匹になったよ! 危ないよ!」


 田丸さんが抗議する。


「どこが?」

「え?」

「どこが、危ないの?」


 平坂さんにそう言われて、田丸さんがあたしを見た。


 ……確かに、なんともない。10匹は初心者の限界のはずなのに。


「見たらわかるよねー。じゃ、釣ってくるねー」


 そう言って、平坂さんは走り去り、また2匹のゴブリンを連れてくる。


「左は設楽さんねー、右は私がタンクで待つから、左を倒したらそのまま右を狙ってねー」

「えっ⁉」

「もう、いちいち驚かないで指示に従ってよねー」


 そう言った平坂さんはもうこっちを見ていない。仕方がないので、左を一撃で消し去り、すぐに移動して右も斬り伏せた。


「じゃ、左に設楽さん、右、田丸さんで準備ねー」

「ちょっ……」


 田丸さんが声をかけようとしたけど、平坂さんは走り去って行く。

 田丸さん、雪村さんが倒して10、私は14だ。


「じゃ、また、前に設楽さん、後ろに二人ねー」

「でも、もう限界の10匹だよっ!」

「危ないでしょっ!」

「何言ってんのかなー? 10体で、限界じゃないって、今、この場で証明されてるよね? 設楽さんはもう14体だけど? 二人も、何か、無理そうな感じには見えないんだけど?」


 反論できなかった。


 次はあたしがまた2匹とも倒して16、そこから2回、田丸さんたちと一緒に倒して、18と11、またあたしが2匹で20、田丸さんたちと倒して22と12、あたしの方が10匹、多い。


「いや、さすがに設楽さんの負担が大きくない?」

「10匹も多いのは大変だって」

「そう? そこまで言うなら、次は設楽さんと田丸さんね」


 あたしが戦うのは変更がないみたい。でも、できないとは思えない。

 あたしが26匹、田丸さんたちが14匹で、その次。田丸さんの15匹目までは問題なく動いていたけど、雪村さんが15匹目を倒して、息が荒くなって、膝をついてしまった。


「雪村さん⁉」

「よーし、限界は15体だねー。二人は雪村さんを後ろの壁際でゆっくり休ませて。完全に寝かせるのはだめ。背中を起こしてもたれて、膝は立てさせておいて。じゃ、次、釣ってくる」

「待ちなよ、平坂さん! 雪村さんがこんなになって、なんとも思わないの!」

「何言ってんの、田丸さん。こうするのが目的だったんだから、当然でしょ?」

「は? アンタ、あたしらを殺す気なワケ?」

「そんな訳ないでしょー。なんでクラスメイトを殺人鬼にするかなー。初日に限界、見極めないと、明日からどうするの?」

「そんなの、決められた5回の制限を守って……」

「2組とか3組とか4組には、まじめにそうやって、あの回数を守ってる人もいるかもねー」

「え?」

「いい? あなたたちが平均的な限界じゃなくて、自分の本当の限界を確かめられるのは、私が一緒に活動する、今だけだよ? 安全に、死なないように、きっちり守ってもらえる附中の首席がリーダーで、不意打ちされなくて、ゴブリンを釣ってきやすい、行き止まりという狩場。そういうの全部、私がいるからできるんだよ? 田丸さんこそ、自分の本当の限界も知らずに、どーするつもりなのかな? 4月中のどこかで、すぐに私とは別のパーティーになるんだけど?」

「え、そうなの?」

「当たり前でしょ。私とかトムとか、本来はもう3層が狩場なんだけど?」

「3層……」

「今は親切に教えてあげるサービス期間。文句ばっかりで本気で聞く気がないなら、パーティーが変わってから、のんびり5回ずつでやればいいけど?」


 平坂さんの言葉に田丸さんが黙り込む。


「今日はさっきの雪村さんみたいに潰れるまでやるから。そこで妥協したら先がないけど、それでもやらないの?」


 田丸さんは、平坂さんをにらみつつも、その言葉にはうなずいた。


 次に平坂さんが戻って、田丸さんが16匹で雪村さんのようにダウン。あたしが壁際へ運ぶ。あたしはこれで29匹。


「驚いたなー。かなりイクとは思ってたけど。じゃ、次、釣ってくるねー」


 平坂さんはあれだけ走ってるのに平然としている。

 あたしは疲れを感じてはいたけど、それ以上に興奮していた。ダンジョンが楽しい。


「さ、2匹来るよー、イケるかなー」


 平坂さんが右をタンクで受け持ち、あたしは左のゴブリンを倒す。そして、右を――そう思ったけど、体が思うように動かない。でも、そこにゴブリンがいる。倒さないと……。


「そこまでだね」


 動かない足を無理矢理動かして、ゴブリンに斬りつけようと近づいたけど、その前に平坂さんがメイスで殴ってゴブリンを倒した。


「たぶん、かなりできるとは思ってたけど、まさか30体までとはねー」


 そう言いながら、平坂さんはあたしを支えて、壁際へと歩くのを助けてくれた。


 ……これが、先生の言ってた、スタミナ切れ。


 何も知らずにこの状態になったら、ゴブリン相手でも殺される。そう、心から思った。


 現在の討伐数、あたし30、田丸さん16、雪村さん15、平坂さん1。合計62。でも、動けないのが三人、ここにいます。かなりダンジョンの奥だと思うけど、コレ、大丈夫なの?







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― 新着の感想 ―
[一言] 私――〇〇〇〇は、の出だしが無いと誰目線なのか伝えられないのはキツイと思います。 視点がコロコロ変わる上に一度やった話は別人視線とは言え読んでて退屈です。 新しい発見というか主人公目線じゃ分…
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