9 鳳凰暦2020年4月10日 金曜日昼休み 国立ヨモツ大学附属高等学校・中学校占有・平坂第7ダンジョン――通称、小鬼ダンジョン、その、前の広場
思い切って浦上さんに声をかけて良かったーっ! 平坂さんに続けて、新入生代表の浦上さんとも仲良くなれるといいなー。
あたし――設楽真鈴は浦上さんと並んで歩きながら、平坂第7ダンジョン――通称、小鬼ダンジョンの、その前の広場へ向かって歩いていた。
「……その、カラオケは、みんな参加してた?」
「あー、不安になるよねー。でも、正直なところ、カラオケに来た全員と話せた訳じゃないから、よくわかんないかな。あ、少なくとも鈴木くん……ウチのクラスの廊下側の一番前の人だけど、あの人は来てなかったなー」
「そう……」
「浦上さん、アーチャーになりたいんだよね? 最初は大変だなー」
「仕方ないことよ。確かに、ガイダンスで言われたように、最低限の近接戦闘の技術は命を守るために必要だもの」
「それはそーだよね。それでも、大変だと思うな」
あ、そういえば、入学式の日、浦上さん、鈴木くんに話しかけてたような? 聞いてみよっと。
「そういえば、入学式の日、帰る前くらいに、浦上さん、鈴木くんに何か、話しかけてたよね? 何、話してたの?」
「見てたの⁉」
「あー、うん。たまたま?」
……たまたまではないけど。いろいろと心配でちらちらどころかジロジロ見てたし。
「……ちょっと、それは……恥ずかしくて、言えない……」
「え、まさか恋愛的な?」
「ち、違うわよ!」
「あ、違うんだ」
「違います」
「そーなんだ。でも、恋愛系じゃない恥ずかしい話って、なんだろ?」
「お願いだから悩まないでくれる?」
「うーん……黒歴史的な感じなのかな……?」
「黒歴史……それよりも、どうしてあの瞬間を、設楽さんはたまたま見ていたのかしら?」
……うひゃ、それ、聞いちゃうの⁉
「……まあ、そっちを見てたのは、単に、鈴木くんが、同じ中学の人だったからなんだけど」
「え? 同じ中学? ここだとそれ、すごく珍しいんじゃないの?」
「そーだよねー。教室で鈴木くんを見つけた時、三度見したもん」
「三度見……」
「そ、二度見じゃなくて三度見。実際はその後も、なんでこの人ここにいるの? って感じで何度も見ちゃって、その時にたまたま、浦上さんが話しかけたのを見たんだよね」
「そういうことか……」
……よし。ごまかせたな、うんうん。ダメ押しで話題転換も。
「あ、そういえば、カラオケで附中の人が話してたけど、平坂さんと鈴木くんは、同じ小学校の出身らしいよ?」
「……それならあなたも同じ小学校になるんじゃないの?」
「ウチの中学校は3つの小学校から人が集まる学校だったんだよね。だからあたしは別の小学校」
「平坂さんは学級代表で、確か自己紹介で地元だと言ってた人よね? つまりクラスに地元の生徒が3人もいるってこと?」
「そーなるねー」
「驚きね……カラオケ、遅れてでも行っておくべきだったかしら……」
「別に、今からみんなと話して行けばいいんじゃない?」
「そうね。ありがとう」
そうお礼を言って笑った浦上さんがスーパー美女! 美人の笑顔って、すごい!
うわー、女神美少女の平坂さんに続いて、スーパー美女の浦上さんとも話せるなんて、あたしの高校生活って、スタートダッシュが完璧なんじゃないかな? 問題はあたしがそばかす地味子なことかも。一緒にいると釣り合わない感じがすごい。う、心にちくりと棘が刺さるなー。
そのタイミングで小鬼ダンジョン前広場に到着したら、そこには平坂さんがいた。スモールバックラーシールドを肩に背負って、腰にメイスを吊り下げた平坂さんはまるで戦女神だ。すごい、なんか、神々しい……。あ、ちょっと緊張してきたかも……。今からダンジョンで戦闘だった……。
「あ、平坂さん、やっほ……」
「設楽さん、よろしくー。浦上さんも」
「ええ……」
うわー、平坂さん、自然体だなあ……それと、平坂さんと浦上さん、この二人が並ぶと絵になるなあ……。あ、また、あたしの場違い感がものすごいことになってるかも……。
あたしは初ダンとか、初戦闘とか、そういうものに全然関係ないところで、密かに凹んだ。




