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RDW+RTA ~リアルダンジョンズワールド プラス リアルタイムアタック~  作者: 相生蒼尉
第2章 『RDW+RTA+FUCHU+FUTSU act H3 ~3人のヒドインたちによる、附中とフツーの物語~』
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5 鳳凰暦2020年4月9日 木曜日放課後 国立ヨモツ大学附属高等学校訓練場中遠距離訓練室


 昼休みにギルドでショートソードとショートボウをレンタルした私――浦上姫乃は、放課後、ガイダンスで説明があった訓練場へと足を踏み入れた。どうしても、和弓と、ダンジョン武器であるショートボウが余りにも違うので、早くその感覚を掴みたいと思ったからだ。


 アーチェリーの映像は見たことがあった。全身の筋肉と関節を意識して大きく引き分ける弓道の和弓と違ってずっとコンパクトで、勝手も指を放すだけ。イメージの修正が必要だ。

 ダンジョン武器のショートボウは、不思議な形状をしていて、矢を番える弓把の少し上の辺りがS字になっていた。そのS字のところに矢を通して番えるのだ。


「……角見を意識しないでもまっすぐ飛ぶのかしら? 手の内も変わるし。弓の強度もこんな形で大丈夫なの? まあ、とにかく、やってみるしかないわね」


 そこからは夢中になって矢を放った。

 しばらくは接近戦のみ、という説明がガイダンスであったにもかかわらず、思わずショートボウに夢中になったのだ。弓は本当に好きだ。自分だけの世界に入れるから。

 ただ、ガイダンスでは、弓を主武装と考えていても、ダンジョンでは近接戦闘を避けられない。だから最低限の接近戦ができる力を身に付けておくため、しばらくは弓以外でやれ、だそうだ。


 我ながら、的を狙い、それに中てるということが好き過ぎて、少し恥ずかしくなる。中学の弓道部の人たちからは的中ジャンキーと呼ばれていた。


 ショートボウは、引き分けるというよりただ強く引く感じ、弓返りという弓の回転は必要なく、押手はしっかり支えるだけ、ただほんの少しだけ狙ったところよりも右に、わずかに右にズレること。おそらくそれは放した瞬間にわずかに矢と弓が接触するからだということ。

 それを意識すれば25メートルから30メートルぐらいまでなら必中というところか。


 タオルで額の汗を拭い、矢を回収して、教室へ戻る。


 途中、ショートソードとメイスを振るう鈴木を見かけた。鈴木もここに来たのかと思うと胸が熱くなる。私の上に立つ男は努力の人でもあると知れた。それは心地良い感覚だった。特に声をかけることもなく、その場は通り過ぎた。昨日、入学式の後の教室で、鈴木に宣戦布告のような真似をしてしまった自分が少しだけ恥ずかしくなった。


 戻ると、教室にはもう誰もいない。あるのは鈴木のカバンだけ。


 しかし、黒板に『クラス親睦会はカラオケ『YOU and ME』に集合! 17時スタート! 道がわかんない人は鹿島まで!』と書いてあった。黒板の上の時計は17時45分。その名前のカラオケ屋は入学式の日、平坂駅前のホテルから歩いてくる途中で見た覚えがあるから場所もわかる。


 カラオケといえば、卒業式の日、弓道部の人たちと一緒に騒いだ思い出が頭を過る。歌うことはほどよく楽しいと思える。

 ただ、弓道部の人たちは、別に思い出したいものでもない。私には外さないでと祈りを込めて声援を送るが、自分は外して泣きながらごめんと謝る人たち。泣けば、謝れば、それでいいと思う人たち。的を外したという事実は泣いたり謝ったりしても変わることはないのだが。


 私は思考を切り替えて現在へと戻す。寮の門限から考えても今から行けば後半の1時間は参加できるだろう。それがこの先、このクラスに溶け込むという意味でも正解だろうとは思う。

 それでも、途中参加は空気を微妙にする瞬間があるだろうし、歓迎会なら昨日は寮でも行われてクラスメイトとは言葉を交わした。女子だけは。女子寮なのだから当然だ。


「男子は……まあ、どうでもいいし……」


 参加してないのは自分だけということもないはずだし、少なくとも鈴木は参加していない。そう考えて私は寮へ向かった。







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