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RDW+RTA ~リアルダンジョンズワールド プラス リアルタイムアタック~  作者: 相生蒼尉
第2章 『RDW+RTA+FUCHU+FUTSU act H3 ~3人のヒドインたちによる、附中とフツーの物語~』

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4 鳳凰暦2020年4月9日 木曜日1時間目 国立ヨモツ大学附属高等学校1年1組


 教室で私――平坂桃花は彼を堂々と観察します。ええ、こっそりと、ではなく、堂々と、です。なぜなら、今は、高校生活の2日目で1時間目のロングホームルームの自己紹介なのです。彼を堂々と見つめていても、不自然ではない、最高の状況です。


「鈴木彰浩です。よろしくお願いします」


 シーン…………。


 心の中で思い出します。彼と私は小学校が同じなのです。ええ、小学校3年生の時も、小学校5年生の時も、こうでした。とにかく彼は無駄がないのです。そして、そのことによって教室に沈黙が訪れてもどうでもよいのです。いえ、世の中のいろいろなものに興味がないと言うべきかもしれません。そこには私も含まれます。昨日、入学式の後に慌てて「久しぶり」と話しかけましたけれど、どうにか私のことは覚えて下さっていたらしく、少しだけ安心しました。


「……なあ、鈴木」

「はい」

「それだけか?」

「はい」

「いや、なんか、あるだろ、趣味とか、出身校とか、特技とか、抱負とか」

「……いえ、特には」


 冴羽先生、それは無駄な抵抗というものです。彼はそういう人なのです。誰にでも必ずあるはずの出身校でさえなかったものにしてしまえる人なのです。


「そ、そうか……す、すまんが浦上、こう、なんだ、手本ってヤツを見せてやってくれ」

「はい」


 昨日、入学式で新入生代表を務めた浦上が立ち上がりました。


「昨日は僭越ながらみなさんの代表として宣誓をさせて頂きました、浦上姫乃です。出身はF県の山寺市立寺前中学校です。中学校では弓道部に所属していました。この学校では中衛や後衛としてアーチャーを目指して頑張りたいと考えています。どうか、この3年間、よろしくお願いします」


 ゆっくりと美しい所作で礼をする浦上は、おそらく真面目で負けず嫌いなのでしょう。そういう人は嫌いではありません。昨日も私が彼に先に話しかけた後で彼に絡んでいましたし、今の、ただの自己紹介だというのに、それさえも彼に対抗しようとしています。その彼は浦上に向けて熱心に拍手を送っているので、それをまた浦上がにらんでいます。流石は彼です。浦上など全く相手にしておりません。


 いえ、今は浦上ではなく、昨日、教室から彼を連れ出した設楽というお下げの女、あのお下げがいったい何者なのか、彼とお下げはどういう関係なのか、そして昨日は彼との間にいったい何があったのか、それが重要です。座席表からあのお下げが設楽真鈴という名前であり、かつ推薦首席だということは既に判明しています。


 いろいろと考えている間に、一般入学の2列の自己紹介が終わり、附中ダン科の列の先頭である私の順番が来ました。


「附属中ダン科出身、平坂桃花です! 武器はメイスでやってるけど、実はショートソードの刃を立てるのが苦手だからです! あと、ここでは珍しい、寮生ではない、通いの地元民です! どうかよろしくお願いしまーす!」


 私は無難な自己紹介を済ませて、お下げの順番を待ちます。


「あー、平坂には学級代表を頼んでるから、困ったことがあったら頼れ」


 冴羽先生が私への拍手が止むと、そうつけ加えました。私は軽く頭を下げます。入学してしばらくは、附中ダン科の出身者は初心者である外部生のサポートを務めなければなりません。特に学級代表はその役割の中心となります。私が附中の首席ですから、この立場は仕方がありません。立場を有効に利用したいと思います。


 それはともかく、今はお下げです。


 お下げの座席が窓側の一番前ということで、推薦入学者の首席合格者だということは附中ダン科出身者ならみんな理解しています。一方、彼は廊下側の一番前なので、一般入試の首席です。いったい一般と推薦の首席同士にどのような関係があるというのでしょう。昨日は附中出身者でいろいろな予想が立てられましたけれど、どれも荒唐無稽なものばかりでした。顔の造形に似たところなどひとつもないというのに、生き別れの双子であるはずがありません。外村――附中ダン科三席――の妄想力には真実味はないようです。


 そして、附中ダン科の2列と、附中普通科からの転科の1列の自己紹介が終わり、お下げの順番となりました。


「設楽真鈴です。この学校も実は校区内になってる平坂市立平坂北中の出身です。寮生ではなく通っています。部活は剣道をやってました。ダンジョンアタッカーに憧れてこの学校に来ました。よろしくお願いします」


 ぺこん、と頭を下げてお辞儀をすると、ふたつのお下げがそれに逆らうようにぴょんと跳ねます。そばかすが目立ちますけれど、顔立ちは整っており、濃紺の髪と瞳はとても美しく、それでいてその雰囲気はまるで古典文学の世界からそのまま飛び出してきた朗らかな田舎の少女のようです。


 でも、彼との関係はわかりました。このクラスでは他の誰にもわからないでしょうけれど、地元民である私にはわかります。北中――平坂北中学校は彼の出身中学校でもあります。彼の自己紹介からではそのことは絶対にわかりません。彼、出身中学校すら言いませんでしたから。


 お下げと彼は、同じ中学校からここに進学してきたのです。全国から生徒が集まるこの学校の場合、同じ中学校の出身というのは極めて稀なことではあります。まあ、私と彼のような同じ小学校出身よりは珍しくはないと思いますけれど。


 ですから、ある程度、ある程度は彼と親しい関係だったとしても、腕を掴んで教室から強引に連れ去るような間柄だったとしても、それは私の知らない3年間のことです。仕方がありませんけれど、これは情報収集の必要があります。


 私はお下げに拍手を送りながら、ダンジョンでの戦闘で磨いた自慢の広い視野を活かして反対側の彼を確認します。彼も拍手はしていますけれど、だからといってお下げには特に興味を示していないように見えます。安定の無関心っぷりに思わず笑みがこぼれます。


 そう、このお下げも、彼の興味の対象ではないのです。私と同じように。そして、私は、私に興味を持たない彼のことが知りたくてたまらないのです。彼が私に興味を持っていないと知った、小学校5年生の時から、ずっと……。







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