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RDW+RTA ~リアルダンジョンズワールド プラス リアルタイムアタック~  作者: 相生蒼尉
第5章 その1『RDW+RTA+ADV ~鈴木の大冒険(アドベンチャーゲーム)~』

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5 鳳凰暦2020年8月10日 月曜日 平坂グランドホテル2階レストラン『グラッツ』



 2週間という、鈴木くんに頼まれた大学生の育成期間が終了した。クラン『走る除け者たちの熱狂』としての活動でもあるので、協力するのは当然だ。


 あたし――高千穂美舞はその打ち上げ会場となった平坂グランドホテルのレストランにいる。いつもと違って、さすがにここは貸切にはなっていないみたい……と思っていたんだけど……。


「え? あの人たちは下北先輩が? 釘崎さんと?」

「そうね。釘崎先輩と一緒に、犬ダンジョンと豚ダンジョンでずっと育成していたの。犬ダンジョンでの育成データも鈴木くんは必要だったみたいね。時間がズレていたから、お互い、顔は合わせなかったみたいだけれど……」


「……ということは、ここにいるのは全部、関係者ってことですか?」

「そうなる、わね」


 ……どうやらここもあたしたちで貸切になっていたらしい。ちょっと頭が痛いかもしれない。


 あたしの勘違いじゃなかったら、ここって平坂で一番、有名で、一番、歴史があるホテルなんじゃないのかな、と。つまり……普通にバイキングのお昼を食べることがもうお高くて……。

 それを貸切に? そのレストランのお昼のバイキングを貸し切って……あたしたちだけのためにこのバイキングが用意されてるってこと? ええと、食べ残しはどうなるのかしら? スタッフで美味しく頂くとか……?


「いっぱい種類があるみたいだね、ここのスイーツは」

「小さい」

「確かに小さいかな。でも、その方が全種類制覇は簡単かも」


 酒田さん、矢崎さん、宮島さんはすでにスイーツのテーブルに張りついている。すばやい。でも、もっとちゃんとしたおかずの方も食べてほしい。今はおやつの時間ではなく昼食だったはずだから。


「……こりぇを目の前で焼いてくりぇるんですか?」

「はい。ご希望の焼き具合はいかがなさいますか?」

「え、ええぇ……や、やや、焼き具ゃいって……ななな、何……? たた、助けて、水跳ちゃん……」


 端島さんは意外と肉食系で、目の前でステーキを焼いてもらえるサービスのところにいる。

 いつもは那智さんが近くにいるはずなんだけど……今はいないわね……。端島さんは肉を焼く匂いにふらふらと釣られたのかもしれない。


 その少し向こうに、お皿に山盛りのおかずをのせた那智さんが見えた。

 パスタと、サラダと……和風のお惣菜系も集めているような……。そんなのもあるんだ……。


 ……でも食欲旺盛すぎない⁉ どれだけ食べるつもりなの⁉


「……そんじゃあ、下北先輩の方でもオーク狩りは問題なくできたってことです?」

「そうね。無事にそこまで到達できて安心したわ」


「え? じゃあそっちの5人も、もうクランの? あ、でも、そっちも大学生とは限らないのか……」

「こっちも大学生よ……それと、もう見習いの契約は済んでいるみたいね……」


 五十鈴と下北先輩が、クランマスターの釘崎さんと一緒に食べている5人の大学生を見ながらそんな話をしていた。

 そちらも女性ばっかりである。もう、どういうことなのだろうか……?


「女ばっかりだ……あ、ふたりで5人の育成はキツくなかったですか?」

「いろいろとあったけれど、それでもどうにかなったというか……。そもそも私たちは1年生の時にそういう育成を経験する訳だから……もちろん、釘崎先輩もね。それに、むしろ、あの戦法は人数が多くいた方が楽だというか……」


「あれ? でも……そっちだと武器は? オークを相手にするんなら地獄ダン武器ですよね? 地獄ダン武器ってそんなにありましたっけ? ある程度は地獄ダンに入った時にドロップしたとは聞いてるけど……」


「あったのよ、クランに。人数分と予備も……どこかから仕入れたらしくて……」

「マジか……釘崎クラマスが有能すぎる……でもまあ、お金は……」


 感動して釘崎さんを見つめる五十鈴の横で、心なしか下北先輩の顔が疲れているように見えた。大丈夫かしら……。


 ……それにしても、クランに地獄ダンの武器がそろっているの? そんなことをいつの間に?


 あ、でも……釘崎さんはもうすでに何億円もクラマスとして稼いでるって話だったような気もする。


 あ、何億じゃなくて何十億だったわね……そういえば……。


 私は鈴木くんの方へと視線を動かした。


 この中の……お客の中でたったひとりだけ男性である鈴木くんは、すぐ横に岡山さんを従えながらも、実験に協力していた女子大生に囲まれている。


 合宿所で生活していた期間は、先生もいたし、うまく近づけないようにできたのだけど。


「ねえ、明日の豚ダンって一緒なのよね? 楽しみだなぁ」

「鈴木くんも一緒だよね? 小鬼ダンとは違って? 今度は戦闘もする?」

「豚ダンってすごいねー。まさか1個7000円とか……あ、もちろん、クランでそこから抜かれるのは分かってるってばー。そんな顔しないで、鈴木くん」

「抜かれても……普通にバイトするより明らかに収入は多いでしょ。誘ってくれた鈴木くんには感謝しかないよ」

「そうなのよねー。大学からダンジョンに入り始めた子たちの話と全然違うから、もうびっくりしちゃって……こんなに稼げるんならもっと早く……」

「それ、話したらダメだからね、その人たちには。ね、そうでしょ、鈴木くん?」

「今日の面接はいいんでしょ?」

「今日のは必要な調査って話。だよね、鈴木くん?」


 ……大学生になったらあんなに積極的に男子と話すものなのかしら? 必ず鈴木くんを話に絡めようとしてる気がする。


 いえ。男子というか……あたしたちは高校1年なんだから、あの人たちからしたらかなり年下でしょう? どうして鈴木くんが守備範囲外じゃないの?


 そう思った瞬間、理由は考えるまでもないとあたしは気づいた。もちろん、お金だろう。


 きっと、あの人たちには鈴木くんが札束に見えているに違いない。鈴木くんではなくそこにお金が見えているのだ。


 今回の実験に取り組むアルバイトにおける守秘義務の説明で、あそこにいる女子大学生たちが目の色を変えた瞬間を思い出す。

 守秘義務に違反した場合、最低でも4億円は違約金が発生するという話で……すごくざわついていた。

 それはつまり、最低でも4億円で売買される実験データを集めるアルバイトであるという話なので……。


 あの人たちには『鈴木くん』と書いて『4億円』と読めたのではないかと思う。


 ちなみに最低でも4億円なので、それがどこまで増えるかはまだ分からない、と鈴木くんはその時、言っていた。その影響もあるかもしれない。


 ……あたしたちにはクランの方から指名依頼のギルドクエストとして報酬が出ることになっているからいろいろとありがたかったけど。


 夏休みだから休日扱いで、ひとりあたり2週間で500万円というのは……本当にもらってもいいのだろうか?

 鈴木くんはそれでも少ないと言っていたけど? こういう場合の多い、少ないの判断があたしには難しい。


 それよりも、鈴木くんの取り囲まれ具合がどうも危険だ。岡山さんは、その部分に関しては鈴木くんが何か手を打っているとは言っていたけど……。


「おーい、来たぞー、鈴木ぃ」

「ちょっと……もう少し礼儀をわきまえなさいよ……」


 その声の方を振り返った瞬間、あたしは大きく目を見開いた。


「みっ……」

「陵竜也⁉」

「え? 本物⁉ 本物なの? ポスターそっくりなんだけど?」

「どうしてここに?」

「嘘……かっこいい……ガテン系イケメン……」


 鈴木くんを取り囲んでいた女子大生たちも、そこにやってきたトップランカー、陵竜也に目を奪われていた。


 ……本物だってことは、前にお寿司屋さんでも見たから間違いないけど⁉


 そんなことよりも、もうひとりの⁉


「……み、美舞。あれって……日本ランク2位の北見愛良なんじゃ?」

「……ポスターとは同じだと思うけど……下北先輩は、ご存知ですか?」

「ええ。間違いなく、北見愛良さんね。どうしてここに……というか、理由は鈴木くんしかないとは思うのだけれど……」


 確かに……理由はそこしかない。


 陵さんはまっすぐに鈴木くんの方へと歩いていく。鈴木くんを囲んでいた女子大生は道を開けて、鈴木くんと岡山さんだけが残る。


「よっ、ヒロコちゃんも。元気そうだな」

「……本当に来たんですね、タツにぃ」


「遠慮なく食べてください、陵さん。この前のお返しです。ここ、貸切なので。もっとたくさんメンバーを連れてきてもよかったのに? おふたりだけですか?」

「いや、高校生だって言ったらこいつが……ああ、紹介しとくな。こいつ、北見愛良ってんだ。ウチのメインタンクやってる」


「北見よ。陵がごめんなさい。なんだったら今すぐ連れて帰ってもいいから」

「いえ、こちらがお招きしたので遠慮なくどうぞ」


 そう言って鈴木くんはポケットから何かケースみたいなものを取り出して、その中から小さな紙片を北見さんの方へと両手で差し出す。


「……え? 名刺?」

「鈴木彰浩と申します。北見アタッカーのお噂はよく耳にしています。どうか、これからもよろしくお願いします」


「あ、うん。でも、あの……アナタ、高校生、よね? 陵からはそう聞いてたんだけど……?」


 どんなモンスターにも一歩も引かないと言われているクラン『竜の咆哮』の名タンクがどこからどう見てもドン引きしているんだけど……。


「肩書、おかしくないかしら? ヨモツ大学ダンジョン学部後藤研究室研究協力員とか、クラン『走る除け者たちの熱狂』見習いダンジョンアタッカーとか、え? 彼、本当に高校生なの? 陵?」


「いや、その肩書は俺も初耳なんだが……高1だろ? なんで見習いなんだよ? あと、大学ってどうなってんだ? ありえねぇだろ?」


「あ、陵さん。こちらのみなさんは、どうも陵さんのファンらしくて……どうか、話す機会をお願いします」


「え? おう。いいぜ、もちろん……ていうか、俺の疑問はスルーかよ……」


 鈴木くんが女子大生の方へと陵さんを送り出して……岡山さんの言ってた、鈴木くんが手を打ったって、まさか、これ⁉ こういうこと?


「他のメンバーのみなさんも今からお呼びできますか? 食事は十分、ご用意できると思いますけれど?」


「あーうん。そ、そうね。ちょっと連絡してみるけど……」


 陵さんがあっという間に女子大生に囲まれて、きゃあきゃあと言われている。北見愛良さんはスマホを取り出してどこかに連絡を入れ始めた。それを見ていたら、いつの間にか、岡山さんはあたしたちの方へとやってきていた。


「……これが対策なの?」

「どうやら、そうみたいです。まさか自分の身代わりを差し出すとはわたしも思っていませんでした」


「まあ、今の段階だと……鈴木くんの将来性はきわめて高いとしても、陵さんほどのネームバリューはないものね……」


 しみじみと下北先輩がそう言った。それはその通りだと思う。確かにそう思うんだけど……。


 ……この場にトップランカーを呼び出すことができる時点で鈴木くんは規格外すぎるから⁉


「やっぱり鈴木くんは理解できねぇ……」


 五十鈴のつぶやきはあたしの心の中にストンと落ちた。そうよね、五十鈴。その通りよね、絶対に。


「陵さんは……確か『黄泉の国』の依頼だったのではないかしら?」

「新聞ではそうでしたね。ギルドを通した政府の依頼という話でした」


「ああ、それ。その後に地獄ダンの調査依頼が入ったみたいですよ」


 下北先輩と岡山さんのやりとりに口をはさんだのは鈴木くんだった。


「先に『黄泉の国』の間引きを済ませてから、地獄ダンに。いくつかのクランでかなり大きなアタックをかけたみたいですね」


「どうしてそんな情報を……まだ新聞にも書かれてないと思うのだけれど……?」


「昨日の夜、陵さん本人との電話で話した時に聞きました。ついでにここに誘ったんですよ、この前の寿司のお礼がしたいからって。ダンジョンを出たばかりで、予定は空いてたらしくて助かりました」


 女子大生に囲まれて、いろいろな食べ物を与えられている陵さんをちらりと見て、鈴木くんは楽しそうにうなずいた。


「ここはダンジョンじゃないし、女子大生なら別になすりつけてもいいだろうから」


 ……そういうことじゃないのよ⁉


 あたしはあと2年以上、この鈴木くんと一緒に高校でやっていく。それから最低でも卒業後の3年間は同じクランに所属する。

 もちろん、『走る除け者たちの熱狂』には3年以上、ずっとそのまま所属するつもりだけど……。


 いつになったら、こういうのに慣れるのかしら……いえ。無理よね。


 ほんの少し、あたしは自分の将来を不安に思うのだった。






あとがき失礼します。

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