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RDW+RTA ~リアルダンジョンズワールド プラス リアルタイムアタック~  作者: 相生蒼尉
第4章 その3『RDW+RTA +KAG(M―SIM) ~鈴木の経営ゲー(マネジメントシミュレーション)~』

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137 鳳凰暦2020年6月25日 木曜日午前 豚ダンジョン



 今日から二日間が学校祭の振替休日で、土日と合わせて4連休だ。この学校はこうやってうまく連休を作ってくれるところが最高だ。


 僕はいつものように、うちに外泊した岡山さんと早朝から豚ダンへと突入して1層の7000円魔石をかき集め、一度外に出て近くのムギタコーヒーでモーニング。ただし、ゆっくりと新聞を読む時間はなく、食後はすぐに豚ダンへと戻る。


 ランナーズが寮での朝食を抜いて、豚ダン前に集合したのは7時58分。いい時間だ。


 朝用の小さめの爆弾おにぎりを配って、まずは食べてもらう。そして、すぐに豚ダンへと突入した。


 1層の突破は8時58分。

 戦闘は僕と岡山さんと那智さんと端島さんで担当した。


 2層の突破は9時56分。

 戦闘は高千穂さん、酒田さん、那智さん、端島さんで担当してもらった。


 3層の環濠集落到達は10時54分。

 伊勢さん、宮島さん、矢崎さん、先輩が戦った。


 那智さんと端島さんの負担を増やしているのは、戦闘経験を積ませるため。

 学校祭のタイムアタックは、どうしてもペアにしてほしいというから折れたけど、次、ああいう機会があったらソロで頑張ってもらいたいからな。


 今日は2回、豚ダンをクリアする予定だから、時間との戦いでもある。


 環濠集落の正面入り口はいつものように避けて、まずは東南部へと移動。


 そこで、マジックポーチから爆裂玉、スピア、ウィングドスピア、ハルバードを取り出して用意する。

 ウィングドスピアは穂先が十字の槍だ。

 この槍系の3つの武器はどれも犬ダンのボスドロップだが、そのうちのハルバードから先輩がすぅっと目を反らしていた。なんで?


「今回の槍の使い方はミーティングで説明したけど、大丈夫かな?」


「鈴木くんが一度、みんなに見せてくれたら……たぶん、できるんじゃないかしら」


「鈴木、爆裂玉」

「あー、はいはい」


 高千穂さんと確認していたら、矢崎さんが爆裂玉を要求してきた。矢崎さんはここでも爆弾娘になるつもりらしい。


 僕と岡山さんのマジックスキルはまだ封印中だ。この封印とは、みんなに見せない、という意味。使えないってことではない。使える状況になったら、使うつもり。


 だから、マジックスキルではなく、今日は槍で勝負する。


「とりあえず、急ごうか。矢崎さん、投げ込んで」

「りょ」


 にんまりと笑った矢崎さんが、ぽっちを押し込んだ爆裂玉を環濠集落の中へと投げ込んだ。いい笑顔だ。そして、ナイスコントロール。


 ドッカーンっと爆発したけど、敵はいないので何のダメージも与えられない。


「……もったいない」

「だいたい、すき焼き3回分、かな……」


 伊勢さんと宮島さんのケチケチ精神はまあ、いいとしよう。アタッカーとしては大事なことだ。


「あっ、きた!」

「集まってきちゃです!」


 那智さんと端島さんが目を大きく見開いて、オークを指差した。


 そのオークたちは、環濠集落を守る防壁……という名のただの丸太の柱の向こうで、こっちに向かってなんかブヒブヒ言ってる。


 僕や岡山さんにとっては既に見慣れた光景だ。何度見たことか。


「これがヒロちゃんの言ってたブタゴリラ渋滞……」


 ……酒田さん? 何それ? ブタゴリラ渋滞?


 確かに、動物園の檻の中で外に向かって鉄格子を握って騒ぐゴリラみたいな行動ではあるんだけど、ブタゴリラって……。それ、岡山さんが言ってたのか?


「……わたしは、オークが動物園のゴリラのようです、と言ったのですが」


 僕の心の声が聞こえたのか、岡山さんがそんなことをつぶやいた。


 ……まあ、いい。では、実演するとしよう。


 イメージは棒高跳びだけど、別に跳んだりはしない。


「じゃ、見てて」


 僕はスピアを手にすると、環濠へ向けて走り出し、飛び降りるのではなく、加速のために小股で駆け下りるようにして環濠の底へ入り込み、その勢いを利用して防壁側の環濠を駆け上がる。この動き自体は、環濠集落に侵入する時と同じだ。


 違いは手にしたスピアだけ。駆け上がるタイミングまでは上向きでキープだ。そのためには角度は変化させないといけない。石突あたりを持つ手の動きが重要になる。


 僕はその勢いのまま、駆け上がりでスピアの穂先をオークに向けると、丸太の柱と柱の間へとスピアを突き立てる。

 そこにはちょうどオークのでっぷりとした腹がある。ちょっとデベソなのはそういうのが好きなキャラデザイナーだったからなのかな?


 そして、柱を蹴って後ろへと跳び、僕自身の体重と重力とでスピアを引き抜いて環濠の底に着地する。


 僕がスピアを突き刺したオークは消えて、落ちた魔石がころりと環濠の底に転がってきた。


「じゃあ、引き上げて」


 魔石を拾って、僕はスピアの前後を持ち替え、石突の方を岡山さんと酒田さんに引っ張ってもらって、元の位置へと戻った。


「とまあ、こんな感じで、あそこでブヒブヒ言ってるヤツらを勢いで突き刺して倒すんだけど」


 僕が倒した柱の隙間は次のオークが埋めてブヒブヒと言ってる。こんな集落を作れるクセに知能が低いんだよな。不思議だよな。


「いや、簡単そうに言うけど、けっこう難しくないか?」


「確かに、棒高跳びみたいな動きだけど、全然違う、かな? でも、できないこともないの、かな?」


「穂先が下に刺さるんじゃ……」


「面白そうですね、鈴木先生!」


 前向きな意見は酒田さんだけ? いや、これ、前向きな意見なのか?


「とりあえず、やってみましょうか」


 岡山さんが率先してやってみようと僕が使ったスピアを構えた。

 僕が握っていたところに触れて何かを確認しているみたいだけど、僕とは体格が違うから持つところはもうちょっと考えてほしい。


「できると思うけどな。これまでダンジョンで戦ってきて、肉体はかなり強化されてる。いろんな意味で。単純に力が強いってだけじゃなく、身体を操る能力そのものが高まってるはずだから」


 僕も後押しするように、ダンジョンでの戦闘によるレベルアップでできるはずだということを伝える。レベルアップとは言わないけど。


 酒田さんは嬉々としてハルバードを手にし、矢崎さんはにやりと笑ってウィングドスピアを構えた。矢崎さんは何も言ってなかったけど、どうやらやる気だ。


「十文字槍、かっこいい。武将」

「ハルバードもいい感じだよ、エミちゃん」


「行きましょう」


 岡山さんがそう言って、3人で環濠を駆け下り、さらに駆け上る。駆け下りる時の小股は僕よりずっと安定している。あと、細かい槍の角度の操作もばっちりだ。


 グサリと刺さる槍がけっこうエグイ。傍から見るとこんな感じか。

 でも僕は酒田さんと同意見だ。面白そう。いや、面白いな、確かに。ジェットコースター的な爽快感があるし。


 岡山さんが刺したオークだけが消え、酒田さんと矢崎さんが刺したオークはブモモモォォって叫んで頭を滅茶苦茶に振ってる。怒りなのか、痛みなのかは微妙なところ。


「岡山、一撃」


「うーん。ヒロちゃんとは、まだ差があるんだね」


「たまたまだと思いますが……」


 他のメンバーに引っ張り上げてもらいながら、酒田さんと矢崎さんと岡山さんはそんな会話を交わす。


 ……レベル差も関係ない訳じゃないけど、これはたぶん、原因は身長差、だな。


 岡山さんはおそらく150センチ、ギリギリ、ないはず。小さ目。ここにいるメンバーではもっとも背が低い。

 酒田さんと矢崎さんは160センチの手前ぐらい。

 それで、約10センチの高さの違いと槍の角度によって、岡山さんの一撃はクリティカルポイントに刺さってた。

 意識して狙った訳じゃないと思う。まさに「タマタマ」だったはず。


「一撃じゃなくても問題ないから、どんどん交代して刺していこう。魔石は後からでもいい。引っ張り上げた人がそのまま槍を持って突撃して! 慣れたら交代のスピード上げてくこと! あと、あの隙間から無理矢理武器を出してるオークには注意して! 槍とは間合いが違うからそこまで危険はないと思うけど、もしもの怪我は防ぎたいから!」


 そんなこんなで、マジックスキル抜きの槍戦法で環濠集落のオークどもを殲滅した。


 ちなみに、クランで2番目に背が低い、150センチから155センチの間くらいの身長の宮島さんもたまに一撃で倒していたので、やっぱり身長による高さの違いが偶然、クリティカルポイントを突くんだと思う。低い方がこの場合、有利なのか。


 途中から、みんな、楽しくなってきたらしく、積極的に槍を奪い合って突撃し出した。そうなったら殲滅までは早かった。


 東南部の殲滅完了は11時13分。移動して、東北部は11時30分に殲滅完了。そこから、環濠集落に突入して、中央の二重環濠へ接近していく。殲滅してあるから、リポップするまでは問題ない。


 内側にある二重環濠でもやることは同じだ。爆裂玉でオークを集めて、槍で突撃。次々とオークが消えていく。慣れれば作業のようなもの。

 大切なのは、橋のないところで爆裂玉を投げることくらいか。橋があるところだと、こっちに渡ってくるからな。

 魔石はひとつ9000円なのできっちりと回収する。11時49分には二重環濠のオークも殲滅できた。


「じゃあ、ここからは伊勢さんをリーダーとして、環濠集落西北部のオークを槍戦法で殲滅、西南部は手を付けずに脱出して、3層を大回り、二手に分かれて9層格オークを狩ってほしい。メンバーはバランス重視で」


「やっぱり下北先輩がリーダーで……」


 伊勢さんが畏れ多いという感じで、先輩にリーダーを譲ろうとした。


「ダメだ。ミーティングで伝えたよな? そもそも志摩さんの方がランナーズでは先輩になる。そこ、もっと自覚してほしい」


「……メンバー分けした後、もうひとつのリーダーを頼むのは?」


「そこは別に」

「じゃ、そうするか」


「ね、鈴木くん。西南部も狩った方が稼げる、かな?」


 収入を増やしたい宮島さんがそう言った。気持ちはわかる。その点については共感できる。むしろ共感しか、ない。だが、ダメだ。


「……うーん。だいたい、13時くらいに他のアタッカーがここまで来る可能性がある。前に見た時がそうだったし。それがこっちの予想より早くやってきて、その時にオークがリポップしてなかった場合、そいつらが他にもアタッカーがいるって気づいて、それがトラブルの種になる可能性がある。1個9000円でそこを欲張りたい気持ちは僕にもとにかくものすごくわかるけど、今は切り捨てよう」


「あー、そういう……」


「犬ダンよりも強い、豚ダン入りする一般のアタッカーとの対人戦はできれば避けたい。そのために朝食抜きで早く集合したんだし」


「うん。納得かな」


「た、対人戦でしゅか……」

「怖いね……」


「対人戦は1対1にならないように多対1で数的有利を考えるところから。まあ、その前に、対人戦にならないように避けられるものは意識して避けようか」


 ……このメンバーは、犬ダンを誰もいない外周通路で突破してるから、対人戦になるようなトラブルを経験したことがない。1回くらい、迷路の方で暴れさせた方がいいのかな?


 今なら、あのへんでイキってる一般のアタッカーくらいなら、問題なく倒せるとは思うけど。戦闘力だけなら犬ダンに入ってる連中とは比べられないだろう。


 正直なところ、レベル的には、那智さんや端島さんでも、今のヨモ大附属の3年生よりもずっと強いはず。ステータスを見ることができないというのは、ゲーム的思考からすると不便だな。


 ゲームのDW的な計算だと攻略階層ひとつで経験値的にだいたいプラス3レベルだ。

 9層格の豚ダンの3層で戦ってる今、ランナーズのメンバーはおそらく、ゲームでのレベル換算だとレベル25からレベル27くらいになるだろう。


 犬ダンの4層とか5層止まりの先輩方なら、レベル換算だとレベル10からレベル15くらいか。うん。まず、基本的には相手にならない。それは武闘会で岡山さんと酒田さんが証明した。


 ……ダンジョン外だと、実際にはその差はわずかになるんだけど、そのわずか、を活かせるかどうか、なんだよな。


 もちろん、対人戦はレベル的なものだけじゃなく、設楽さんみたいな戦う技術そのものも重要になるから、レベルだけで判断する訳にはいかないんだけど、岡山さんと酒田さんが武闘会で勝ち上がっていったように、対人戦でも通用する力はある程度は身に付けてきたはず。


 流石に酒田さんが設楽さんに勝った時は僕も驚いたけど……。


 ランナーズのダンジョンアタックはバックアタック戦法を使うことも多いけど、ゴブリン、コボルト、オークは、人型だし、対処可能な攻略階層だと基本はパーティー・ソロで戦うからソロアタックと実質的には同じだ。

 僕たちは対人戦の訓練をダンジョンでの実戦でずっと積んでるようなもの。


 ……あ、オークはまだ、ソロではないか。そろそろ、7層格のオークでソロ戦闘をさせてみるか。今回、9層格を大量に倒すし、これで確実に強くなれるはず。最初は少し怖いかもしれないけど、慣れれば問題ないはず。岡山さんはできてるし。


 でも、那智さんたちに限らず、このメンバーはいまいち、自分に自信がない感じがある。


 先輩は……どうなんだろうか。生徒会長だし、自信がないってことは……いや、後輩の僕に丁寧語だよな? 先輩もダメか?


 自分に自信がないと、対人戦はなかなか厳しいかもしれない。


 7月の第二テストの結果が出て、みんなも今よりもっと自信を持ってくれるといいんだけどな……。


「じゃあ、3層入口で合流するまで、気をつけて」


「……そっちも。まあ、鈴木くんがいれば心配はいらないんだろ? 頑張れ、美舞」


「できることは確実にやるつもり」


「あぶみ、しっかり」

「あみちゃん、頑張って」

「スキルユーザーのボスって初めてだから楽しみだね」


「あみちゃんって……そういうとこ、あるから、ちょっと心配、かな……」


 正確には、小鬼ダンのボスもスキルユーザーだと思うけど、あれはスキルというより、ボスの特殊能力という認識らしい。実際、地獄ダンのゴブリンソードウォリアーは叫んだりしないそうだ。


 豚ダンのボスは簡易魔法文字を使うスキルユーザーボスなのも間違いない。


 それを笑顔で楽しみと言える酒田さんは、うん、僕の教え子として立派に育ってるな、ばっちりだ。


 伊勢さんたちが手を振りながら離れていって、僕たち4人は、ボスがいる高床の建物へと入る。


「……この扉、この場にそぐわない感じが……」


 高千穂さんの感覚って、実は岡山さんと似てるよな。確かに、この環濠集落の中で、ボス部屋のこの扉だけは、ピカピカでキラキラだから、完全に浮いてるけど。


「鈴木先生、イヤーマフとサングラスを外すタイミングはいつですか?」


 高千穂さんと違って、酒田さんはボス戦の方に興味があるらしい。流石は僕の教え子だ。満点をあげたい。


「サングラスをした上で目を閉じてても、それでも感じるくらいの明るさが閃光轟音玉にはあるから、その明るさを感じなくなったら、目を開いてサングラス越しに状況確認。ボスが意味不明な感じの暴れ方をしてるのが見えたら、光も音ももう大丈夫」


「音は、イヤーマフをしていても聞こえてきます。イヤーマフがなかったら……鼓膜がどうなるかわかりませんね。そういう感じです、あぶみさん」


「そっか。音の方で目を開くタイミングを決めた方がいいな。ありがとう、岡山さん」

「はい」


 ……そこで満面の笑みを浮かべるかな? そういや、今、いつもと違って「岡山です」って言わなかったような?


「サングラスとイヤーマフは使い回したいから、その場に投げ捨ててもいいけど、必ず後で回収すること。それと、十字陣形は大丈夫? 理解できた?」


「ばっちりです、鈴木先生!」

「高千穂さんは?」

「大丈夫よ」


「よし。じゃあ、準備を」


 そう告げると、全員がサングラスをかけて、イヤーマフを付けた。岡山さんの眼鏡オン眼鏡状態がやっぱり可愛い。ただ、3人もそんな姿をした人がいるのはとてもおかしな空間だと思う。あ、僕もか。4人だな。


「ヒロちゃん……そんな状態でも可愛いとか反則だね……」

「あぶみさんが言ってる意味がよくわかりません……」

「二人とも、もうちょっと緊張感を持って」


 僕は、リラックスしたメンタルも重要だと思うけど、まあ、いちいち言わない。高千穂さんの言ってることも正しさはある。緊張感も重要だ。


「じゃ、突入する。小鬼や犬と違って、時間はかかるから」


 そうして、僕はボス部屋の扉を押し込んだ。






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