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RDW+RTA ~リアルダンジョンズワールド プラス リアルタイムアタック~  作者: 相生蒼尉
第4章 その3『RDW+RTA +KAG(M―SIM) ~鈴木の経営ゲー(マネジメントシミュレーション)~』

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136 鳳凰暦2020年6月25日 木曜日朝、小鬼ダンジョン3層



「今日はあたしが先だね」

「気を付けて」

「平坂さんも」


 私――平坂桃花は、ボス部屋へと入っていく設楽を見送ってから、ボス部屋に背を向け、Aルートと呼ばれる最短ルートを戻ります。

 ボス部屋までは設楽と二人でエンカウントが多いDルートと呼ばれるルートで来たので、Aルートのゴブリンたちはそこにいるはずです。


 3層をどこかで折り返して進むとアーチが先でソードが後になる、裏戦闘と呼ばれる状態になります。

 しかも、アーチもソードも、最初はこちらに背中を向けた状態から戦闘が始まるのです。相手に隙があり、アーチと先に戦えるので、正面戦闘よりも楽なのです。


 私は全力のダッシュで背中を向けているアーチとの距離を詰めると、私を振り返って矢を番え、弓を引き絞ったアーチの鏃のすぐ前にスモールバックラーシールドを構えました。

 アーチが弦を放すと同時に、勢いに乗る前の矢がスモールバックラーシールドに中って落ちていき、私は大きく振りかぶったメイスを横殴りでアーチの頭に叩き込みました。一撃でアーチが消えていきます。


 こちらに走り寄ってきていたソード2体のうち、私に近い方の1体を私ともう1体のソードとの間に挟むように回り込んで位置取りして、ソードが振り下ろしたショートソードをスモールバックラーシールドで受け止めると同時に、ソードの鳩尾にメイスを叩き込みます。この位置取りは彼に教えてもらったのです……ふふふ……。


 いつもならワルツの流れで、そのまま振り上げたメイスを頭へと振り下ろすのですけれど、もう1体のソードが迫ってくるので、身体をくの字に曲げたソードをそのまま置き去りにして、迫ってくるもう1体のソードへ私の方から接近します。


 もう1体のソードからの攻撃は受けずに躱し、反対側へ抜けて少し距離を取ります。振り返ったソードが私を追うように近づき、再び攻撃してきます。このタイミングで先に鳩尾を攻撃したソードがようやく体勢を立て直します。


 攻撃を躱しつつ、カウンターで鳩尾にメイスの一撃を叩き込み、そのまま振り上げたメイスを鳩尾への攻撃で下がった頭に振り下ろすとソードが消えていきます。

 盾で受けない躱しのワルツです。

 これで残った敵は動きの鈍った最初のソードだけです。それも、今、ようやく、私の方に向き直りました。


 狙い通りに3対1から1対1になりました。ここからは実験です。昨日は私が先にボス戦でしたので、1層のゴブリンで試したのですけれど、今日は3層のソードです。


 ショートソードをスモールバックラーシールドで受け止めつつ、右へ身体を移動させ、メイスでショートソードを持つ手を狙います。

 そうやって三度、持ち手を攻撃すると、ソードがショートソードをファンブルしました。

 そして、ボスと同じように、ファンブルしたショートソードを拾おうとして頭が下がります。

 その頭に一撃を入れると、ソードは消えていきました。そこには魔石だけが落ちました。ファンブルしたショートソードは消えています。


 戦闘時間が長くなってしまうのは考えどころですけれど、ボス部屋のリポップまでの残り時間で、あと2回は実験できそうです。


 戦い方は同じ。裏戦闘の利点を活かし、アーチの矢をまともに使わせずに先に潰して、動きの鈍ったソードを1体だけ残して、ショートソードをファンブルさせてから、倒します。動きを鈍らせるところが重要です。


 ……残念ながらショートソードのドロップはありませんでした。今朝の実験は失敗です。


 しかし、昨日は、1層のゴブリン6体のうち、1体、ナイフをドロップしました。同じようにファンブルさせてから倒して、という状態です。


 私の仮説では、これは彼の攻略情報ではないかと思うのです。


 時間になりましたので、走ってボス部屋前へと戻ると、途中のアーチやソードはリポップ前で、丁度、ボス部屋の方はリポップしました。


 一度目を閉じて深呼吸をしてから、扉を押してボス部屋へと入ります。イメージは彼の、あの、動き。とくん、と心臓が跳ねます。


 少し時間はかかりますけれど、月城たちに門限破りをさせようとした時と同じように、バスタードソードを持つ右手を狙って攻撃を繰り返します。


 昨日の朝も、昨日の放課後も、ソロで同じように戦いましたけれど、バスタードソードはドロップしませんでした。


 それでも、私の考えではこれは――。


 何度目かの攻撃で、バスタードソードをファンブルしたゴブリンソードウォリアーの頭をメイスで強打し、さらには追撃も加えて倒します。

 そして、ゴブリンソードウォリアーが消えたところには、魔石とバスタードソードが落ちていました。


「やはり、そうなのですね……」


 ――武器をファンブルさせてから倒すと、普通に戦うよりもその武器はドロップしやすくなるのではないか、という、彼が秘匿していると思われる攻略情報。


 火曜日の放課後にバスタードソード。水曜日の朝にナイフ。そして、今日、木曜日の朝にバスタードソード。


 今まで、武器のドロップがなかった訳ではありません。ありませんけれど……クラン内でも、ボス戦だと1度くらいで……それがこの3日間で2度も……。


「どのように考えても、落とす確率が上がっているとしか、思えませんね……」


 彼はそのことに気づいていたに違いありません。


 最初は、ボスの頭を下げさせるためかもしれないとも考えましたけれど、そのようなことをしなくとも彼は普通にボスを倒せるのですから。


 わざわざバスタードソードをファンブルさせる必要はないのです。


 小鬼ダンでの武器ドロップは多くはありませんけれど、バスタードソードに限らず、スモールバックラーシールド、ショートソード、ショートボウ、矢筒、メイス、棍棒、ナイフなど、ヨモ大附属の誰もが卒業までに何度かは経験することでもあります。


 それでも、ドロップすれば幸運だと考える程度には、珍しいことでもあるのです。


 転移陣に入って、出口付近に転移します。

 そこに、おそらく先に転移してから1層のゴブリンを狩って戻ってきたのであろう設楽がやってきました。


「あー! 平坂さん、またバスタードソード!」

「あ、うん」


 ……設楽も、この高確率なドロップに気づいてしまうかもしれません。バスタードソードは大きくて隠しようがないので、どうすることもできませんけれど。


「いーなー。運いーなー。やっぱり平坂さんは女神だし、運もいいんだよねー」


 ……全然、気づいていないようですね。そうでした。設楽はそういう人でした。とても単純なのです。助かります。


「でも、これは……換金額にかなり差をつけられた気がする。むむむ……」


「あはは。確かに。ボス魔石2000円だけど、バスタードソードは3万円だしね!」


「……大差だ! えー? この3日で6万円も突き放された⁉ あれ? ええと……ボス魔石30個分なんだ! え、バスタードソードすごくない?」


 設楽を見て笑みを浮かべつつ、頭では計算を重ねます。


 この3日間で、ソロになる場面において武器をファンブルさせたのは、ゴブリン6体、ソード3体、ボス4体との戦闘で、単純な数値は13体。

 そのうち、バスタードソード、ナイフ、バスタードソードで武器ドロップが3回。


 もっと試行回数を増やさなければわかりませんけれど、とりあえず、およそ4分の1。約25%の確率でドロップしています。

 敵の種類ごとの記録も残していくべきでしょう。


「女神な平坂さんと一緒にボス戦した方が運良くなって……いや、でも……ボス魔石もいるし……一緒だと結局は半分ずつだし……むぅ……でも、筆記だと絶対に勝てないし……」


 ……女神とか言われたくないのですけれど、この子はどうして、こういう感じなのでしょうね? あと、一緒にボス戦に挑むとファンブル狙いができませんから私も困ります。


 それにしても、武器ドロップの確率を高める方法、ですか。


 この情報はクランで共有するには影響が大きすぎると思います。誰かが漏らすと、ヨモ大附属での小鬼ダンのアタック方法そのものが大きく変化してしまうでしょう。


 それどころか、平坂家がヨモ大による小鬼ダンの専有契約を破棄するようなことも可能性としてはあるかもしれません。


 それに、これがもし、平坂第2ダンジョン――地獄ダンジョンでも可能な方法だったとしたら。


 平坂家が地獄ダンを専有すると宣言して立ち入りを制限することで、地獄ダンで稼いでいるクランがそれに反発し、属性魔石を使って平坂本家を襲撃する……などという危険な未来が有り得ないとは言えません。ええ、そのような未来は困ります。


 ……危険な未来を避けるためにも、やはり、これは私と彼の秘密、ということで。ふふふ。二人の秘密です。彼にもこの事実を告げられないのが残念です。彼に告げられないというのに、お祖父さまに教えるとか、有り得ません。


 私自身の換金額と校内での順位のためにも、私はこの情報を秘匿することにしました。

 バスタードソードは特に大きいのですけれど、ショートソードでもかなり換金額を高めることができると思います。


 ……この方法で換金額を増やせばあの子を追い抜くことが可能になるかもしれませんし、彼と順位表で名前が並ぶこともあるかもしれないのです。


 これを誰かに教えるなどという、自分の足を自分で引っ張るような真似は絶対にできません!


「……なんか、平坂さんがめっちゃにやついてる」


 そんな設楽の言葉も、今の私はあっさりと聞き流せるほど、とても心のゆとりがありました。


 さて、浦上と合流して今から3人で小鬼ダンの2周目ですし、その後は休憩しつつ早目の昼食を頂いて、12時からは外村のパーティーと合流して3周目の合同アタックもあります。


 さらには図書館とギルドの資料室を利用して、犬ダンジョンの下調べも進めます。


 今日はまだ、始まったばかりですけれど、とても……とてもいい日になりそうです。

 とりあえずこのバスタードソードは浦上との合流前にロッカー棟のロッカーに片付けておきましょう。学校のギルドはまだ開いていないので。






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