34 エピローグ そして少女は泣き、笑った
あれから。
もちろん、土日もバスタードソード。
月曜日の昼休みには、土日も合わせて貯め込んできた魔石とバスタードソードをギルドで換金した。ギルドの受付の美女さんが無表情さんになっていたけど、まあ、どうでもいい。学年主任の先生によると、買い取ったバスタードソードの扱いで大忙しらしい。どうぞ苦労して下さい。
そして、この時点で、岡山さんのロスト分は問題なく支払い可能な状態となり、4月末の退学RTAは無事に回避できる見込みとなった。
「本当にありがとうございました、鈴木さん。お陰で退学にならずに済みそうです」
「よかったな」
「それで、その……」
「うん」
「これからもパーティーを組んでもらいたいのですが……」
「え、解消するつもりだった?」
「そんなことはありません!」
「よかった」
「よかった、ですか?」
「スタミナポーション20本分、20万円、踏み倒す気かと」
「はは、そっちですか……」
これからも僕たちはパーティーを組んでいく。うん。僕が育成したので、ペアとして申し分ない。今後は、外のダンジョンでも活躍してくれるはず。
ヒロインとは絡まずに、なかなかいいメンバーを見つけられたな、と思う。健気で、素直で、頑張り屋で。
ま、1回だけ見た眼鏡の下の素顔は3人のヒロインと比べても勝るとも劣らない美少女だったからものすごく驚いたけど。
今週はちょっとした変化もあったけど、僕たちの小鬼ダンRTAチャレンジはその週も続いて、4月24日金曜日の放課後。
僕と岡山さんは、ダンジョンへ行かずに応接室へやってきた。
「失礼します」
「し、失礼します」
中に入ると、大学や附属高のお偉いさんと、父と母、そして――。
「お、母、さん? どうしてこちらに?」
岡山さんのお母さんがいた。
「どうしてって、広子の契約のためよ?」
「契約?」
「あら、聞いてないの?」
岡山さんのお母さんが僕を見る。
「サプライズなので」
「そうなのね」
「鈴木さん……?」
「説明を聞けばわかるから」
僕と岡山さんは隣り合って座り、それぞれの隣にそれぞれの母、僕の母の隣に父が座った。
契約については、いろいろとあるけれど、簡単に言えば、僕たちのパーティーが卒業時に提供するあの隠し部屋の情報を売った代金が半分ずつ、僕と岡山さんの物になる。攻略情報を教えるのは卒業時であって、今ではない。
一週間の魔石の数、平日30個、休日100個で計算して、週350個、1個あたり二千円で合計70万円だけど、これを基準に1年を50週間として考え、あの隠し部屋からはおよそ3年間で1億円以上は稼げることを僕は示した。
もちろん、学年主任のバックにいる大学側も、テスト週間をはじめとするダンジョン禁止期間などで、それほどは稼げないと反論してきたし、僕はそれに対して夏休みなどの長期休暇は平日ではなく休日で計算できるので、厳密に計算すればもっと高くなると言い返し、互いの妥協点としてキリのいい1億円で折り合った。それだけ大学もこの情報がほしかったのかもしれない。それを二人で折半して半額になるので一人五千万円だ。
「ご、ごしぇんまんえんでしゅか……?」
岡山さんがなんか、溶けてなくなりそうになってる。かみかみでちょっとかわいい。
「そのうち1千万円が前金で、僕たちに何かがあって情報提供できなくなっても返金不要と決まった」
「何かが?」
「ダンジョン科は危険なところだから」
「あ……そう、ですね……」
……まあ、秘密を狙われても自分で自分の身を守れ、ということだろうな。大学側は僕たちがこの秘密を握ったまま死ぬのなら、今までと何も変わらないから問題ないのだ。
「で、その前金だけど、毎月に分割して振り込まれるようにしてもらって、今月は28万円で、あとは卒業まで毎月27万円が振り込まれる」
「まいつきにじゅうななまんえん……」
「そう」
「……そ、そ、そ、そのようなお金を頂く訳には参りません! わたしは別に……」
「僕たちのパーティーの分配の契約通りと思って。計算の基準は魔石にしてもらったんだから。そう契約したよな? 覚えてない?」
「あ……」
そう僕に言われて、岡山さんは落とし穴の底で作った契約書を思い出したらしい。そう。魔石は折半するのだ。
「す、鈴木、さん……」
「これで、約束が守れる」
「え……?」
「卒業まで岡山さんを退学から守るって言ったよな? 毎月27万円あれば、他にも稼げるし、もう大丈夫だな」
「あ……」
「これで君を卒業まで退学から守れると思う」
「っ……」
「ぐへっ……」
横からぎゅっと抱き着いてきた岡山さん。あのぅ……親だけじゃなくて、なんかお偉いさんにも見られてて……はっ! このままでは不純異性交遊での退学RTAが!
「お、落ち着いて、広島さん! まず、離れて……」
「岡山です……」
最後に一度、ぎゅうっと力を込めてから、岡山さんは僕を離してくれた。
「……でも、そんなところさえも、大好きです」
眼鏡の下で泣きながら笑ってそう言った、岡山さんは最高に美少女だった。
その泣き笑いの笑顔に、なぜかドキリとしたことは僕だけの秘密だ。
中身は大人、体は高校生で、JKはダメ絶対。しかも、僕とは怖ろしいほどに金銭的な繋がり。援助交際とかパパ活とか言われるレベルを軽く越えてる。5000万円だし。
とはいえ、彼女は僕にとってはもう、かけがえのないパーティーメンバー。
さ、明日は外のダンジョンをRTAしに行こうか、岡山さん。
僕は心の中で、そんなことを考えていた。
でも、母親仲良しRTAで、この夜に外泊許可を得た岡山さんがウチの妹の部屋に泊まることになることを、僕はまだ知らない――。




