128 鳳凰暦2020年6月22日 月曜日 昼休み 国立ヨモツ大学附属高等学校・中学校内ダンジョンアタッカーズギルド出張所3階第8ミーティングルーム
昼休み。貴重なはずの、昼休み。
学校祭で2日間もダンジョンに入ってなかった僕――学校祭2日目の夜も入れなかった。なんで夜もダメなんだ? 不満しかない。犬ダンのゲート前で警告音を鳴らして膝をつくのもこれでいったい何度目か。目立つだけじゃなく、ギルドの人から叱られるんだよな、割と本気で。呆れられつつ――としては、朝の豚ダンと小鬼ダンの隠し部屋だけでは満足できずにいた。
だから、本当は昼休みもダンジョンへ行きたかったんだけど、先輩からすごく頭を下げられて、ミーティングルームにクランメンバーと一緒に集まった。
……まあ、休み時間に僕のクラスにやってきた先輩が同じクラスの……えっと……と、なんとかって女の子、と、小鬼ダンのボス魔石について話してる時に、ぺこぺこと僕に対して頭を下げてたのが、あまりにも外聞が悪い感じになったんだよな。
それで、交渉してたその女の子も、僕の周りの席のヒロインズの3人も、かなり困惑した視線を僕に向けてきたから、どうすることもできずに昼休みのダンジョンをあきらめざるを得なかった、という部分は否定しない。否定できない。
それにしても、なんでこの先輩はいつまで経っても僕に丁寧語? 低姿勢? いったいどういうつもりなんだ?
わざわざクランを集めてまで相談があるとのことだったので、さぞかし重要な内容なのだろうと思っていたら――。
「あの……私としては、神殿ダンジョンに行かせてほしいのだけれど……」
――とんでもなく、面倒なことを言い出したのだった。
神殿ダンジョン――平坂第9ダンジョンは、入場制限Fランク、基本は9層構造、ボスは10層格で、洞窟とフィールドと建物などの複合型ダンジョンだ。あくまでも、基本は。
ダンジョンとしての格は1層が7層格で、3層構造、ボスは10層格の豚ダンジョンと実質的には同等だろう。
ただし、1層が正しく1層格、魔石1個200円なので、時間をかけて深層へと挑まなければ、収入は得られないダンジョンだ。
厳密には、1層から既に3層格までのモンスターが出没するんだけどな。
迷路の方の犬ダンよりはちょっとだけ稼げる、可能性は、ないこともない、とも言える。あくまでも浅い層なら、浅い層なりに、という意味で。
その点、豚ダンジョンは入ってすぐ7層格、魔石1個7000円という優良ダンジョンだから、収入面では考えるまでもなく、Fランクなら豚ダン一択。
ただし――。
「……私はもう3年だから、卒業前にジョブを得られるのなら、得ておきたいと考えています。だからお願いします。どうか神殿ダンジョンへ……」
――ジョブ、と呼ばれるスキルセットを獲得するためには、神殿ダンジョンは攻略必須のダンジョンでもある。
神殿ダンジョンのボス部屋の女神像でジョブを獲得すればジョブスキルが手に入るのだ。
収入という面で考えると、生涯獲得換金額という意味でなら必須のダンジョンとも言える。ジョブスキルがあるかないかで大きく変わるだろう。
ゲームのチュートリアルだと3年生で挑むことになる。
実際に、このリアルダンジョンズワールドでは、ガイダンスブックはもちろん、教科書でも、犬ダンをクリアしてFランクになったら、神殿ダンジョンに挑むようと書かれている。
ドロップをさせるのが面倒なスキルスクロールも、本来なら馬鹿高いスキル講習費用――ヨモ大附属ではゴブ魔石100個で在学中にひとつだけ教えてもらえる第1階位の一文字スキルも、普通に支払えばひとつ100万円前後はする――も必要なく、複数のジョブスキルを身に付けることができるのは確かに重要なことだ。
また、ジョブスキルはある意味では使い易いというのもある。
簡単に言えば、自動制御――オートでスキルが使える――なので、脳内詠唱の念呪も、簡易魔法文字を自分で書くこともなく、起句のみで簡易魔法文字が勝手に描かれたり、そのままスキル効果が現れたりで、スキルが自動で発動できるのは強みだ。スキルの発動を妨害されにくいからな。
……スキルスクロールで手に入るスキルとジョブスキルが重なった場合は、発動のタイミングのずれを意識しないとダメだけどな。MP消費はジョブスキルの方が少し多いし。
加えてジョブスキルの中にはスキルスクロールなどでは手に入らない、それぞれのジョブに固有のスキルも存在していて、その効果には確かに有難いものもある。
ゲームで設楽さんが就く『侍』でやってたプレイヤーとかだと、固有の『巻き上げ』ってスキルは戦闘中に相手の武器をファンブルさせるだけでなく、戦闘後の武器ドロップ率を大きく高める効果がある。
なので、『侍』になったプレイヤーはMMOで地獄ダンの奥に入ると、魔石よりもはるかに高く買い取ってもらえる地獄ダン武器を『巻き上げ』て稼いでいた。
僕は自前のプレイヤースキルを使った別の方法があるからそのスキルは必要ないけど、『巻き上げ』を使った方がドロップ率は格段に上だったはず。ジョブスキルは確かに、使えるスキルでは、ある。
まあ、チュートリアルだと、神殿でジョブを獲得してしまえば、エンディングの卒業式へとストーリーが紙芝居的に進行するから、ゲームの中で設楽さんがジョブスキルを使ってるところは見たことないんだけどな。
あれ、横並びで卒業して微笑みを向けられてるのに、MMOステージに移行したらどこにもいないって何なんだろう? ただの青春の思い出? それはそれで悪くはないんだけど……。
ただ、聖女の平坂さんをMMOステージで探し続ける放浪のプレイヤーとか、何人か、いたからな。そういうの、ちょっと可哀想じゃないか?
実際、DWのチュートリアルでも、1年で小鬼ダンのクリア、2年で犬ダンのクリアの後は、選択の余地なく、3年で神殿へと挑むようになっている。
チュートリアルだからな。紙芝居的に進んでいくところはプレイヤーには抵抗できないし、マップ上を強引に移動しても、他のダンジョンには『ここにはまだ入場できません』ってなるだけ。
DWがリアルになった今、その縛りがないから、僕は稼ぎが優良な豚ダンをいつも優先している。稼ぎ以外にもいろいろと理由はあるけど……リアルになった部分として、プレーヤースキルを磨くように、本当に自分を鍛えなきゃいけないから、その点に関しては時間がかかる、とか……。
「いや、行きたいなら、行って下さい、どうぞ。あんな儲からないダンジョンでいいのなら」
僕はなるべく平坦な口調でそう答えた。
「お願いします。3年生としてなんとか……」
「だから、別にいいですよ、行っても。どうぞ」
「……え?」
「先輩が豚ダンではなく神殿に行きたいのならどうぞ」
「あ、あの……? それなら、誰かに手伝ってもらうのも、いいのかしら……?」
「あ、それは別かな。クランの収入にも絡むことだし」
先輩がガクンと落ち込んだ。なんで? 行きたいなら一人で行けば? あの面倒な神殿に。
そうやって落ち込んだ先輩を見て、反応したのは高千穂さんと伊勢さん。
附中ダン科の先輩後輩でもあるので、そういう関係……この場合しがらみと呼ぶべきか? そのせいか、この二人は先輩にとても親切だったりする。いや、他のメンバーも、もちろん親切な子たちなんだけど。
「鈴木くん。犬ダンの次は神殿へ、というのはガイダンスブックにも、教科書にもある正規の攻略順だし、下北先輩の気持ちは、あたしもわかる気がするの」
「そうだよ、鈴木くん。ただでさえ下北先輩は生徒会活動でダンジョンアタックが制限されてるんだから。それに、神殿の攻略はどうせ鈴木くんも考えてるんだろ?」
……制限されているけど、生徒会活動でアタックできない分の収入は補償されてるよな? しかも1.6倍くらいで? 優遇されてるような? ま、これを言ったら嫌がられるだろうから言わないけど。
「……まあ、一応は」
「だったら……」
「僕たちが3年になったら、というつもりだった」
「それじゃ下北先輩は卒業してるって⁉」
「まあ、そうなんだけど」
先輩については、いろいろあった結果、僕との関係は切れないと決まってる。だから、急がなくても問題ない。
僕との関係が切れたら、それは先輩のアタッカー人生の終わり、とも言える。アタッカー人生じゃなくて、人生そのものも金銭的には終わる可能性が高いだろう。
いや、そういえばこの人って下北家だったな。金銭的に、億単位でも支払えなくもないのか……。
だからといって先輩をそこまで優遇する必要はないけど、その結果として、高千穂さんや伊勢さんとの関係が悪化するのは、僕としても避けたい。
クランメンバーとして逃がしたくないんだよな。将来的に、かなり優秀なベースアタッカーになってくれそうだし。しかも、優良なリーダー格で。
……うーん。
「……そもそも、神殿ダンジョンは、マップ非公開のダンジョンだ」
「え? そうなんだ?」
「五十鈴……知らなかったの……?」
「神殿なんかはダン基法じゃなくて特措法関係だからダンジョン関係の勉強が苦手だと知らないかもな。マップを自分たちで作成するのはいいけど、それを許可範囲外に公開すると罰せられる。最悪、アタッカー資格を失うこともある。犬ダンも公式には3層までのマップしか販売されてないけど、それ以降の階層の情報交換で罰せられるようなことはないから、神殿の扱いはなかなか厳しい」
「ええ……」
伊勢さんが目を見開いた。
やっぱり伊勢さん、ダンジョン関係の科目が苦手だから知らなかったな、これは。
ダン基法が条約とカブってるのに比べて、特措法関係は、日本八百万神聖国の国内でのローカル・ルールっぽい内容が定められている。もちろん、政府や、ギルドに都合よく、だ。
ちゃんと勉強してほしいけど、神殿については高2の範囲だったか。知ってた高千穂さんが優秀なのか?
いや、伊勢さん、5月の第一テストの時は大変だったよな。高千穂さんは優秀だけど、それ以上に伊勢さんが法律関係に弱いのかも。
神殿ダンジョンは、ボス部屋のボスを倒すと、そこの女神像でジョブ選択ができる。適性が高い3つのジョブからひとつ、選ぶことになる。ゲームでは。
リアルだとどうなるんだろう? 僕の場合はおそらく……。
……ま、とにかく、ジョブを得て、ジョブスキルが使えるようになることは、アタッカーとして大きく強化されることでもある。そのこと自体は、歓迎されることなんだ。
それと同時に、アタッカーの実力に見合わないジョブの獲得は、逆に歓迎されてない。接待戦闘と同じか、それ以上に。だから、神殿の情報を政府やギルドは封鎖してる。
極端な話、犬ダンクリアを接待で終わらせて、神殿も接待でクリアしたような人がジョブスキルを手にして、そこから犬ダンに戻ってジョブによって得たマジックスキルとかで初心者ダンジョン無双とかをされるのはとっても迷惑、ということだ。厳密には、禁止はされてないけど。
範囲攻撃可能なマジックスキルで誰かを巻き込んだり、とか、ジョブスキルで他のアタッカー、特に初心者を相手に犯罪行為をしてみたり、とか。どうせ証拠なんか残らないし。
あ、これ、ちょっと僕にはブーメランっぽいな。僕の場合、相手は初心者ではないけど。
身の丈に合わない力は人を溺れさせる。上を目指す者だけがジョブを獲得すればいい。簡単に言えば、そういう考え方が、ギルド――というよりは、政府やIDAA――にはある。
そもそも政府は、貧しかったらダンジョンに入って死ねばいいのに、くらいは本音で思ってそうだし。絶対に、公式には認めないだろうけど。
アタッカーの年間死者数を考えたら間違ってないと思う。
しかも、死者の中の初心者の割合が高いから、その説は強化されてると思う。まあ、世の中、本音で見たらそんなものだろう。わざわざ本音で話さないだけで。
……これがゲームのDWでPKアリだったことによって歪められたリアルかもしれないと思うと、ダンジョンという存在が社会全体を大きく別物にしているという怖さはある。
あっちは生き返ってプレイできるゲームだけど、こっちでは生き返れるのは『レイズ』が使える限定された状況だけだ。
それでも生き返れる可能性があるだけすごいことだとは思うけどな。
ダンジョンの外は治安が前世と変わらないくらいにはいい。むしろ、前世よりもいい可能性が高い。軍があるとか、殺伐としたものは感じるけど、日常生活に大きな違和感はない。
ダンジョンの周辺では不穏な空気はあるけど、それもある程度はギルドが抑え込んでる。
それに対して、ダンジョンの中は、まさに無法地帯。ひとつの社会の中に、そんな矛盾したものが同時に存在していることが不思議なくらいだ。
ま、犯罪がほぼバレない無法地帯がすぐそこにあるのに、色々なところにカメラが存在する監視社会の方で馬鹿な真似をするのは、本当に愚かな者だけってことだろうな。
話がそれた。
ジョブ獲得が可能なダンジョンは、そこを自力で攻略できる力を持つ者たちで攻略して、ジョブを手にしてほしい、という感じ。だから情報を封鎖してる。
そもそも、ジョブ獲得が可能なダンジョンは世界的に見てもそんなにたくさんある訳ではない。
この国も神殿への入場については、特に国外のアタッカーを厳しく規制してる。
実際には、大手クランは有望な新人を、見習いアタッカー制度を利用したインターンシップで鍛えて、神殿もキャリーをしてるみたいだけど。
大手クランは基本、IDAAの国際クエストやギルドの指名依頼で、最前線攻略とか、政府依頼の間引きとかに力を入れているから、そこは問題視されてない。むしろ、新人を鍛えてほしいと考えてるだろう。
平坂でも大手クランの活動の中心は、地獄ダンや豚ダンだ。
ダンジョンでの行方不明者はしばらく経てば死者として扱われる。そんな行方不明者が平坂でもっとも多い犬ダンでの活動は、大手クランは避ける傾向にある。抱えているアタッカーの強さが、犬ダンでのダンジョン犯罪の疑いを招くから。
「基本、9層構造でボスは10層格。洞窟、フィールド、建物など様々なエリアが混在する複合型ダンジョンで、鬼系だけでなく、動物系のモンスターも出てくる。死霊系もいる。それと、動物系は、これまでやってきた戦術だと対応ができないことも多い」
「あ、そうなんだ」
「どうして鈴木くんはそんなに神殿のことに詳しいの?」
「それはともかく。今、話してる内容もダンジョンカードを取り上げられたくなかったら極秘で。とりあえず、だけど、高千穂さんと伊勢さんが先輩に協力したい、というのなら、豚ダンをクリアできたら、それはそれでクランとしても、許可してもいい」
「……スルーしないでほしいんだけど」
「え? 下北先輩に協力していいのか?」
「豚ダンは3層構造とはいえ、実質的には3層が9層格でボスは10層格だから、神殿とは同格のダンジョンだし、豚ダンクリアの状態なら、同格以下のモンスターしかいない神殿での安全マージンはおそらく確保できる。神殿でもスキルはボスだけしか使わないし」
そこで酒田さんが首を傾げた。なんか、エサを欲しがるリスっぽい。
「……鈴木先生とヒロちゃんは確か、もう豚ダンをクリアしてますよね? 安全マージンは確保できてるんなら、それなのに鈴木先生が神殿ダンジョンを3年生で挑むと想定してたのは、どういう理由で?」
……やっぱり酒田さんは優秀だな。そこを突いてくるとは。ゲームでそうだったとは言えないし、このリアルの中で、僕も色々と考えてたこともあるから。
「別に必ず3年って訳じゃないけど……僕は地獄ダンのクリアと、森ダンで動物系との戦闘経験を積んで、さらには罠ダンで罠の回避経験を積んでから、神殿へ行くべきだと考えてる」
「……地獄ダンは確か12層構造、ですね? 神殿ダンジョンよりも格上? つまり、まずは完全に神殿ダンジョンのモンスターでは問題がない状態にして……罠ダンでの経験……神殿ダンジョンでは罠も要注意ってことか……森ダンでの戦闘経験は動物系の戦術を身に付ける……そういう事前準備、ですね?」
「まあ、そんな感じ」
「じゃあ、豚ダンのクリアで許可するのは、とりあえず神殿ダンジョンでも死なないだろう、ということですね?」
酒田さんの言葉に僕はうなずいた。酒田さんはなかなか鋭い。
……本当は、神殿ダンジョンの『奥の院』という、ゲームのチュートリアルでは入れなかった、MMOステージ以降でのイベント解放エリアに入るため、なんだけどな。『奥の院』は10から12層でボスは13層格。こっちは地獄ダンと同格になる。
つまり豚ダンでは『奥の院』での安全マージンは確保できない。地獄ダンで鍛えておく必要がある。
神殿の深層ではオーガが動物も含めて手下を従えて出てくるから、難度は地獄ダンよりも『奥の院』の方がほんの少しだけ上かもしれない。
ゲームのDWでの『奥の院』は転職のための場所だ。
ゲームではプレイヤーのキャラ変のためにチュートリアルからやり直しってのが、レベル上げも含めてなかなか面倒――もちろん、一定数はチュートリアルでのヒロイン攻略を楽しもうという人たちもいたけど――で、運営がその突き上げに応える形でアップデートした部分でもある。
それに神殿のボス部屋の女神像よりも『奥の院』のボス部屋の女神像の方がより高位のジョブ――☆4つ以上のレア度――が発現しやすいから、最初っからそっちでジョブを獲得してしまおう、という考えもついでに。僕以外の人は。特に岡山さんだな。3年ならクランは設立できてるし。
……DWで入手したスクロール関係のマジックスキルはMPが足りる状態なら使えるのに、僕のDWでのジョブスキルは発動しないんだよな。なんだか矛盾した不思議な現象だと思う。おそらく、女神像に到達したら解放されるんだろう。
神殿に関しては、リアルではほとんど情報がない。そのため、『奥の院』がギルドや上位のアタッカーに知られているのか、いないのかもわからない。聞くのも変だし。というか無理だし。
知られてない場合、これもお高く売り飛ばせる攻略情報……となる可能性が高い。そうすると、在学中は……というか、クランに正式に所属するまでは、岡山さん以外には……ある意味で先輩は大丈夫ではあるけど、高千穂さんたちには教えられない。そして、本当の意味ではそのためのクランがないのが僕たちの現状だ。
「とりあえず、豚ダンをクリアできれば、下北先輩と一緒に神殿に挑戦してもいいんだ?」
伊勢さんが僕を見て、そう確認してきた。
「うーん。土日の、どちらか、って条件はいるかな?」
「あ、うん。それは納得」
「そうね。鈴木くんが神殿は稼げないって言うのなら、稼ぐ日も必要でしょ」
「あの……ありがとうございます。私の、ために」
ぺこり、と先輩が頭を下げる。頭を下げられても困るんだ、これが。うん、土日のどっちかで攻略できるようなダンジョンじゃないからな。裏技でも考え出さない限りは。
そういう意味では豚ダンよりもはるかに難度は高い。
ガチ攻略は夏休み……も、前半は既に予定が入ってるし、どうしたもんか……。
そもそもリアルだと、ギルドの規定で攻略日程とかをいろいろ書かされるアタック申請も必要なはず。同じ物を学校にも出さないとダメだったよな。予定が狂えばアラートが鳴って、救助隊が派遣されてって、感じで。
僕の予想だと、ショートカット方法はたぶん、あるはずだ。リアルになったから挑戦できる裏技的なヤツが。
「下北先輩、気にしないで下さい」
「そうですよ! 附中の頃からお世話になってたんですから!」
高千穂さんと伊勢さん……今はお世話の立場が逆転、してるよな? その人、先輩だろう?
「……それで、高千穂さんと伊勢さん以外の人は、どうする?」
「わたしは鈴木さんに全て従います」
「鈴木先生がいいって言うんだったら、高千穂さんを手伝いたいね」
「あ、うん。伊勢さんを手伝いたい、かな」
「任せる」
岡山さん、酒田さん、宮島さん、矢崎さんがそう答えて、残る二人、那智さんと端島さんはおろおろとしてる。早く馴染めるといいね。
「じゃ、基本はその3人で。誰かもう一人にはサポートで交代して加わってもらって、神殿の経験を少しずつ積んでいく。サポートの中心は酒田さんと宮島さんと矢崎さん。クランアタックはとりあえず考えてないけど……1回くらいは全員で入ってみるか。まあ、あそこはたぶん走れないから、僕たちランナーズのいつもみたいなアタックにはならないかな。その代わり、マッピングなんかも含めて、いろいろと勉強になると思う。まずは豚ダンのクリアから、だけど」
僕は『走る除け者たちの熱狂』のみんなをぐるっと見回した。
「とりあえず、振休も含めた週末の4連休で、豚ダン、終わらせようか」
そう言うと、高千穂さん、伊勢さん、先輩の3人は、少しだけ目を見開いて動揺してからうなずき、岡山さん、酒田さん、宮島さん、矢崎さんの4人は迷わずうなずき、那智さんと端島さんはピシっと固まったのだった。
……まあ、終わらせると言っても、その後も平日の放課後は豚ダンなんだけどな。稼げるから。
「明日の昼休みに予定してたミーティングは水曜の昼に延期で」
「え? なんで?」
「4連休の予定を立て直すから」
「……申し訳ないです」
先輩も自分の神殿発言が予定を立て直す原因だということはわかってるんだろう。本当に申し訳なさそうに頭を下げた。それを高千穂さんと伊勢さんがフォローしてる。
……奈津美も喜ぶし、平日だけど岡山さんには振休も外泊してもらうか。豚ダン対策の買い物も必要だし。
僕は頭の中で週末の4連休と、テスト後から夏休みの間の予定をどう組みなおすか、考え始めたのだった。




