33 鳳凰暦2020年4月17日 金曜日 放課後 小鬼ダンジョン入場ゲート前
二人が戻って、私――宝蔵院麗子の目の前で、マジックポーチを机に置いた。
「では、ギルドの方で確認を」
佐原先生が私を見てそう言った。
1時間ほど前に、火傷がひどく、血だらけになった男が出てきて、佐原先生がスマホで養護教諭を呼んでヒールをかけさせ、連れて行かせた。
それなのに、そのことを誰も彼に問わない。何も言わない。
全てが異常だ。
私も何も言わずに、マジックポーチの中身を出していく。
減ったのはマジックポーションひとつ、スタミナポーションふたつ。
増えたのはゴブリンソードウォリアーの魔石が31個とバスタードソードが7本。
不正は、ない。不正はないけど、有り得ない。いろいろと有り得ない。
「どうです? 不正はありましたか?」
佐原先生の声が冷たく聞こえる。気のせいではないだろう。
「……いいえ、不正はありませんでした」
私はそう答えるしかなかった。
「すみません、先生、失敗しました」
少年が佐原先生に向かってそう言った。
「何がだ?」
「魔石、30個のつもりが31個になってしまいました」
「ぷ……」
少年の言葉で女の子が噴き出して笑顔になる。それは、ただ純粋に少年のことを信頼している、そんな笑顔だった。武器ロストで退学待ったなし、史上最短の退学RTA、そう言われていた女の子ができる笑顔ではなかった。
私は唇を強く噛んだ。血の味がした。何が私をここまで苛立たせるのか、私にもわからなかった。




