123 鳳凰暦2020年6月19日 金曜日放課後 国立ヨモツ大学附属高等学校生徒会室
相生蒼尉、カクヨム引越、1周年記念1日2話更新「引」(更新時間は6時と18時)です。本日、もう1話更新します。
いよいよ明日から学校祭が始まるという、事前準備の大詰めを迎えた生徒会室で、武闘会の予選の結果を受け取った私――下北啼胤は、それに目を通した瞬間、思わず声を上げてしまった。
「え? 鈴木くんが予選落ち?」
手渡した位置で、書記の真下さんが私を見た。
「あ~、1年の首席の彼か~。会長、彼、知ってるんですか~? あの人、わざと降参してましたよ~。1日目にあの榊原先輩をいびり抜いてから圧勝して~、喉潰して保健室送りですよ~。マジで強かったですね~。信じられないくらい滅多打ちにしてましたよ~。ただ気分良かったですね~。マジウザ前髪ざまぁ~。でも2日目は開始と同時ですぐ降参して~、対戦前にビビッてた幸田くんが~、勝ったのに呆然としてましたよ~。あまりにも予想外過ぎましたね~。あれですかね~、幸田くんって名前に幸運の幸の字があるからですかね~。それで3日目は~、開始と同時に2年の三席の楠木くんを瞬殺して~。これまた保健室送りですよ~。スポンジウェポンって安全って話ですよね~。意味わかんないな~。保健室で外村先生がヒールかけながら、またかよ、みたいなすんごい苦笑してました~。楠木くんなんて~、試合前に~、降参してくれるかもしれないから今日は楽かもな~、みたいなこと言ってて結果はマジ悲惨でしたね~。それで~、3年の首席と2年の三席に土を付けたどう考えても今年の優勝候補の最有力なのに~、昨日と今日は開始と同時に降参して2勝3敗ではい終了~。あの人って武闘会に興味ないんですかね~。ウチの生徒としてありえないわ~。それなのになんで予選に出てるんですかね~。マジ意味わからんし~。だったら出るなよな~。面倒なんだよ~。しかも終わったらすぐ走って消えましたよ~。どうでもいいって態度に出てますよね~」
「そ、そうなの……」
学校祭の武闘会担当になっている真下さんが、予選での鈴木くんについてものすごく細かく説明してくれた。とても長いけれど。しかも、かなり苛立ちを感じる。
「……ずいぶん色々と貯め込んでいるみたいね、真下さん」
「そりゃそうですよ~。初日で榊原先輩をブッ飛ばした彼のせいで~、毎日毎日~、次の日の組み合わせを早く教えろ~って、2年と3年が集まってきて~。武闘会なんだから誰と対戦しても覚悟を決めろって話ですよね~。あいつら馬鹿なんじゃないですかね~。対戦してもあきらめるつもりとかないクセに~。でも、3年の先輩方にはそんなこと言えないし~。2年は同学年だからある意味で3年よりもこっちに対して遠慮がないし~。中にはあいつとの組み合わせだけは避けてくれ~みたいな話を持ち掛けてくるやつまで出てくるし~。組み合わせの裏取引を言い出した2年をふたり~、不正行為で失格にするまでは~、本っっ当に大変だったんですからね~」
「そ、そう……ああ、備考欄にそのこともきっちり書いてあるわね……」
「2日目に彼が試合開始と同時に降参してからは~、流石に裏取引を頼んでくるようなことはなくなりましたけど~。絶対に例年よりも面倒だったと思いますからね~。武闘会の担当が一番楽チンだって聞いてたから真っ先に手を上げたのに~。も~、彼って、自分で火種をまいて~、自分で消すタイプなんですかね~。マジ、なんで予選に出てんだよ~、って感じでしたね~」
……マッチポンプということかしら。
確かに、それらの話は、これまでの武闘会を考えると有り得ない。武闘会はダンジョンアタッカーとしての実力をアピールできる貴重な場である。本当に、貴重な場なのだ。ヨモ大附属の学校祭での武闘会は、有名なクランのスカウトも見にくるのだから。
それと、天狗になっていた榊原くんが叩きのめされたのは彼にとってプラスになる可能性もあるから、と言いたいけれど、彼をいびり抜いたというのは、どういうことだろう? 榊原くんはこれで首席と個の力の強さは別だと気づくとは思うのだけれど。
鈴木くんの実力的に榊原くんを倒すことは十分に可能なことだと思うけれど、何の理由もなくいびり抜くようなことはしないタイプだと思う。
原因は……榊原くんの方にありそうな気がする。そもそも首席になって天狗になるようなタイプなのだから、その可能性は高いだろう。
あと、スポンジウェポンで保健室送りというのもおかしい。安全に戦闘訓練ができるはず。絶対に怪我をしないとまでは言わないけれど、そういう宣伝文句で売り出したはずなのに……。
そして、最後の、走って消えた、というのはおそらくダンジョンに向かったのだろう。そこは鈴木くんらしいと思う。
鈴木くんの武闘会出場の経緯は『走る除け者たちの熱狂』のみんなから聞いてはいるのだけれど、5日間全ての予選に参加するのはいいとして、最後に負ける必要は、ない気がする。真下さんには説明できないけれど。
それに、予選に出るとダンジョンに行けないから、という理由でクラスメイトに補償を求めたのではなかったかしら? 予選が終わればそのままダンジョンに行くのなら、補償はいらないような気がするのだけれど?
……それでも、鈴木くんが本選で3年を潰していくよりはマシかもしれ……あ、岡山さんと酒田さんが3連勝で勝ち抜けして本選に残っている……ああ、終わってしまった。
今年の3年の位置付けはこれで、弱い学年だと言われてしまうのだろう。
ダンジョンアタッカーの世界は実力主義の社会なのだから、それは仕方がないとはいえ、2年以上、中には附中時代も含めて5年以上、共に過ごした者もいるのだから、少しくらいは悲しい気持ちになっても許されると思いたい。
武闘会はもう仕方がない。それ以外は、なんとか3年生の活躍を期待しよ……あ、タイムアタックで、私は鈴木くんに頼んで、伊勢さんたちの出場を……今から思えば、私はどうしてそのようなことを……3年生の活躍が薄れるイベントが増えてしまうのに……いえ。まだ、アンケートの投票が残っている。大学が買取を決めた犬ダンシミュレータなどは今年の目玉になるはず。
とにかく、学校祭はもう明日だ。今夜の生徒会役員の寮の門限はある程度まで緩和されているとはいえ、最終確認を急がないと……。
次回、学校祭開始……。




