120 鳳凰暦2020年6月16日 火曜日5校時LHR 国立ヨモツ大学附属高等学校校長室
「では、合宿所の食事の手配はこの通りで」
「ありがとうございます。じゃ、失礼します」
「ああ、鈴木くん。武闘会の予選はどうですか?」
「はあ、まあ、それなりに」
校長の問いかけに、鈴木は顔をしかめつつそう答えると、そのまま校長室を出て行った。
それを見ていたわし――佐原秀樹は、昨日の鈴木の試合の審判をしていた伊集院先生から聞いた話を思い出し、同じように顔をしかめた。
昨日の鈴木の対戦相手は今年の3年の首席、榊原だった。武闘会予選らしい組み合わせだ。
1年の上位者を3年の上位者と対戦させて、潰していくための組み合わせ。3年の下位とぶつけて、万が一がないように。
まあ、初日は3年対1年の対戦と、2年同士の対戦になっとる。2日目からは早く勝者が決まるように勝者対敗者で割り振っていく。
鈴木と榊原の対戦では、試合前に榊原が「おまえが1年の首席か。このオレを相手に何分持つか、楽しみだ」とか鈴木を挑発したらしい。
それも、ご自慢の前髪をかき上げながら、だ。長いのが邪魔ならとっとと切れ。
いつもの鈴木なら軽く聞き流すような気もするが、その後で鈴木に近づいた榊原が何かを囁いたそうだ。その内容は伊集院先生にも聞こえなかった。教師に聞こえないようにしている時点で、ろくでもない内容に違いなかろう。
すると、鈴木は「当然、偉大な前髪先輩は、絶対に、勝利をあきらめない僕と最後の最後まで、真剣に、戦い続けますよね? もちろん、降参するとか、有り得ないでしょうね? 先輩ですから! 何分持つか、確認するためにも、絶対に! ですよね? ね? そのうっとうしい前髪に賭けて! そのだっさい前髪に賭けて!」と何倍も煽り返して、鈴木と榊原の試合はかなり感じの悪い雰囲気で始まったという。
二人だけでなく、それを耳にしたその周囲にいた者も、だ。
……生意気な1年坊主を黙らせろ、という感じの雰囲気だったのだろう。
具体的には何が鈴木の気に障ったのかは分からんが、まあ、榊原がろくでもないことを言った、と。おそらくそういうことだろう。
ひょっとしたら1年の誰かが、榊原に何かを吹き込んだ可能性もあるんだが、今のところ、そういう情報はこっちには入ってない。そういうことをしそうな外村は女子寮だからな。榊原とは……そこまで関係はないだろう。
……あと、榊原の前髪についてはわしも鈴木に同意したい。珍しく、鈴木に同意したい部分だ。
そこからは、鈴木が榊原の攻撃を余裕で捌いて、右手の小指、耳、鼻先、唇とか、かすっただけで逆に一番痛そうなところを着実に攻撃してひたすらカスらせ続けたらしい。これについては想像したくない。
豚ダンクリアのDランク資格保持のFランクと、附属の学年首席とはいえ犬ダン止まりのGランク。相手になる訳がない。
とにかく、それが20分ほど続いたそうだ。鈴木と榊原の対戦は昨日の予選でもっとも長い試合だったらしい。
嫌がらせのような攻撃だが、どれだけ唇や耳、鼻先が腫れても、内出血で色が変わっても、それは有効打ではないので勝者判定ができず、伊集院先生もそんな試合に飽きてきたところで、突然、鈴木がギアチェンジして、あっという間に榊原をラッシュで潰した。
油断していた伊集院先生は試合を止めるのが遅れて、ボコボコにされた榊原は保健室送りになった。スポンジウェポンで、だ。
たとえハリセン程度でも何発も強打されたら流石に……特に喉への突きでの一撃は笑えんのだが……もう2度とハリセン程度とは生徒に言えん気がする……。
タンカで榊原が運ばれる瞬間、「エロ猿が……」という吐き捨てるようなつぶやきが、たぶん、鈴木の方から聞こえた気がすると、伊集院先生は言っていた。
その内容から推察するに、試合前の榊原の囁きは、鈴木の仲間に対するろくでもない暴言だったんじゃないかと思う。鈴木の仲間たちについては、ハーレムとか言われとるし、まあ、そういった内容で間違いなかろう。
榊原を徹底的に叩き潰したのも、鈴木の仲間に二度と近づかないように、という警告のつもりに違いない。
実際、その試合を見とった3年や2年は、その後で生徒会役員のところへ行って、翌日以降の対戦予定を必死に確認し出したらしい。間違いなく鈴木の試合の影響だろう。
誰が次の鈴木の相手になるのか、それは知りたくなるはずだ……確実に今日も一人、犠牲者が出るだろうからな……なんだかんだで3年首席の榊原を圧倒できるようなヤツはおらん……。
その後、鈴木はすぐに訓練場を出て行った。岡山と酒田と三人で。
それを見た伊集院先生は対戦表を確認して、鈴木が、自分よりも試合順が後ろの、4組の岡山と酒田の試合が終わるまでの待ち時間の分だけ、榊原との試合を長引かせていたのだと気づいたそうだ。
結果から考えると、本気を出せば一瞬だからな……いや、途中で止められずに、とことん榊原を潰せるように、審判の伊集院先生すら、半端な嫌がらせの攻撃で油断させていた可能性も……鈴木なら、有り得るか……。
……本当に、誰があんなヤツを武闘会に出そうなんて考えた? 色々と犠牲者が増えとるだけなんじゃないのか? まあ、榊原には自業自得な部分も臭うが。
データによると、昨日の鈴木は、岡山、酒田と3人で小鬼ダンへ入ってる。予選があってもその後でダンジョンに入るんなら、クラスメイトから金を毟り取るのはやめてくれ……確かに小鬼ダンだと、豚ダンよりも稼ぎは少なくなるんだろうが……。
……鈴木の鼻をへし折れそうなヤツは……まあ、わしも、一人くらいしか、思い浮かばんな。一度、へし折ってもらった方がいいのかもしれん。
リアリアはカクヨム先行(4/26四章完結済み)です。




