108 鳳凰暦2020年6月10日 水曜日夜 帰り道
外ギルドでの換金を終えて、僕は先輩お姉さまと一緒に外へ出た。先輩お姉さまは僕の換金が終われば残業も終わりらしい。
「今日もギルドが騒がしかったですね」
「48時間アラートになって、Fランクのパーティーが救出に動いたし、騒がしいのは仕方ないのかも」
「へえ、Fランクが」
「毎年、こういうアラートは何回もあって、実際、新人アタッカーは何人も、本当にたくさん亡くなるから。本所の阿部先輩から聞いたけど、救出に入ったパーティーも、本気じゃないんだって、実は。依頼料5万円で入って、中で普通にコボルト倒して、アタックに5万円のボーナスって感じで、48時間アラートでの救出の報酬は25万なんだけど、それは狙ってないみたい」
「なるほど」
……自分たちで普通に入ると、魔石とかのドロップだけが収入だけど、アラートでの救出依頼に参加すると依頼料が入るのか。
確かに、魔石で稼いで、そこに5万円が追加されるなら、十分なのかもしれない。普通のパーティーは。5万円なんて、5層の魔石10個分だし。
いや、でも、Fランクなら犬ダンはもうクリア済みだな。5万円でもちょっと……7層格オーク7匹だと4人パで28匹か……豚ダンの1層で普通に戦って3時間から4時間と考えれば、犬ダンの5層や6層の魔石プラス5万円はアリか?
アリだとしたら、行方不明という名の新人の死亡事故はそれなりに発生してるんだから、Fランク以上の利権かもな。ギルドとしても、犯罪者の巣窟みたいなGランクとは差別化したいだろうし……。
いや、そっちよりギルドへの貢献ポイントの方か? いずれBランク以上を目指すならそれも大切だからな……。
これ、救出が成功した場合、おそらく助けられた人がギルドに弁済するんだろうけど、救出できなかったらそのままギルドが処理するのか、親族に請求するのか、詳しく調べとこう。僕のもしもで家族を巻き込みたくないし。
「鈴木くんは今日も500万超えかぁ。また金の延板がドロップするとか、どれだけ運がいいの? まるで小説かマンガの主人公みたいだね?」
「なんか、最近、運がいいみたいですね。日頃の行いかな?」
「いや、それは悪いでしょ? どう考えても? 鈴木くんの日頃の行いだよ? どこがいいの? あたしの先輩の宝蔵院さんなんて、鈴木くんが苦手で、あたしに鈴木くんの担当、押し付けてるんだから」
「あれ? 先輩は僕の担当、嫌なんです?」
「面白い話がたくさん聞けるのはいいけど、残業が多いのは困る。これでもいろいろと忙しくて。プライベートみたいな部分が。プライベートと言い切れないけど……」
「あと2日、金曜日までお願いします」
「はぁ。それは不正監視の話で、その後、支払の時とかも呼ばれるんでしょ? 教室に?」
「それはどう考えても通常の勤務時間内なのでは?」
「どう考えても通常の業務とはかけ離れてる仕事内容だから」
「そうなのかな……」
「……考えてみれば、あたしが鈴木くんに話しかけようと思ったきっかけって、入学してすぐに100万円以上の買い物をしたことなんだよね」
「あー。あの時、対応してくれたの、先輩でしたか」
「勝手な想像だけど……親ってさ、甘やかす親も、ほったらかす親も、どっちもロクでもないと思うんだ、あたし。鈴木くんって、親から大金だけ与えられて、ほったらかされてるのかなーって、思ったんだよね。それで、ちょっと心配になっちゃって」
「ん? 僕の親はそんな感じではないですけど?」
「ウソ? でも、100万円以上の入学時の入金とか、親の頭がおかしくないと普通はしないでしょ?」
「あれは子どもの頃から僕がひたすら貯金し続けた結果であって、お小遣いとかもあるから親が無関係とまでは言いませんけど、あのほとんどは僕の努力ですよ?」
「……その話、詳しく」
「まあ、お小遣いとか、お年玉とかの貯金はもちろんですけど、メインは中学生からの新聞配達ですね」
「まさかの勤労中学生⁉ てっきり財閥の御曹司みたいな感じで親はお金だけ渡して孤独な子ども時代を過ごしてたと思ってたのに⁉ あの時のあたしの同情を返して⁉」
「僕のどこに御曹司要素があるのか理解できない……しかも御曹司に同情とかもっと理解できない……先輩の妄想力が強すぎますよ……」
「でも、中学生の新聞配達って、そんなに稼げるんだ……」
「いや、そこまででもないですね。僕はもうひとつ、テストの予想問題を作って同級生に売ってました。これもなかなか稼げたと思います」
「そんな中学生っているの?」
「そう言われても……ここにいるとしか……」
「あ、そういえば、今年の首席入学だったね、鈴木くん」
「たぶん、そうじゃないかとは思いますけど、確信はないんですよね」
「なんで? 席順で決まってるでしょ?」
「え? そうなんですか?」
「知らないの⁉ 附中の子とか、クラスでそういうこと、言ってなかった?」
「……あんまり、クラスで話とか、しないんで」
「あ、なんか、ゴメン……」
ちょっと微妙な空気が僕と先輩お姉さまの間に流れた。僕は選択的ぼっちなので気を遣われても逆に困るんだけど。
「……あ、あたし、こっちだから、それじゃ、おやすみ、鈴木くん」
「あ、はい。おやすみなさい、先輩」
「無理し過ぎて怪我とか絶対ダメなんだからね!」
僕は、交差点で先輩お姉さまと別れた。あっちにギルドの職員住宅があるらしい。
以前、職員住宅に住んでるとは聞いたことがある。
普通のアパートとかより、かなり家賃はお安いとのこと。保証人とかもいらないから契約も簡単だとか。さすが、準公務員。アタッカーから掠め取ったお金でいろいろやってるな。
それにしても、今回の不正監視を依頼したことで、これまで以上に先輩お姉さまとは仲良くなれた気がする。これからも僕の情報源として活躍し続けてほしい。口は軽いままで。
まあ、口が軽いだけなら、それを聞いた僕が余計なところに漏らさなければ問題ないか。




