92 鳳凰暦2020年6月6日 土曜日夕刻 平坂駅前ファッションビル『フラットスロープ』7階レストラン街『sweets heaven fall』
リアリア春休み毎日更新実施中(~4/7まで。更新時間18時)
……やっぱり、これは、天使も地獄に堕ちる味。
私――矢崎絵美は、レアチーズケーキを一口ずつ、ソースを変えて味わう。ブルーベリーソース、ラズベリーソース、ストロベリーソースがある。あと、アイスはモカが添えられてる。ちょうどいい苦味。最高のアクセント。
「……こんなお店に毎週、当たり前のように来れるなんて夢みたい」
「美味しいでしゅ……」
4人掛けのテーブルに私と那智と端島、その隣の2人掛けのテーブルにあぶみと宮島が座って、ケーキタイム。ただし、あぶみと宮島は2つずつ、食べてる。すごい。
私と那智、端島の3人は、学年の成績が下からの3人。だから、那智の言う「夢みたい」はたぶん本気。
「お金だけなら毎日も可能だね」
「時間が足りないかな」
「確かに……」
「天国でしゅ……」
「天国から落ちてくるような名前の店だけどね」
……天国のように甘いのに、店名は堕天しているという。ここの店主、まさかの中二病罹患者?
「……伊勢さんたちは、豚ダン、かな?」
「みたいだね。無理しないといいけど」
高千穂と伊勢は、最近、時間にゆとりがあれば、追加でダンジョンに入るようになった。
「心配? あみちゃん?」
「うーん。心配というより、あたしとか、モミちゃんに、頑張ってる背中を見せてくれてるんだよね、きっと。あたしたちの、憧れの人だから」
「あー、そうかな。そうかも」
その通りだと私も思う。高千穂はあぶみに、伊勢は宮島に、頼れる存在だと、そう見られたいと思って、頑張ってる。すごい。
「……下北先輩も、ついに地獄ダン武器に手を出すみたいだし、ますますランナーズは伸びる、はず」
「これからもずっと、走り続けるね、モミちゃん」
「鈴木くんたちは、下北先輩のために学校のギルドに寄って、またダンジョンかな?」
「朝は豚ダンの方から来たから、この後は犬ダンだね、たぶん?」
「うー、あの二人って、もう付き合ってるのかなぁ?」
「さー、どうなんだろうね?」
「『ドキ☆ラブ』みたいで気にならない? もうおうちにお泊りしてるし」
……確かに、気になる。だが、宮島ほどでは、ない。
「うーん。ヒロちゃんが身近過ぎて……お泊りって言っても、鈴木先生のお父さんもお母さんも、妹ちゃんもいる訳だし。あ、そういえば、あたしとエミちゃんはもう予約したけど?」
「え? 新作の? 確か題名、この前、らのべんに出てたような?」
「あ、ライトスパイク大先生の新しゃくは『小説版ドキ☆ラブ ダンジョン学園Ⅱ ~2億DK6JK~』でしゅ!」
「お、端島さんも仲間だね! 題名以外は噛み噛みだけど」
「本屋、行く?」
「行きたいかな。予約できるんならしたい」
「本屋、あるんだ?」
「あ、那智さん、知らなかった? この下、6階がね、フロアの半分以上使って、ほとんどが『火の国屋書店』なんだよね」
「みんな、読んでる」
「あれを読まないヨモ大附属の女の子はいない、かな?」
「隠れファンの男子もいるみたいだけどね……」
そう言ったあぶみは、にやりと笑った。
まさか、鈴木が……隠れ、ファン?




