91 鳳凰暦2020年6月6日 土曜日午後 犬ダンジョン
リアリア春休み毎日更新実施中(~4/7まで。更新時間18時)
「……本当にいいの?」
あたし――高千穂美舞は、そう言ってみんなを見回した。笑顔とともに、うなずきが返ってくる。
「いや、これは流石に、困り、ます……」
私の隣で下北先輩は困惑してすごく慌ててる。
その原因は、今日の分配だった。私と下北先輩の分を増やすための。
犬ダンの1層から4層の魔石はすごく数が多いけど、それをまず100個、あたしと下北先輩で50個ずつに分けてから、さらに残りを10人で分配するという、いつもとは異なる、特殊な分配方法。
あたしと下北先輩は、200円魔石63、400円魔石72、1000円魔石72、4000円魔石72、5000円魔石19、6000円魔石10で、他のメンバーは200円魔石13、400円魔石22、1000円魔石22、4000円魔石22、5000円魔石19、6000円魔石10だ。
「鈴木くんに言われて、みんなで話して、それでいいって決めたから、美舞は遠慮しない。下北先輩も、遠慮はいりませんから!」
「うん。高千穂さんはそれだけ受け取っていいと思うね」
五十鈴や酒田さんはそう言ってくれるし、他のみんなもそれにうなずいてくれる。
これは、あたしと下北先輩が、学校祭でダンジョンアタックできない期間に、補償金が出ることと関係してる。その補償金をできるだけ増やすために、鈴木くんはこういう分配を考えてくれた。それにメンバーは協力してくれた。その気持ちが嬉しいと思える。
「本当に、これは、ちょっと、多過ぎて……」
「そうですか?」
「学校側が、私の補償額で困るというか……」
「学校なんて体制側だから気にする必要なんかないな、それは」
「そ、それは……」
「いいですか、先輩がそうやって拒否すると高千穂さんも困るんですよ。みんながいいって言ってるんですから、ガタガタ言わずに受け取って下さい」
「……」
鈴木くんがそう言って下北先輩を強引に黙らせた。
矢崎さんがすっとあたしの前に出てきた。
「大丈夫」
「矢崎さん?」
「こっちも、20万以上、ある」
「あ、うん……」
「十分、多い」
「そうね……」
あたしと下北先輩は約55万で、他のみんなは約25万の換金額になる。感覚が麻痺してきたせいか、一瞬、25万が少なく思えた。そうだ。25万なんて、普通は稼げない金額だった。常識を失いそうだった自分がちょっと怖くなる。
でもそれは事実で、少なく思う方が気のせいだった。小鬼ダンだと、1日で25万は有り得ないけど、あたしと下北先輩と比べたら差はあっても、みんなの25万は少ない換金額ではない。むしろ、多いと言える。どこと比べて考えるか、誰と比べて考えるか、という話だった。
色々と気にして遠慮するよりも、あたしは、このメンバーに感謝して、みんなのために役立てるようになろうと、そう心に誓った。
だからなのか、あたしの横で、下北先輩がずっと動揺し続けていることには、あたしは気付かなかった。




