85 鳳凰暦2020年6月3日 水曜日午後 国立ヨモツ大学附属高等学校校長室
※相生初商業化記念5日間連続1日3話更新祭り実施中!(4日目)
更新時間は6時、12時、18時です。読み飛ばしのないようご注意ください。
「……ということで、合宿所と、それから小鬼ダンジョンの14時までの入場制限は問題なく可能になりましたよ」
校長の言葉に、鈴木のやろうとしてることがどれだけ大きな影響があるのか、と、わし――佐原秀樹は身を震わせた。
夏休みの5日間、1日中可能なはずのアタック時間を14時まで削るのだ。残り19時までに5時間はあるとしても、他の1年生への影響を考えると頭も痛くなってくる。
「大学の方は……というか、後藤先生は、ですが、5億4000万でなんとかしたい、という意向でしたな。この前、鈴木とは4億円以上で可能な限り8億円に近づける努力をするという約束でしたから、可能なことはできとるとわしとしては考えておりますが」
「……まあ、明確な金額は4億円以上ですから、そう言えなくはないですね」
「これ、ギルドクエストの形で支払うんですよね? 鈴木がいきなりトップランカーになってしまいませんか?」
「……詳しいことは言えませんけれど、鈴木くんはおそらく、分割払いで毎月いくら、卒業時に残りを、という形にすると思います」
……前回もそうだったからな。鈴木は相手にも無理のない方法の方が、結局は自分のためになる、という考え方をする時もある。そうでないパターンにならないことを祈ろう。
わしらは1組のあの連中のように、鈴木を敵に回した訳じゃ……ないとも言えんのか? 下北の一件で?
いや、あれはおそらく鈴木が下北をハメたのだろうと思う。目的は何かがわからんが。まさか、下北家との繋がりでも必要だったのか?
「……それって、卒業していきなり、ルーキーでトップランカーってことになるんじゃ……」
「そこはもう、どうしようもありません。正直なところ、彼は既にトップランカー並みの実力があるとしか言えませんし、ね」
まだ6月だというのに、1000万超えの換金を何度もしているのだ。1年間で億超えは間違いなくやるだろうし、そうなると、トリプルランカーやハンドレッツどころか、トップテン入りも可能性があるだろう。
来年1月のランキングに、『SECRET』と書かれたランカーが出るのは間違いない。下手をすれば、校門前にマスコミが集まる可能性も……。
高校生ランカーはランキングの名前が伏せられるから、それが誰なのかという追及が始まるのが目に見えとる。
あいつを守るためにこっちが全力を尽くさねばならんのは、ちょっとばかし納得ができんところもあるが、あれでも生徒は生徒。守らざるを得ん。
ウチの場合は校内で順位を公開しとる関係上、情報漏れを完全に防ぐのはなかなか難しいが……。
「……あと、少しズレる話ですが」
ぽりぽりと頬をかきながら、岩崎先生が言った。
「実は、下北が……生徒会業務補償の金額が増えて、こっちの負担になってるんじゃないかと心配しておりまして」
「……生徒が気遣うところではないでしょうに。いい子ですね、下北さんは」
「それで、その下北が、1年4組の高千穂が学級代表で、鈴木の仲間なので、高千穂の学校祭での業務補償のことも……」
「……うっかりしとったわ。高千穂は……3年の下北どころではない金額になるかもしれん」
「佐原先生? どういうことです?」
「高千穂は1年ですから……分母となるアタック可能日数が3年の下北とは比べものにならんくらい少ないので……」
「……確か、鈴木くんとは、かなり初期から、でしたね?」
「岡山の次の仲間ですな……第一テストで学年4位ですが、それだけなら毎年1組の附中首席に支払う分と変わらんでしょうが……テスト明けにいきなり小鬼ダンのボス魔石を換金してからは犬ダンと豚ダンが活動の中心で、最近は平日の放課後でも豚ダンで10万超えです。テスト後は5万を下回ったことはなかったかと。それに土日は合わせて50万超えが鈴木の仲間の普通ですからな。いや、テスト明けの試験休みも入れた3連休明けは100万超えだった気が? 鈴木がこの取引の一件でどうやら豚ダンのアタックにこだわっとったから、はじめのうちは金額が少ないのが唯一の救いかもしれません」
「……来年からは規定を変えて、平日の換金額で補償してはどうでしょうか?」
校長が苦笑いでそう言うと、それに答えたのは岩崎先生だ。
「いえ、校長先生。生徒が換金するのはいつかわかりません。休日の分を月曜に換金することもあれば、平日の分を土日に換金することもあります。特に、ボス魔石なんかはパーティーで貯め込んで人数分、そろってから換金するのが普通です。換金額は、どこまでが休日で、どこまでが平日か、判別できないので、補償にはそれらを全て計算しているはずです」
「そうですね。そうでした……」
ふと、わしの頭に、鈴木の顔が思い浮かんだ。
……そうすると、武闘会の件で、あくまでも平日の放課後だけ、それも厳密にギルドまで巻き込んで確認した額を払わせようとした鈴木は、ある意味では優しいのか? あいつの土日の分まで合わせた計算で支払わされるよりは、マシ、なのか?




