83 鳳凰暦2020年6月1日 月曜日午後 国立ヨモツ大学ダンジョン学部攻略研究学科後藤研究室
※相生初商業化記念5日間連続1日3話更新祭り実施中!(3日目)
更新時間は6時、12時、18時です。読み飛ばしのないようご注意ください。
鈴木の仲間たちのデータをそろえて、わし――佐原秀樹は大学へやってきた。
前回も、鈴木の攻略情報の取引で何度もここの後藤教授とは話し合った。今回も、校長の頼みで大学との間の折衝は、わしが担当している。
「いやあ、待ってたよ、佐原先生」
「お待たせしましたか、すみませんな、後藤先生」
「佐原先生とは、もっと違う話をしたいんですけどねえ。まあ、こちらへどうぞ」
指し示されたソファへわしは腰を下ろした。後藤教授もすぐにペットボトルのお茶を持って、やってくる。そのうち1本はわしのため、らしい。
「……最近は、研究室の学生にお茶を淹れさせるのも、パワハラだとか、セクハラだとか……どうでもいいと思いませんか? それで、味気ないですけど、こういうペットボトルでもてなす訳ですよ」
「ウチの、学年の職員室は……気を利かせてくれる先生がいますな、そういえば。来客の時は頼んだりすることもあるが……彼女がそれをセクハラと思ってたら、マズいですな」
「自分からやってくれる人がいるのは、いいですねえ。男性の先生も同じようにやってればセクハラにはならんでしょう。それで、附属高としては?」
「……基本は、8億円で、と考えてますが」
いきなり話題を転換するのは後藤先生の交渉術だろうか。
この前の3年の下北の一件がある限り、附属高のスタンスは8億円だ。校長が『特進コース』の設置に動いた今、この案件自体を却下する方向は……後藤教授なら、ない。
「……鈴木くんは年間8000万円の利益があると言ったけど、8億円だとペイするまで10年分か。流石にそれは学長を動かせないだろうね。とらたぬってやつだ」
「とらたぬ、ですか?」
「ウチの学生はほら、ダンジョン学部で、攻略の学科だから。卒業までに何千万の貯金をする、なんてことをよく口にする訳ですよ。それを他の学生がとらたぬだろ、っとからかうまでがお決まりで……捕らぬ狸の皮算用って言葉を、そう略して遣ってるんですよ」
「そう、ですか……実は、今日、鈴木のグループの生徒たちが、豚ダン2層のオーク、8層格の魔石を換金しました。先週は平日の放課後7層格の魔石を、月曜は9、火曜は14、水曜は13、木曜は14と、平均すれば放課後に毎日7000円の魔石を一人10個以上、換金してますな。吸い上げるのが20%なら、一人が1日14000円、附属高に納金しとる計算です」
「…………36人だと……年間1億2000万かぁ。年間8000万円なんて、軽く、超えてくるねえ。ウチの学生と違ってとらたぬじゃないんだ……金曜日のデータはない?」
「金曜の分は、おそらく土曜の換金なので、7層格オークの魔石は13個、換金してますが、それと同時に犬ダンのコボルト魔石が大量に換金されとるんです。だから、厳密に、これは金曜とは言い切れんのですよ」
「それを言うなら、これ全部、鈴木くんが自分の成果を他の子たちに分配してるだけ、なんてこともあるかもしれないよねえ?」
「……それについては、6月の学校祭前に、鈴木が武闘会の予選で放課後のダンジョンアタックに参加できない日がありますから、そこで。残りの子たちだけでやれるかどうかは判断できるかと」
「え、鈴木くんが武闘会に出るんだ? それは、楽しみだね」
……そのせいでクラスの半数以上が退学の危機に陥ったと知っていても楽しめるのか? まあ、後藤教授には関係ないし、知らないことなんだが。
「犬ダンも、かぁ。ああ、土曜の犬ダンの魔石、大量って、どのくらいです?」
「……1層24、2層35、3層33、4層32、5層20、6層10、ですな」
「それは、一人あたり、の数で?」
「ええ、そうですな」
「豚ダン入りしてるから、ランクによる入場制限の関係で当然、犬ダンはクリアしてるとはいえ、その数は……鈴木くんたちは、何人でアタックしてますか?」
「10人ですな」
「計算し易くて助かるな。240、350、330、320、200、100……ああ、そういうことか」
「後藤先生?」
「……換金額は一人あたりでいくらに?」
「ああ、それは……33万、4万というところです」
「土曜日だけで300万、その20%で60万、か。年間50……いや、高校生だと入れない土曜もあるから……待てよ。前の交渉でも、夏休みなんかは土日と同じって話もあったか。土日合わせて年間100で、それ以上と捉えるべきか……それだけで6000万。さっきの1億2000万と合わせてもう約2億……8億円が4、5年でペイできてしまう……」
「……8億円で、交渉を進めさせて頂いてもよろしいか?」
「いや、大学としても、できるだけ金額は抑えたいですね。前回の支払いもありますし……1億8000万で鈴木くんの在学中の3年間と考えて……5億4000万ぐらいが妥協点、ですかね……もちろん、安くできるのなら、それはできるだけ安くしたいところです」
「鈴木が納得すれば、それも不可能ではないでしょうが……」
「いくつか、気付きもありましたし……そうですね、この木曜か、金曜か、また彼と話す機会を用意できませんか?」
「……では、木曜の午後に学校祭のためのLHRがありますから、その時にでも」
こうして、後藤教授と鈴木との面談がまた設定されることになった。
鈴木との会談を嬉々として望むその姿に、わしはダンジョン攻略を研究している後藤教授の狂気を見た気がした。




