59 鳳凰暦2020年5月19日 火曜日放課後 国立ヨモツ大学附属高等学校校長室
相生蒼尉、初「商業化」決定記念! 記念日複数回更新(6回目)"う"
校長から緊急だと呼び出されて校長室に入ったわし――佐原秀樹は、そこに集まったメンバーを見て、少し首を傾げた。想定外で、理解が追いつかない。
鈴木と校長がいるのはいい。最近では攻略情報の交渉で、それはいつものことだ。それがいつものことになっていることにため息を吐きそうではあるんだが……。
いや……放課後だと……それも珍しいというか、テスト週間でもないのに鈴木が放課後にいるのは変だな。これは……非常に……嫌な予感が……する……。
だが、それ以上に、生徒指導主任の岩崎先生と、3年で生徒会長の下北がここにいるのはどういうことなのか。そこは読めない。
ただ、下北はいつもの溌溂とした表情ではない。これは彼女に何かが起きたのだろう。鈴木絡みで。
おそらくその原因はそこにいる鈴木で間違いないが、下北に鈴木との関りがあったとは知らなかった。平坂か? 下北と平坂は親戚で、鈴木と平坂は同じ小学校だという情報があったはず……だが、それならもっと友好的な雰囲気があっても……いや、鈴木に友好的という言葉は……似合わんな……。
「これでそろいましたね。では、始めましょうか」
その鈴木の一言で、今、この場の主導権は鈴木にあるのだということはわしもすぐに理解した。それが、おそらくは、ろくでもない状態だろう、ということも。
「校長先生、僕としては、ここにいる生徒会長の退学処分を求めます」
「そんな、私は何も……」
「何かをしゃべったら、それはもう……まださっきのような説明が必要ですか、先輩?」
「……」
口を挟みかけた下北を鈴木がすぐに黙らせる。そんな鈴木に応じたのは校長だ。
「……下北さんを退学処分とは、いきなり、不穏な話ですね、鈴木くん。その理由を教えてもらってもよろしいですか?」
「ダンジョン基本法第27条第1項及び第2項に違反したため、です。今は刑事告訴と民事での損害賠償の両方を予定しています」
「27条……攻略情報……まさか、下北さんが? そんなことは鈴木くんの勘違いなのではありませんか?」
一度、下北の方を見てから、校長は首を傾げて、鈴木に向き直り、そう言った。わしも似たようなことは思った。
「……はっきりと申し上げます。僕は、これは、学校の仕業ではないか、つまりは、校長先生の命令ではないか、と、そう疑っています。今、校長先生が、ここにいる先輩を庇おうとした時点で、その疑いはより濃厚だと僕は考えました。そうだとしたら学校を同時に訴える準備も必要ですね」
学校を訴える、と言われて、校長はそこで口を閉じた。鈴木の場合、そういうことを本当にやりかねないのだ。だが、それでも、これは脅しの可能性が高いと考えられる。急な話すぎるからな。
……下北はいったい、何をした? それが分からんことにはどうもならん。鈴木がこんな感じで目を輝かせて、こっちを責めようとしているのなら、間違いなく大金が絡むはずだ。鈴木に対して、下北が何か、隙を見せてしまったことは、下北の表情から見て間違いない。どうにかしてこの被害を最小限に抑えなければならん。
「鈴木。刑事と民事の両方を、予定、と言ったな? つまり、今の段階ならまだ交渉の余地はあるんだな?」
「……ほんのわずかですけどね」
「……その、ほんのわずかな可能性について考えたい。何があった?」
「へえ、知らないフリがお上手ですね、先生?」
「わしは呼ばれてここに来たばかりで、事情が何も掴めてない」
「先生も関係者ですよ? この疑惑の?」
「わしが? 関係者だと?」
流石に身に覚えがなさ過ぎる。わしは本気で首を傾げた。
「鈴木くん、もっと詳しくその内容の説明を……」
「校長先生。ダンジョン基本法第27条違反の内容を説明させるからには、最低でも前回お話しした5年分での4億円については、すぐお支払い頂けるということでよろしいんですね?」
「えっ? 4億円?」
鈴木によって黙らされていた下北がいきなり飛び出した4億円という大きな金額にびくりと反応した。それはそうだろう。高校1年生が校長とのやり取りで口にするような金額じゃないはずだ。
「それは……」
「あー、1年の鈴木だったな。おまえの態度は生徒のそれじゃない。改めろ」
生徒指導主任の岩崎先生が、生徒指導担当として当然の言葉を発した。それは教師と生徒という通常の上下関係においてはとても自然で、当たり前の発言だった。だが、相手は鈴木だ。今は逆効果になる。
「生徒指導の先生も、訴える対象だとこちらは認識してます。教師として上からものが言える状況じゃないことも理解できませんか?」
「何を……」
「岩崎先生、少し待ってくれ。鈴木、すまんが、全方位に敵意を巻き散らすな。話が混乱するだけで、おまえにもメリットはないはずだ」
「……僕としては、そうは思いませんけど、まあ、いいです」
「第27条違反の疑惑について、話せる範囲でいいから、今、教えてくれ」
「それでは……」
鈴木はにやりと笑ってわしらをぐるりと見回した。ああ、こいつは、わしらを獲物だと思っとる……。
「……ひとつひとつ、事実の確認をしましょうか」




