50 鳳凰暦2020年5月18日 月曜日帰りのHR直後 国立ヨモツ大学附属高等学校1年1組
担任の冴羽先生が最後の一言を言い終えるとほぼ同時に、鈴木くんが教室を出て行く。というか、冴羽先生よりも先に教室から出るって、正直なところ、あたし――設楽真鈴には絶対に無理だ。
ダンジョンに行くんだろうとは思うけど、鈴木くんのその情熱は……たぶん、金銭的なことかな? あの鈴木くんだし。
「せっかく席が近くになったのに、バイバイも言えないとか……」
あたしの隣で、そうつぶやいた平坂さんがはぁと小さなため息を吐いた。
平坂さんは明らかに鈴木くんラブだと思うけど、その話題は厳禁だったりする。というか、鈴木くんのことであたしが平坂さんの知らないことを口にすると、ものすごく食いついてくる。
その時の平坂さんはとっても可愛いんだけど、でも、同時にとっても面倒なんだよね……。
そんなことを考えてたら、鈴木くんが出て行った扉から、知らない女の人が顔を出した。うん? 誰だろう? でも、どこかで見たことあるような気も……。
「あれ? 啼胤ちゃん?」
「あ、桃花ちゃん。久しぶり。ちょうど良かった。矢崎さんって、いる?」
平坂さんの知り合いみたい? だからあたしも見たことがあるのかな?
「ええっと……」
平坂さんはクラスの窓際の後ろ、矢崎さんの席の方へと視線を動かした。あたしもそれに釣られて視線を動かす。
矢崎さんの席にはもう誰もいない。
「……いないけど」
「もう? 今から追いかけたら間に合うかしら……?」
「啼胤ちゃん、矢崎さんの知り合いなの?」
「知り合いというか……生徒指導の岩崎先生から聞いたのだけれど、矢崎さん、パーティーからの追放に遭ったって?」
「それは……」
「あ、別に、1組だから桃花ちゃんの責任だとか、そういう話じゃないから。ただ、それだけじゃなくて、先生が言うには育成もひどい状態だったみたいだから、もう上級生がサポートに入るしかないって話だったのよ。それなら私が手伝おうと思って。それじゃ、急ぐから」
「あ、啼胤ちゃ……行っちゃった。早いよ。相変わらず、こうとなったら周囲を見ないんだから……もう鈴木くんが佐原先生に頼まれてサポートしてるんだけど……」
「……平坂さん、下北生徒会長と知り合いなの? 附中だから? それにしては、名前で呼び合うほど親しいのは、平坂さんには珍しい気がするわね」
浦上さんが平坂さんに尋ねる。あ、そうそう、見たことあると思ったら、あの人、生徒会長だ。入学式であいさつしてた人だった。うんうん。覚えてた。すぐに思い出せなかっただけで。
「あー、うん。もちろん、附中の先輩後輩って関係もあるけど、それよりも、家同士の関係で、啼胤ちゃんとは小さい頃から何度も会ってたしねー」
「……え? 下北生徒会長の下北って、あの下北なの? ひょっとして? それならどうしてヨモ大附属に?」
「あの下北がどの下北だと浦上さんがイメージしてるのかはわからないけど、たぶん、その下北だよー。あと、ここにいるのは本人のプライバシーかなー」
「下北先輩って、有名なんだ?」
あたしがそう口にしたら、二人ががばっとあたしの方を振り返った。
「設楽さんはもうちょっと一般常識も身に付けるべきだわ」
「浦上さんと同意見かなー。ちょっと心配になるレベルかも」
「え、そんなに有名? あたし、浦上さんが口にするまで生徒会長ってことすら思い出せなかったんだけど?」
「まあ、そこは、直接の関りはそこまでないからねー……」
「まさか、とは思うけど、設楽さんって、平坂さんの家の、平坂家を知らないってことは、ないわよね?」
「え? 平坂さんちって有名なの?」
「……自分で言いたくはないけどねー。確かに、有名だとはあたしも思うけどなー」
「そもそも、ここの市の名前を知らないとか?」
「浦上さん、それは流石に怒るよ? あたし、地元民だからね? 平坂市に決まってる……って、あれ? そういえば、平坂さんって、市の名前と一緒だね?」
「今、そこなの? あなた、本当に地元に住んでるの?」
「……設楽さんらしいって言えば、そうなんだけど」
「あう……なんか、ごめんなさい?」
二人がかなりのあきれ顔だ。それでも美少女と美人なんだから世の中って不公平だよね……。頑張れあたしのそばかすフェイス……。
「今日は、ダンジョンアタックの合間に、色々と教えながら進みましょうか」
「そうだねー」
二人はうなずきあって、立ち上がった。
「せめて、三大附属と三大ダンジョン群のことくらいは知っておくべきだと思うわ。ダンジョン関係基礎のテストにも出てたでしょう?」
浦上さんがそう言って、先に教室を出た。平坂さんも続く。あたしも遅れないようにそれについていく。
……ダンジョン関係基礎のテストのその問題では平坂ダンジョン群しか書けなくて△で1点だったんだよね、それ。ああ、もう。鈴木くんの予想問題があれば!
あ、でも、テストでそこを間違ったなんて言ったら、またこの二人にあきれられそう……。
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