47 鳳凰暦2020年5月18日 月曜日朝 国立ヨモツ大学附属高等学校1年1組
生徒昇降口前の順位表のことは、朝、校門で平坂さんから聞いたけど、クランメンバーについてはあとで直接聞けばいいから、まあ、どうでもいい。
教室の座席表だけ、見ておけば――。
……あ、変わってない、か…………って、あれ?
僕は座席表を二度見した。してしまった。
僕の席は変化なし。廊下側の一番前だ。ただ、周囲は変化した。変化し過ぎだ。
まず、後ろが平坂さんなのは、まあ、いい。朝、一緒にダンジョンに入ってたこともあるし、実力はわかってる。納得だ。別に文句もない。
……なんで隣に浦上さん? そして、その後ろで、平坂さんの隣に設楽さん?
僕の席、DWの三人のヒロインに包囲されてるんですけど⁉ これ、どんなバグ? なんで?
「何やってんだ、座席表見て固まってないで中に入れ、鈴木」
いつの間にか、そこには担任の先生が坊主頭を輝かせつつやってきていた。
確かに、朝のHRの時間らしい。いろいろと思うところはあるけど、僕は扉をからからから~と開いて、中に入った。
自分の席に座る時に、確かに見えたし、しかも、なぜか、三人ともと目が合った気がする。
「おはよう、鈴木くん」
「おはよー、鈴木くん」
「……おはよう」
浦上さん一人だけ、なんかついでみたいな挨拶なのが救われる。これからもずっとそのスタンスでいてほしい。
「うん。おはよう」
僕はなんとか、挨拶を返して、そこに座った。
「……あいつ、教室でもとんでもねぇハーレム作りやがった」
「ありえねぇ。許せねぇ。殺してぇ」
「マジで、それな」
「……ダンジョンって、危険な犯罪も多いらしいな。ガイダンスブックにあったぞ、確か」
……あの窓際の男子ども、誰か逮捕してくれないかな? 誹謗中傷だと侮辱罪とか、そういうのなかったか。レンタル武器を持ってるはずだし、凶器準備集合とかあてはまるんじゃないかな。殺意もありそうだし。
そう思いながら窓際の方に目をやると、窓際の一番後ろの席の矢崎さんと目が合った。小さく手を振ってる。なんとも言えないけど、一番遠い席だ。僕も小さく手を振り返す。
「ん? 鈴木くん、誰に手、振ってんの? ……あ、矢崎さんか、そかそか」
設楽さんは僕の行動のチェックとかしなくていいし、それを口に出さなくていいから。
「他には友達、いなさそうだし?」
……にやりと笑ってのその余計な一言、いらないから。くっそ、意地悪そうなそばかす顔でさえ可愛いとか、ヒロイン怖い。
「同じ中学のあたしでさえ、あっさりと友達範囲外だもんなー」
「え? そうなのですか、鈴木くん? それ、本当に? あの、それだと、同じ小学校だった私はいったい、どういう位置づけになっているのでしょうか……」
「ふっふっふ、くらえ、鈴木くん。平坂さんの丁寧語アタックを。あの時、予想問題を売ってくれなかった恨み、これで晴らしてやる……鈴木くんの予想問題があれば、あたしだって、浦上さんに負けなかったのに……」
……平坂さんが丁寧語モードになってる? あと、設楽さんが平坂さんを踊らせてるっぽいけど、大丈夫か、このクラス? 設楽さんは基本、剣道一筋の脳筋のはずなんだけど? 平坂さんも設楽さんに踊らされてる場合じゃないよな? どこで覚えた、こんな手管を? いや、別に僕にダメージはないんだけど。
「鈴木は……」
今度は隣からなんか聞こえてきたし⁉ 浦上さんがちょっと頬を染めて、僕に話しかけてきてる⁉ なんで⁉ さっきのあいさつみたいな感じでそのままツンとしてくれてていいんだけど⁉ こっちの方がなんかダメージがある⁉ 頼むから僕がほっとできるツンなままでいて下さい! お願いだから関わってこないで!
「……本当の実力者だったわね。私なんて、次席の位置から7席まで落ちたのに、首席のままでいるなんて。これからは、いろいろと教えてほしいです。どうかお願いします」
浦上さんがなんか頭下げてきた⁉ どうしてこうなった⁉
……あ、そういえば、DWでも、弓ヒロインの浦上さんは席替えで隣の席になってからがその攻略ルートって掲示板で見たような気が……え? 僕、弓ヒロインルートなの? ていうか、そもそも主人公って誰なんだ? 僕なのか? そんな馬鹿な?
誰だか知らないけど、主人公⁉ いるならちゃんと仕事しろよ⁉ 困ってるヒロインに近づいて、きっちり助けておくのが主人公だろ⁉ なんか、モブのはずの僕のチュートリアル、バグってるぞ!
ヒロインには関わらない方針だったはずなのに、席替えでヒロインに取り囲まれるって、これ、どういうバグなんだ?
「とりあえず全員、静かにしろ! 朝のHRだ! 新しい席だからいろいろあるのはわかるが、ちょっとは落ち着け!」
坊主頭の担任の声が僕にとっての救いだと感じた。教師の存在が救いだなんて、小学校1年生からの学校生活10年目にして、僕にとっては初めてのことだった。




