46 鳳凰暦2020年5月18日 月曜日朝 国立ヨモツ大学附属高等学校1年4組
朝、寮で配られた個人成績表を見て、こうなるとは思ってたけど、と心の中でため息を吐いたあたし――高千穂美舞は、改めて自分と酒田さんのGWまでの納品・換金の状態について考えた。
鈴木くんは順位を下げるつもりで――本当はゴブリン系の魔石を卒業後のために貯め込ませるつもりで――GWの魔石の納品を禁止したんだろうけど、それは既に手遅れだった。
思えば鈴木くんのヘルプがもらえるようになってすぐ、ボス部屋を2周した。その時からもう3層の魔石も分配されて、換金していた。土日は鈴木くんからのタイムアタックの指示があったため、ボス部屋に入らず、ボス部屋までを5往復だった。
普通のパーティーはボス部屋どころかその手前で戻る1往復なのだ。
あの2日間であたしと酒田さんは実質、10日分のアタック回数、しかも、4人パーティーに対してあたしたちはペアだから、実質、20日分だ。GW4回分くらいある……。
しかも、平日に3層魔石を増やすようなアタックもしていた。ボス戦でボス魔石を取って転移するより、3層で戦闘回数を増やした方がはるかに稼げるのだ。
……どう考えても、この順位は妥当。逆に、岡山さんのすぐ下、あたしと酒田さんよりも上の、3位にいるモモがすごいと思う。
でも、これもおそらくは、4月のスタートから3層に入ってた分だけじゃなくて、鈴木くんとの朝のダンジョンの分があるからだろう。
結局は、モモだって、鈴木くんの関係者だ。ただ、鈴木くんの予想問題はないはずだから、筆記の方は完全にモモの努力だけど。
できるだけ早く、酒田さんと教室に入った。4組から上位なのだ。2組の、いろいろと言ってきそうな連中とは関わりたくない。4組の教室の中にいれば、それは避けられる。
でも4組の中は――。
「はぁ~、面白いくらい、遠巻き、だね」
酒田さんがへらへらと笑いながら、小さな声でそう言った。
あたしと酒田さんは廊下側の、前から2番目と3番目の席。1番前の空席は岡山さんの席だ。席替えは先生方の指示で生徒会役員がやると聞いたことがある。
あたしと酒田さんが座っている、この近くに、誰も近づかない。誰も話しかけてこない。
それはそうだろう。あたしと、酒田さんと、岡山さんの3人以外は、誰一人として、4組から上位20位に入っていないのだから。そこに入ってることの方が、驚くべきことだけど。
だから、4位のあたしと5位の酒田さんは、4組では完全な異物でしかない。おそらく、3組では、五十鈴と宮島さんが同じ状況だろう。
「……矢崎さんが言った、あれ、本当だったみたい」
「ああ、『遠巻きは除け者の一形態』? あれは名言だったね」
「鈴木くんも、こんな気持ちなのかしらね?」
「あー、うーん。鈴木先生は、こういうの、全然気にしてなさそう」
「それもそうか」
そこでからりと入口の扉が動いて、第一テストで学年次席の第2位となった岡山さんが入ってきた。一瞬で教室内がシーンと沈黙した。ある意味ですごい。時計を見たら、もうギリギリの時間だ。
「おはようございます、高千穂さん、あぶみさん」
「ヒロちゃん、寮でもう朝は挨拶してるんだから、それ、真面目過ぎだよね?」
「……つい、そういう言葉は口から出てしまうので、そんなに変ですか?」
「大丈夫。礼儀正しいのは何の問題もないの。酒田さんは岡山さんにもっと気を遣って」
「じゃあ、気を遣って聞いてみるね。今朝の鈴木くんはどうだった?」
「いつも通り、素敵でした……」
「それのどこが気を遣ってるの……とりあえず、岡山さんも座ったら?」
「あ、はい。一番前、でしたね」
あたしたちは、この新しい席で、7月の第二テストまで、やっていく。たぶん、この3人の中での入れ替わりはあっても、1年生の間は、この教室右前の位置取りは変わらないと思う。
……まあ、前の座席より、この二人が近くて、ずっと居心地がいいのは、間違いない。




