表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RDW+RTA ~リアルダンジョンズワールド プラス リアルタイムアタック~  作者: 相生蒼尉
第4章 その1『RDW+RTA +KAG(M―SIM) ~鈴木の経営ゲー(マネジメントシミュレーション)~』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

231/422

27 鳳凰暦2020年5月13日 水曜日放課後 国立ヨモツ大学附属高等学校校長室


 校長に呼ばれたわし――佐原秀樹は、校長室のドアをノックして、返事を待って中へと入った。校長はソファの方を指し示した。


 長い付き合いだ。遠慮なく先に座って待つと、向かいに校長も座る。


「……大学から、連絡がありました。前回、同席していた学長、攻略の後藤教授、それに加えて、教育学部と経済学部にも、鈴木くんは我々に届けた物と同じ物を送っていたようです」

「……あいつは、どこまで、本当に……」


 攻略の後藤教授ーーあのダンジョン狂いを巻き込んでいるのなら、わしや校長が抵抗したところで大学側がこの案に乗ってくる可能性は高い。


「彼を知らない教育学部と経済学部からは、高校生のイタズラにしては質が悪いとのお叱りを頂きましたが、まあ、それは仕方がないことでしょう。私の方で謝罪しておきました。それよりも、後藤教授は今回の件に積極的なようです。前回、1億円をまんまと毟られたというのに、ね」

「校長としては、どうお考えですか?」


 校長は、附属高の校長であると同時にヨモ大の教授でもある。所属学部は教育学部だ。ダンジョンアタッカー教育学の第一人者でもある。


 今の、ウチの基本方針は、この校長の色が出ている。元々、この校長の師だった、既に退官した教授の方針を受け継いだものだ。以前は、その方がここの校長だった。


 戦闘の制限回数を守り、地道に力を付けて、あせらず、慌てず、着実に4層や5層で戦える力を付けて卒業させる。

 そうすれば、一般の初心者アタッカーよりも4階層、5階層上からのスタートであり、4層からは魔石の買取額も跳ね上がるので、卒業生の生活も安定する。

 社会全体としても、電力化に最適なサイズの範囲の魔石が着実に供給されるため、社会の安定にもつながる。

 一般のクランの多くも、最前線に出るヘッドライナーとなるメインアタッカーたちを支えるベースアタッカーとして、4000円魔石、5000円魔石を集める卒業生は確保したいと考える。各クランではその50%くらいをクランの収入として確保する訳だが……。


 上級生の多くが、犬ダンの4層や5層で安定して稼げるようになって足踏みし、放課後や休日にダンジョンアタック以外の自分たちなりの楽しみを見つけて過ごし、それ以上は攻略しようとしない現状も、校長の方針としては、言わば望むところ、である。

 安定した生活基盤の上にゆとりが持てるぐらいは適度に働き、休日には趣味などの自分の時間も充実させる、本当の豊かさがある生活を、ワークライフバランスをダンジョンアタッカーにも実現させたいと、ずっと、校長はそう言っていた。引退後のセカンドライフも含めて、な。

 健康で文化的なダンジョンアタッカーというのは、矛盾が内包されとる気はするが……。


 教育的観点から見れば、生徒の将来と生命の安全を確保しながら、生命の危険に陥る可能性が高いダンジョンを攻略させる、これが、この方針の徹底が最大限の譲歩だと、校長は言っていた。それが他の2校よりも徹底できるのは、ウチが小鬼ダンという超初心者ダンジョンを専有しているからだ。


「……正直なところ、迷いはあります。それでも、昨日、鈴木くんに言われた言葉は、痛い所を突かれました」

「あいつの言葉は、交渉術か何かだと思いますが? こっちが気にする必要はないのでは?」

「あれが交渉術だったとしても、私が正しいと信じて、それを守り続けてきたことによって、夢を奪われ、目標に手が届かなかった生徒がいたのかもしれない、そう思わされましたから。それも、周囲の誰とも知らぬ大人たちの言葉ではなく、現役の、この学校の高校生の口から、です。本当に、一番痛い所に刺さりましたよ」

「校長は、真面目過ぎますよ……」

「あの陵くんの在学中も、佐原先生とは、いろいろとこういった話をしましたね」

「あの時はまだわしも若かったのかもしれません。陵たちを応援してやりたい気持ちもありましたし、校長には何度も無礼な言葉を言いましたな」

「おや? 鈴木くんには、佐原先生でも否定的なのですか?」

「……陵の時は、そうですな、なんというか、それでも、まだ、地に足のついた攻略だと思えたんですよ。自分を高め、仲間を励まし、引っ張り上げて、着実に一歩ずつ、上へ、上へと、命を失うリスクは負いながらも、可能な限り安全を確保して進む、冬山登山のようなものですか」

「鈴木くんは、違いますか、佐原先生?」

「本質は、同じでしょうな。自分を高め、仲間も導いているという点では。だが、鈴木のそれは早過ぎるというか、急ぎ過ぎるというか……陵は何をやってるのかがわかりました。鈴木は、何をやってるのか、全くわからんのです。どうやればこの速さで、この成果を成し遂げられるのか、考えても答えが出ません。ヒントはありますがね。大量に購入していくスタミナポーションとか。これは陵の時も同じで、鈴木の場合その何倍、何十倍もの量だというだけで」

「……戦闘の制限回数を守る気がない者にとって、私の考える方針は、邪魔なのかもしれませんね」

「……こう考えるのは、正直、気に喰わんのですが、鈴木は、そういう校長の考えにも配慮しての、『特進コース』という提案じゃないかと思うんです」

「つまり?」

「こっちのやり方で、そいつのためになる連中は、そのままでいい、と。そういうことでしょうな。しかし、それ以上を目指す者、目指せる力がある者、そういう生徒のための道も開け、と。方法ならおれが用意するから、と。とんでもない高校生がいたものです」

「なるほど……私はですね、佐原先生」

「はい?」

「前回、鈴木くんが、あの1億円を独り占めせずに、岡山さんと分け合って、『これで君を退学から守れる』と言った、あの瞬間、実は感動したんですよ」

「……わしは、鈴木に抱き着いて告白した岡山を見て、年寄りには目の毒だと思ってましたな。こいつらはわしらの目の前で何をやっとるんだ、と」

「ああ、あれも若者らしくて、感動的でした」

「はあ、まあ、そういう面もありますが……」

「だからですね、佐原先生」


 校長はそこで、穏やかに微笑んだ。


「彼は……鈴木くんの根っこにある何かは、信じてみてもいいのではないか、と。そう思うんですよ。彼にはそういう善性があるんじゃないか、と、ね」

「校長……」

「この、どうしようもない雁字搦めのアタッカーの世界で、実際、既に彼は何人も救ってきているではないですか?」


 まだ鈴木のことをそこまで信じられない心の狭いわしは、それ以上、何も言えなかった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] どこまでも信じちゃう人とどこまでも疑っちゃう人 そのどちらもが必要な時とか人ってあったりいたりするんでしょうね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ