22 鳳凰暦2020年4月15日 水曜日昼休み 国立ヨモツ大学附属高等学校1年職員室
「失礼します」
がらっと扉が開いた音でおれ――冴羽竜が顔を上げると同時に平坂が中へと入ってきた。その後ろには設楽もいる。
「おい、入室許可はまだ……」
「そのようなことはどうでもよろしいのです、冴羽先生。いいですか、悪意ある、そして根も葉もない噂によって、この附属高に、いえ、後々にはこの国に、さらには世界に大きな影響を与える重要で優秀な人材がいじめによって傷つく危険にさらされているのです。なぜこのようなところでのんびり座ってらっしゃるのですか、この給料泥棒は! すぐに動いてください!」
……誰だ、コイツのスイッチを入れたヤツは? 外村か?
「落ち着け、平坂。おまえの言いたいことはひとつもわからん」
「これが落ち着いていられますか! 彼がそのようなことをするはずがないのは明白です! まさに無実の罪なのですよ? すぐにでも学年集会、いえ、全校集会、いえ、全国会議を開いて、噂を否定して、このいじめを止めさせなければなりません!」
「こりゃ、ダメだ」
おれは、ギャーギャーとうるさい平坂を片手でいなしながら、その後ろの設楽を見た。
「こいつが言ってる彼って、誰かわかるか、設楽?」
「あ、あたしですか? え、ええっと、平坂さんが言ってる彼というのは、鈴木くんです」
……鈴木? マジ? あいつ、この学年一のモテ女RTA完了済みなワケ? 何モンだよ、おいおい……いや、それよりも鈴木の噂? どっちだ? 魔石か? 女か?
ギャーギャーとうるさいのは止まらないが、設楽はまだ平坂よりは話が通じそうだ。
「鈴木はなんて言われてる? どんな噂だ?」
「あたしが直接聞いたわけじゃないんで、又聞きですけど、なんか、女の子を無理矢理どうのって言われてます」
「誰が言ってた?」
「それはよくわかりませんが、あたしが聞いたのは、学食から戻ってきたクラスメイトの女子たちです。たくさんいたので、誰とは言えません」
「それで、なんでおまえまでここにいる?」
「えーと、平坂さんに連れられて、ですけど、あたし自身も、同じ中学校ですから、鈴木くんがそんな人ではないと、先生に伝えたく思ってここに来ました」
「そうか、そういや、おまえも平坂北中だったか……」
……クラスに情報源があったんじゃねぇか。何やってんだおれは。
「それで、なんで平坂は鈴木のことをこんなに怒ってんだ?」
「えっと、たぶん、ですけど、平坂さんと鈴木くんが同じ小学校だからじゃないかなーと」
……まさかの幼馴染ってヤツかよ? 情報の見落としがひでぇな⁉ いや、ウチの学校でそんな身近なクラスメイトがあいつにいるとか思うかよ、普通⁉ 誰かとしゃべってるとこ、ほとんど見たことねぇし⁉ 本が友達のぼっちだろ⁉
「すまんが、具体的な事実を元に、鈴木がどんな人物だったか、教えてくれ、設楽」
おれは、まともに話せそうにない平坂ではなく、設楽からの情報収集を始めた。
……噂にはなるとは思ってたが、面倒臭ぇ。どうしてこうなった?
ただ、こんな噂、あいつは気にしないんじゃねぇかって、それだけは確信がある。変なヤツだが、そこだけは信じられそうな気がする。