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RDW+RTA ~リアルダンジョンズワールド プラス リアルタイムアタック~  作者: 相生蒼尉
第3章 後編『RDW+RTA +SDTG(T―SIM) ~鈴木の育てゲー(育成シミュレーション)~』
175/420

85 鳳凰暦2020年4月30日 木曜日放課後 小鬼ダンジョン


 今日から新メンバーに加わった矢崎さんの育成が始まりました。昼休みに佐原先生から矢崎さんがパーティーを追放された話を聞いて、わたし――岡山広子は、ああ、この人もわたしと似ていて、それで鈴木さんのところにたどり着いたのか、と、そう思ったのです。


 朝の隠し部屋での話では、今日は私と鈴木さんで隠し部屋に籠る予定でした。

 それがなくなってしまったのは残念ではありますが、矢崎さんの事情は、あの時のわたし以上に大変で、また、他人から傷つけられたという点でも、わたしとしては、矢崎さんには何かをして差し上げたいと、そう思ったのです。


 いつも通り、誰よりも早く小鬼ダン前に集合するわたしたちの中に、みんなと同じブレストレザーを身に付け、スモールバックラーシールドと一緒にショートボウを左手に持ち、腰にはショートソードと矢筒を下げた矢崎さんがいました。


「……まさか、あのガバチョさんのシールドボウ戦法を実践してるとは、矢崎さん、やるな……」

「?」

「シールドボウ戦法って、何ですか、鈴木先生?」

「とりあえず、中へ入って、走りながら」

「あ、はい」


 きょとんとした矢崎さんと、質問した酒田さんを引き連れて、鈴木さんがゲートを入っていきます。もちろん、わたしたち全員が続きます。


「いつもより、少しペースは落とすけど、僕と岡山さんが今日は矢崎さんの育成を担当する。夜は寮で、どこまで進んだか確認してもらって、明日は高千穂さんと酒田さんに任せるから。4人はとにかく周回を」

「はい! ヒロちゃん、寮でシールドボウ戦法について教えてね! じゃ先に行きます、鈴木先生!」

「……先生?」

「あぶみさんは鈴木さんのことを先生と呼んでいます。あまり気になさらずとも問題ありませんので、聞き流して大丈夫です」

「わかった」


 高千穂さんとあぶみさんを先頭に、伊勢さんと紅葉さん、最後尾にわたしと鈴木さんと矢崎さん。今日はペースが違うので、どんどん背中が離れていきます。


「っ……ゴブリン、が」


 あぶみさんが先頭でラム走を使って最初のゴブリンを刺し殺して始末しました。それを見て、矢崎さんが驚きます。初めて見ると、まるでゴブリンに抱き着いたかのように見えますし、驚くのも当然です。


「……みんな、速い」

「矢崎さんも、GWが終わる頃には、それほど変わらずに走れると思います」

「ほんとに?」

「もちろんです」

「5分くらいは、ただ1層を走るだけになるかな。それで、矢崎さんは、今日の月末の支払いは大丈夫かな?」

「それは、大丈夫」

「そうか。じゃ、今までのゴブリンの討伐数と、魔石数を、だいたいのところでいいから教えてほしい」

「……実習も含めて、74体、倒した」

「……思ってたよりも多いな。魔石は?」

「多い? 外村は、1組で一番、少ないって」

「どうだろう? 他の1組の人とは……平坂さんとは比べられないか……僕とも、比べる意味はないし……」

「鈴木、だけ、私と同じ? 佐原先生が言ってた」

「スキル講習を受けてない、つまり1層のゴブリンの魔石100個の納品ができてないって意味では同じだけど、あれだけ他の生徒の情報を掴んでる先生だからな。困ってる矢崎さんを任せるのなら、僕のところが一番手っ取り早いと思ったんだろうな。前に交渉した時も、あの先生は、そんな感じの先生だった気がする」

「交渉?」

「ちょっと、いろいろとあったから。あれは意外といい先生だし。で、魔石数は?」

「……34」

「それは、確かに少ない……1日2個ぐらい?」


 こくり、と矢崎さんがうなずきました。


「とりあえず、最初のエンカウントは矢崎さんにやってもらおうか。危なくなったらすぐに助けるから、一人で、イケるかな?」

「……やってみる」

「うん。頑張って」


 それからおよそ5分。あぶみさんの倒したゴブリンのリポップが始まったようです。


「行く……」


 行く、という言葉とは対照的に、その場に立ち止まった矢崎さんが弓を引き、矢を放ちました。わたしと鈴木さんはそれをすぐ後ろで止まって見守ります。


 矢崎さんは矢を2本、ゴブリンに的中させるとショートソードを抜き放ち、グギャグギャグギャギャとうるさく走り寄るゴブリンと対峙します。矢が刺さって怒っているのでしょうか?


 棍棒をスモールバックラーシールドで受け止めると同時にショートソードを振り下ろします。それを2回繰り返して、ゴブリンは消えました。


「……どう?」


 ちょっと嬉しそうに笑った矢崎さん。あ、それを聞くのは、今は止めた方が……。


「とりあえず走りながら話す」


 鈴木さんが走り始めたので、ついて行きます。


「まずは、今の段階としての命中率はいいと思う。でも、立ち止まってじゃなくて、走りながら、走ったまま矢を放てるように、それで命中させられるようにならないとダメだ。それと、ショートソードの扱いだ…………っと…………ショートソードの扱いだけど、刃は割と綺麗に立ってるから、振り下ろしでもっと手首を活かして。ずっとぎゅって握ってるよな? あれはもっとゆるーく握って、ゆるーいまま振り下ろして、相手に斬りつける瞬間、今だっ! って感じでぎゅっと握るように…………っと…………その、斬りつける瞬間にぎゅっと握れば最後にグンっと剣速が上がって、もっとダメージを与えられるようになるから。そこをきっちり意識しないとな。それから盾だけど、あれも、必ず相手の攻撃を受けるんじゃなくて、避けられるものは避け…………っほ…………避けられるものは避けて戦うのが基本で、どうしても受けなきゃ危ない時に受けるのが基本。あとはわざと受けることで一番いい間合いと立ち位置を確保するって考え方があるから、そこは臨機応変に……」

「鈴木さん、ゴブリンの相手はわたしがやりますから。矢崎さんがびっくりしてらっしゃるので、走りながら、話しながら、倒しながらは、あまりにもながらが過ぎます」

「あ、じゃ、広島さん、お願い」

「岡山です」


 ……話している間はわたしが露払いを担当するとします。あと、ボス戦は絶対に鈴木さんにはさせられません。矢崎さんの乙女の誇りはわたしが守ります。






 ボスの消えたボス部屋で、真っ赤な顔をして目を潤ませた矢崎さんを助け起こし、わたしはタオルを差し出します。


「屈辱……」

「ここのボスは乙女の敵なのです。それに、たぶん、矢崎さんは三人目だと思いますから」

「っ……そう?」

「はい。メンバーの中に仲間がいます。安心して下さい」

「ありがと……」

「いいえ。わたしも、このクランの仲間ですから、当然です」


 ……あぶみさんや紅葉さんの『仲間』とは少し意味が違いますので、そこは気をつけてほしいところです。まあ、別にわたしは気にしませんが。


「……岡山、すごく強い」

「……鈴木さんに鍛えて頂きました。もちろん、これからも鍛えて頂きます」

「私も、なれる?」

「シールドボウ戦法の可能性は鈴木さんがこれでもかと語ってましたので、きっと、強くなれると思いますよ?」

「岡山は、鈴木のこと、信じてる?」

「もちろんです。わたし、この学校で、本当にひとりぼっちでした。今日で退学になると思っていましたし、それどころか、もう死ぬかもしれないとも思いました。それを、そんなわたしを助けて下さったのが鈴木さんでした。わたしは一生を懸けて、鈴木さんに恩返しをするつもりです」

「ひとりぼっち?」

「はい。わたし、補欠入学で、学年の最下位で入学しました」

「嘘……」

「嘘ではありませんよ。それを鍛えて下さったのが鈴木さんです。矢崎さんは、あぶみさん……酒田さんが最初にゴブリンを倒すのを見て、驚きましたよね? あれも、あぶみさんも、鈴木さんが鍛えたのです。ですから、矢崎さんも、信じて大丈夫です。一緒に頑張りましょう?」

「……うん」

「じゃあ、1層へ転移しましょう。上でトレーニングが必要ですから」


 わたしは矢崎さんの手を引いて、転移陣へと入りました。

 鈴木さんのクランメンバーを増やし、逃がさず、縛り付けるのは、わたしの仕事でもあります。矢崎さん、申し訳ありませんが、絶対に逃がしませんから。







鈴木の、学年主任の佐原先生に対する評価が高いのは、第1章『25 鳳凰暦2020年4月15日 水曜日夜 国立ヨモツ大学附属高等学校応接室』での交渉で関わったから。要するに、お金。


そして、三人目のJK、サードJK矢崎、乙女の尊厳を失う……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 3人目だけどファーストなチルドレンっぽいこと言われるw
[一言] 岡山さんが完全に鈴木の手下として洗脳されている…
[一言] 知 っ て た やはり乙女の尊厳は守れなかったか…… 矢崎頑張れ〜!周りを見返してやれ〜
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