17 鳳凰暦2020年4月14日 火曜日1時間目 国立ヨモツ大学附属高等学校1年職員室
「冴羽先生! これ!」
名前を呼ばれたおれ――冴羽竜が顔を上げると、職員室に飛び込んできた平山先生が何か、紙をひらひらと振っているのが見えた。
「平山先生?」
「1組の黒板に貼られてた!」
「は? 何がです?」
「見たらわかる!」
言われた通り、見たらわかった。
「あいつ……」
「黒板には人だかり。本人は平然と読書してたよ。もう1組の連中には隠せない。正直、この後、授業に戻るのが辛い。休暇もらえないかな……」
「他の連中に知られないように配慮したのに……」
「どう考えてもワザとだよね? どんだけ呼び出しが嫌なんだ……」
「どうしたらいい? おれの教師の経験上、コレ、初めてなんだが?」
「僕だってないよ……呼び出しに慰謝料と損害賠償請求とか……」
「佐原先生は……」
「確か、平坂北中へ行ってる。彼のことで。たまたま地元ってすごいよね」
「そうだった……」
「……なんか、ここまでする子だったら、あの話も有り得るのかって気がしてきた」
「おれは逆かな。ここまでするヤツが、うしろめたいことはしない気がする……もう呼び出しとかいいんじゃないか?」
「聞き取りは校長の指示だったけど……」
「だな……とりあえず、平山先生は授業に戻らないと」
「く……胃が痛い……」
「平然とやるしかないだろ。生徒が何か言ったら、授業とは関係ないから、別の時間にとでも言うしかないな」
「授業とは関係ないって言えってさ、その紙持って、一時的に自習にしたの、僕だからね? それで授業を自習にしといてそれは授業と関係ないとか、僕の立場ないから、それ……」
平山先生が胃のあたりを押さえながら授業に戻っていく。
……マジで鈴木のヤツ、なんてことしやがる。でも、もう、おれのカンがあいつはシロだと言ってる。つまり、あいつは実力で、ゴブリンソードウォリアーの魔石を百個、たった3日で獲ったってことになる。それは、どう考えても気になるよな?
うーん、どうしたらいいか、と考えていたら、学年主任の佐原先生が入ってきた。
「おかえりです。どうでした? それと、報告、相談したいことが出ました」
「どうでしたってなぁ……何かあったのか?」
「これ、見てください。朝のHRでできるだけこっそり渡したんスけどね、それを黒板に貼ったらしくて、1時間目の平山先生が慌てて持ってきてくれました」
「どれ………………」
佐原先生がすんげぇ顔になったわ。わかる。
「………………意味が、わかった。こういう子か」
「何スか?」
「中学校で言われた。とんでもない事件の原因だけど、本人に責任はなかった、だと。意味がわからんので突っ込んで聞いたら、あいつは悪いことはしないが、周囲がそれを悪い方向に利用したりして、それであいつを巻き込んだら、暴走してこっちが痛い目に遭うんだと。中には心を病んで長い休みに入った教師もいたらしい」
「うぇ、なんスか、それ……」
「あと、あだ名の通りか。最速の守銭奴って呼ばれてたらしい。紙を渡しただけで賠償請求とか、まさにって感じだな。しかも速い、朝のHRで渡して1時間目でコレだ」
「担任なんで笑えないっスよ。もう、他の生徒も呼び出しを知ったので、こっちとしては、引けませんよね? 正直、コイツは完全にシロっス。カンですけど。悪さしてるヤツが呼び出しされてそれをクラスで公開するとかない」
「まあ、そうだろうな。どうしたものか……」
おれと佐原先生はそろってため息を吐いた。




