16 鳳凰暦2020年4月14日 火曜日朝 国立ヨモツ大学附属高等学校1年1組
朝のHRが終わって読書用の本を取り出そうとしたところで、先生がいきなり折りたたんだ紙を渡してきた。
「鈴木、これを預かった。目を通しといてくれ」
「あ、はい」
先生はさっと出て行く。
……なんだ?
とりあえず、本ではなく紙を開く。
『確認したいことがあるので、今日の放課後、第一教育相談室へ来るように』
……ん? この状況は?
いわゆる呼び出し。しかも、他の生徒には気づかれないように配慮付き。ということは、先生方には知られたくない理由がある。
でも、僕としては、呼び出される覚えがない。それでも呼び出すということは、僕の知らない何かが動いている。動いていると言えば、昨日のアンケートか。魔石現金取引と男女交際。ますます僕が呼び出される意味がわからない。アンケートで終了だろう?
そして何より、放課後、だと? 馬鹿じゃないのか? ダンジョン時間だろうが⁉
僕からダンジョン時間を奪う者は敵。あのギルドの美女さんのように。
僕は筆記用具を準備すると、その紙に返事を書いた。
『放課後のダンジョン時間を奪うのであれば、その時間で得られるダンジョン収入の補償と、ダンジョン時間を奪われることによって生まれる精神的苦痛に対する慰謝料として、その時間で得られるダンジョン収入の4倍の額を請求します。以上がお支払い頂けるのであれば呼び出しに応じます。鈴木彰浩』
そして、そう書き加えた紙を、僕はスタスタと黒板の方へと歩いて行って、黒板の端にあるマグネットを使い、黒板のど真ん中にバーンと貼り付け、またスタスタと自分の机に戻って、いつも通りに本を取り出して読書を始めた。
かつて最速の守銭奴と呼ばれた僕を甘く見てもらっては困る。こんな問題は最速で解決するに限る。時は金なり。
いつもより教室がざわついてる気がするけど、たぶん気のせいだろう。
そのうち、1時間目の先生がやってきて、一度本を片付けたけど、その先生がなんだか慌てたようすで「少し自習にしといて!」と叫んで、黒板にあった紙を持ってダッシュで消えたので、もう一度本を取り出して僕は読書を再開した。