15 鳳凰暦2020年4月13日 月曜日夕刻 国立ヨモツ大学附属高等学校小会議室
「……1年担当はここに残って下さい。2年と3年はそれぞれ、このアンケートで発覚した事態の解決に動きましょう。もう既に動いているとは思いますが。学年主任、よろしく頼みます。生徒指導部との連携を密に。被害者は必ず守ることを優先。場合によっては警察への連絡も学年主任の判断でかまいません。私が許可します。もし事実が確定すれば、処罰は次の高校を紹介しない懲罰退学で行います。世良教頭は大学への報告書をお願いします。速報で今日中に出して、明日か明後日には、本報告を。一ノ瀬教頭は残って下さい」
校長の言葉で、先生方が動き出す。おれ――冴羽竜は1年担当なので、ここに残る。
1年のためのアンケートで巻き込まれた2年と3年が、アンケートで問題行動が発覚し、1年のアンケートは問題なし。そんな状況なので小会議室の居心地が悪い。被害生徒のためにはいいことだが。1組担任だと、指導力が認められたと喜んでいたちょっと前の自分を殴りたい。とんでもない爆弾生徒を抱えた地雷クラスじゃねぇか。
「それで、冴羽先生。どのような生徒ですか?」
いきなりおれか……まあ、担任だからな……。
「まあ、優秀な? 生徒ではある、はずです。いえ、正直なところ、申し上げにくいのですが、まだ入学して1週間も経っておりませんので、ほとんど知らないというのが事実です。そうですね、クラスで見る姿では、休み時間は読書、先週は昼休みに訓練場、今日の昼はダンジョンでした。授業は真剣に聞いているので、まじめな生徒という印象は、あります。あの、代表辞退でイメージしていた問題児という姿では、ないかな? とは思います。ああ、あと、附属中の三席が見た彼の戦闘は、圧巻だったそうです。右にショートソード、左にメイスの変わった二刀流で、あっという間にゴブリンの棍棒を受け流して、それと同時にメイスで右膝を、しかもピンポイントで正確に砕いて転倒させたそうです」
「なんだそれは……」
「首席とはいえ外部生だろう? 初ダンでそれか?」
2組と3組の担任、平山先生と野上先生が驚きの声を上げる。そりゃ驚くよな、おれも外村から聞いてびっくりしたわ。
校長が首を傾げる。
「佐原先生、学年主任としてはどうです?」
「わしも担任以上に関わっておらんのですが、ゴブイチ実習であまりにも早く戻ってきたので驚きました。本人は他の生徒から注目されているのが嫌だったのか、ドロップした棍棒を換金したいからギルドに行かせてくれという要望を聞き入れてその場から逃がしました。正直なところ、今回、こんな疑いがかかったことは意外と言う他ありませんな。とてもシャイな生徒か、と」
「そういえばあの時、棍棒、持ってましたね……初ダンの初討伐でいきなり武器ドロップとか、強運ですね……」
学年主任の佐原先生と4組担任の伊集院先生の言葉に納得としか言えねぇ。
校長がさらに首を傾げる。
「……あのような疑いがかけられるような生徒の話とは思えませんが、たかが教師の私たちに子どもたちが見せる姿は一面でしかありませんから。疑うつもりはなくとも、安易に信じる訳にはいきませんね。生徒だけでなく、私たち教師の見取る力の不足も疑わなければなりません。それでいじめや犯罪を見逃す訳にはいきませんから。伊集院先生、被害者の可能性がある女子生徒はどうですか?」
「とにかく、不運だと言うしかない状況です。補欠合格の子だということはみなさんご存知かと思いますし、入学式の日に倒れて、翌日は欠席。そのせいでクラスでの人間関係に不安はあります。今日、まじめな附中の子が動いて、その子をパーティーに加えようと声をかけたところ、他のクラスの人とパーティーを組んだからという理由で断られたようです。その、他のクラスの人というのはおそらく彼です。それと、この生徒のゴブイチの直後の武器ロストの話は伝わっていたかと思いますが、実はこの前の土曜日の朝にもロスト、さらには日曜日の朝、ゴブリンに囲まれていて気絶したところをその彼に助けられたということです。そこで気絶した時に追加でロストも。ショートソード3本分で15万円です。退学の最短記録、待ったなしですね」
「……悲惨過ぎる」
「どんだけ運がないんだ……」
……本当にどんな不幸の下に生まれたらそんな目に遭う⁉
いつも冷静な校長でさえ、すんげぇ顔してる。
「……もし、退学になったら、次の高校へは可能な限りのサポートをしましょう」
校長の言葉にその場の全員が力強く頷いた。もちろんおれも。
「今日の彼女のようすは?」
学年主任の佐原先生が伊集院先生に聞く。
「正直、金曜日とは違って、明るいと思いました。クラスの人間関係が改善したと考えるのは早計かもしれませんが」
「暗い感じではない?」
「ないですね」
「うーん……」
……危惧されてる状況なら、明るい顔とか、できねぇと思うけどなぁ。
「彼との関係については?」
「報告書を書いた養護の外村先生は、休日出勤で今日は休みでしたので、電話で確認しました。彼女からすると、ありえない、だそうです。どちらかというと、彼女が彼に本気で惚れてるという方が正しいだろう、とのことでした」
……まあ、そうだろ。命の危機に現れて助けてくれたナイトじゃねぇか。なんだそのラブコメは。どっかおれのクラスじゃねぇトコでやってくれ。
「……一ノ瀬教頭、ギルドの方は?」
「より詳細な報告書を要求しました。明日には確認できると思います」
校長と教頭のやり取りになったのなら、会議はそろそろ終わりだろう。
「ギルドからの報告を考えると、確かに疑わしい部分があります。加害者も被害者もどちらも生徒ですが、被害者優先ですし、今は疑わしい状況だけで事実は何もわかりません。慎重に動かなければなりませんが、被害者が陰で苦しんでいたら目も当てられません。難しい対応にはなりますが、とにかく、明日、聞き取りは進めてください。佐原先生は生徒指導部と相談して、それぞれの出身中学校へ、より詳しい中学校でのようすを確認するようにお願いします」
それで、この日の会議は終わった。ここのメンバーは、ほとんど、濡れ衣だと思ってるとおれは感じた。
それなのに、なんであんなことに……。