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RDW+RTA ~リアルダンジョンズワールド プラス リアルタイムアタック~  作者: 相生蒼尉
第1章 『RDW+RTA ~リアルダンジョンズワールド プラス リアルタイムアタック~』
10/420

10 鳳凰暦2020年4月12日 日曜日 国立ヨモツ大学附属高等学校保健室


 外の広場には少ないけど、生徒もいて、じろじろと見られてしまった。どうしよう、眼鏡っ子を昏倒させて拉致してるとか思われたら。

 誤解されないように、堂々と保健室を目指す。でも見られてるのがわかるし、視線で背中が痛い。あ、視線に関係なく、今は痛いか。


 保健室では、保健の先生にいきなり怒られた。


「女の子を運ぶのはお姫様だっこでしょうが! 荷物じゃないの! もっと大切に、丁寧に、優しく扱いなさいよ!」


 理不尽! でも正しい気もする!


「あれは、顔が、近い……」

「あ、なんだ。1回試したんだ。ふーん」


 にやつく先生。なんだこの人は。なんだか悔しい。


「とりあえずこっちのベッドに寝かせてあげて、そうそう……って、あなた、背中! すごいことになってるじゃない! なんで先に言わないの! ヒール!」


 理不尽! でも、ライトヒールじゃなくてヒール! ありがとうございます!


「あー、傷は、残っちゃったかぁ……男の子だし、ま、いっか。あ、最近はそういうのダメなんだったっけ。ごめんごめん。それで、痛みは、どう?」

「はい。楽になりました。ありがとうございます」

「そう。じゃ、カーテンの向こうに出て、はーい、こっち、覗いちゃダメよー。それでー、何があったのか、説明してくれるかなー?」


 僕はカーテンを挟んで、保健の先生に説明した。ただし、あくまでも、眼鏡っ子が4匹のゴブリンに囲まれて、恐怖で気を失ったところをたまたま偶然、僕が助けた、ということにした。トレインを見て気絶したとか、言えないし、幻だったと思うに違いない。うん。


「……そういえば、小鬼ダンの1層で、2匹同時にエンカウントして、武器ロストした子がいたって、緊急メールがきてたわね」

「え? それ、やばい……」

「そうなのよ。かなり厳しい状況ね。なんていうんだっけ、最近だと、退学RTAだっけ? ああ、この子に怪我はないみたい。あなたがこの子を庇って、あなただけが怪我をするなんて、勇者みたいね、素敵。さっすが男の子。ああ、こういうのダメなんだった。いい話だと思うんだけどなー。あ、そうそう、あなた、名前は?」


 シャー、っとカーテンを開けて、先生が出てきた。眼鏡っ子の寝顔は隠さなくていいんですかね? 今さらではあるけど。


「鈴木、です」

「……ひょっとして1年1組の方の鈴木くん?」

「あ、はい」

「あー……あなたがねー……それで、他のパーティーメンバーは?」

「え? ソロです?」

「ええ? ソロなの? いや、一般とはいえ首席だし、それもありか……じゃあ、こっちの子のパーティーメンバーは?」

「さあ?」

「さあって……まさか置き去り? それだとすぐに生徒指導部に……でも、名前すらはっきりしてないから置き去りとは限らないけど。さすがにこの時期で、2年担当養護教諭のあたしが、1年全員の顔を覚えるのは無理……集合写真は明日だし……名前が分からないから1年生なのは確定だけど……」

「少なくとも、僕が助けた時は、その子もソロでした」


 ……というよりも、ソロであってほしい。ソロなら勧誘しやすい。


 この子がいればバスタードソードに効率的に挑戦できる。もちろん、可能性として、他の誰かでもバスタードソードチャレンジはできるかもしれないけど、この眼鏡っ子はもはや確定している。

 それに、他の誰かと違って、今なら、助けた、助けられた、という微妙ながらもはっきりとした対等ではない関係が成立している。

 もう、この子を口説いてペアを組んで、バスタードソードで赤字をとりあえず解消したい。非常用のひとつ十万円もする閃光轟音玉まで使って、本当は泣きたいくらいだし。


 この子がダメなら、侍ヒロインの設楽さんをあのマンガのネタで脅迫するしかない。できれば脅迫なんかしたくないし、脅迫のネタとしては弱すぎる。ちょっと恥ずかしいだけだしな。でも、それで設楽さんは大人しく従いそうなところが逆に怖い……犯罪臭が濃い……。


 小鬼ダン卒業で犬ダンに進んでもいいけど、あっちは鉱物、インゴットのドロップで稼ぐとこだし、当たり外れが大きい。宝くじみたいなもの。

 その点、武器はファンブルさせればドロップ率が上がるし、リポップ5分ははっきりいって、最高効率に近い。もうアレを倒すのに危険はないし……って、ついさっきやられそうだったけどな……。


「……とりあえず、鈴木くん? えーっと、確か、こっちのロッカーに……ああ、あったあった。ブレストレザーを外して、上は全部脱いで? それで、背中を一度拭いてあげるから、これを着なさい」

「え?」

「服、完全にダメ。シャツも、肌着も」

「ええ?」


 僕の背中、今、どんな状態⁉


「……こんな血だらけ、肌も見せて、シャツは破れて、しかも女の子を肩に担いで。今年の首席はずいぶんとヤンチャしてるねー」


 ……たくさんの視線が刺さってた理由がわかりました。そりゃ、見るな。僕だって二度見どころか三度見する。


 先生に言われた通り、上着を脱ぐと、先生が濡れたタオルで僕の背中を拭いて……って、なんて背徳感!


「んぅ……んん……ん。こ、ここは……きゃあーーーっっ!!」


 いや、そんな悲鳴を上げなくても……って、おお、目覚めたか、我が姫よ。ともにバスタードソードを崇めよう!


「鈴木くん、声に出てるよ?」

「え?」

「何、我が姫って? あと、バスタードソードで宗教作るのはやめなさい」

「なんで心の声が!」

「……いや、でも、あの子、顔、真っ赤にしてるね。初心でかわいいわぁー。でも自分を助けてくれたナイトに我が姫とか言われちゃったらねー」

「ち、違います。そ、そうじゃありません。せ、先生が、生徒に、そ、そんな、ことを、するなんて、ダ、ダメです……」

「あー、男子の裸、見慣れてない子かー。そんなんでダンジョン、やっていけるの?」

「う……」

「まあ、いいけど。鈴木くん、拭き終わったよ。はい、着替えて着替えて、あなたのお姫様は恥ずかしいってさー」

「か、からかわないでくださ……っ! そ、その傷は……」


 恥ずかしがってたのに、結局、ばっちり見るんだな、眼鏡っ子。まあ、好都合。ここで、僕ではなく、先生から、はい、どうぞ。


「何が好都合なのかは聞かないけど、この傷はね、鈴木くんがあなたを助けた時に、ゴブリンにやられた傷だそうよ。恥ずかしがってないでまずお礼を言いなさい。ほら、この破れたシャツ。血だらけでしょーが。このタオルも。あなたが勘違いしたようなことは全然存在してなくて、あたしは鈴木くんの背中の血を拭きとっていただけ。彼はこんなに血だらけになったのに、あなたは傷ひとつなく、彼に守ってもらったのよ?」


 ……どうも、さっきから心の声が暴れて漏れているようなので、僕は今、必死で口を閉じてる。たぶん、テンションがおかしいんだと思う。ダンジョンで初めて怪我をしたし、いろいろあって興奮状態がマックスの可能性がある。


「それは……」

「覚えてないの? 鈴木くんからは、ゴブリンに囲まれて気絶したって聞いたけど?」

「ゴブ……あ、あの時、ゴブリンをいっぱいトレインしてきた人っっ⁉」

「え? トレイン? どういうこと?」


 ここはとぼけるのみ。二人の人間だけがいた空間での出来事は話が食い違えば水掛け論になるだけ。どっちもどっちだ。いや、悪いのは僕だけど。心の中にある罪悪感には目をつぶるし、心の声は漏らさないように必死で口を閉じる。頑張れ、僕。


「鈴木くん?」

「いえ、彼女がゴブリン4匹に囲まれてました。トレインは、記憶にないです」

「え、ですが……」

「待って。あなた、ゴブリンに囲まれたのは、鈴木くんが来てから? それとも、鈴木くんが来る前? どっち? それとも、ゴブリンに囲まれた記憶はない?」

「あります……囲まれて、必死にショートソードを振り回して、近付けないようにして……そこに彼が来て、助けてもらえる、と思って、そうしたら、彼の後ろにゴブリンがいっぱいいて……」

「うーん。囲まれてから鈴木くんが来たのは間違いない?」

「それは、はい……」

「それならトレインっていうのは、恐怖心から何かと勘違いしたんじゃないかなぁ。いくら鈴木くんが1年学年首席でもゴブリンのトレインまではどうにもできないでしょう?」

「僕では無理だと思います」

「そうね。トレインだったら、二人とも、ここにいないし、死んでるとあたしも思う」

「死……は、はい。そうですね……ん? せ、先生、今、学年首席って……?」

「うん? そうよ。鈴木くんは1年の学年首席」

「え? でも、入学式では女子生徒が代表を……」

「彼女は学年次席ね。ヨモ大附属ダンジョン科創設以来、初の、新入生代表宣誓を辞退した男……あ、人、か……それが彼、鈴木くんなの。職員室でも話題の中心よ。ヨモ大附属伝統のゴブイチ実習で、史上最短記録で広場に戻ったらしいし」

「宣誓を、辞退……? 史上最短、記録……?」

「うんうん、わかる。理解不能でしょ? あの場にどれだけたくさん、アピールするべき人間がいたのか、わかっている人からすれば、完全に理解不能な宇宙に住む人、それが鈴木くんよ!」


 一瞬、誉められて照れそうになったけど、ちょっと待って。これ、僕、誉められてないよな?


「すごい人……なんですね……」


 すごい、の含みがいろいろとあり過ぎる気がする。


「とりあえず、あなたは名乗って、まずはお礼から。命の恩人でしょ?」

「あ、はい。ありがとうございました、鈴木さん。わたしは、岡山広子です。本当に助かりました。いつか、必ず恩返しを……」

「それなら僕とパーティーを組んでください。正式に」

「へ……」

「校内で組む、お試しの、なんちゃってなパーティーじゃなくて、正式なやつを!」

「ほーう。あれかぁー、さっきの我が姫ってのは、本気かぁー……ん? んん? あれ、あなた、岡山さん? 岡山広子さんなの?」

「え、はい。そうですけど」

「烏丸先生が言ってた子かぁ。入学式で倒れたんでしょ?」

「はい。ですが、正確には、入学式が終わって、教室に戻る途中、です」

「もう体調はいいの? 大丈夫?」

「はい。体調は、大丈夫です。でも……ごめんなさい、鈴木さん。わたし、鈴木さんへの恩返しはしたいのですが、鈴木さんと正式なパーティーは、組めそうにありません」

「そんな……僕がキミを完璧にサポートするし、必ずキミを守るから!」

「おおっ!」

「そ、そう言って頂けるのは本当に嬉しく思います。でも、ダメなのです。わたしは、たぶん、この月末で退学だと思いますから……」

「あー、そっかー……」

「な……」


 ……そんな、ファーストなのに三人目みたいな言われ方しても! 納得できない! 余りの納得のできなさに、僕はフリーズしそうです。


「4月末の退学は史上最短記録になるぞ、と先生には言われました。そういえば、さっき、鈴木さんも何かで史上最短記録でしたね? ふふ。変なところでおそろいですね……」

「確かにねー。普通、4月は最初に親が入金してくれた分で、どうにでもなるから、いくらウチが厳しくても、4月だけはなんとかなるもんね」

「……ヨモ大附属ダン科名物、月末支払不能による退学、ですか? ここがダンジョンアタッカーを目指す場として、自分で稼いで自分で支払う方針というのは僕も納得して、誓約書も入学前に提出しましたけど。岡山さんが? なぜ、そうなると? 岡山さんも、先生も、納得してるみたいですけど?」

「あー、これは、うーん……」

「いいんです、先生。わたしの話を、聞いてもらえますか、鈴木さん」


 僕はこくりとうなずいた。逃がしたくない、この、バスタードソードの盟友である眼鏡っ子のために。


「わたし、鈴木さんの反対で、学年最下位なんです」


 いきなりヘビーなのきた! どういうこと?


「実は、ヨモ大附属ダンジョン科の入試の結果は不合格で、普通科への転科合格でした。それが3月末に突然、補欠合格の電話連絡が入って、普通科からダンジョン科へ変更になりました。つまり、はっきりと最下位だと、証明されているのです」

「まー、そうよねー」


 ……確かに。否定する要素がない。


「それだけなら、話はこれで終わりですが、先程、先生が言っていたように、わたし、入学式の日に倒れてしまって、教室に戻れず、この保健室で、こちらの先生ではない、別の保健の先生のお世話になりました。あまりの緊張で胃がずいぶんと痛んで、熱も出まして」

「ウチは今みたいな休日出勤を求められる関係で、養護教諭は三人体制だからねー」

「そのまま、寮の歓迎会にも出られず、部屋に戻って休み、さらには熱が下がらず、二日目も休むことになり、クラスのみなさんと、ほとんど話すことなく、三日目を迎えました」


 ……なんか、共感できる。ほとんど話すことなくのところ、特に。つまり、ぼっち。


「ダンジョン実習では、4組の一番後ろを一人で歩き……」


 ……きょ、共感が押し寄せてくる。


「……倒して戻ってくるのは三人と、学年主任の佐原先生はおっしゃいましたが、実質、前を歩く二人の後ろについていくだけでした。先生はさらにその後ろでしたので」

「うーん。スタートの2日間、休んだのは痛いよね」

「それで、わたしが戻って、佐原先生が実習の終わりを告げたら、みなさんが一斉にわあっと盛り上がりまして」


 ……うん。そうだった。お陰でうまく消えることができたし。


「話し相手のいないわたしは、後ろで離れてぽつん、と。どなたも悪くないのです。全ては偶然だとわかっています。でも、わたしはその時、たまたま、たった一人で、ダンジョンへと入っていく生徒の背中を見たんです」

「そんなことがあったの?」


 ……ん? んん? んんん?


「ひとりでさみしいと、辛いと、そう思っていた自分が情けなくなりました。そう思った瞬間、わたしは、ダンジョンの方へと歩き出していました。その方の後ろ姿に勇気づけられたんです」

「いい話ね……」


 ……その人は、もしかして?


「つい先程、ゴブリンを1匹、倒したばかりでした。だから、わたしにもできると、そう思ってしまったのでしょう。ダンジョンへ入って中へ中へ、4組が進んだ方へと。帰りはご存知の通り、黄色い蛍光マーカーで描かれている壁面の矢印に従えばよいのですから。ところが、なかなかゴブリンとはエンカウントせず、かなり奥まで入ってしまったみたいで、ゴブリンが2体、同時に現れました。1層は1体ずつだと聞いていたわたしはパニックになり、それでもガイダンスブックで読んだように、ショートソードを振り回して徐々に距離を取って、最後はショートソードを投げつけて逃げました。矢印に従って、必死で逃げました。無事に逃げ帰ることはできたのですが、ご存知のように、そのショートソードはレンタル武器で……」

「ロストは、全額弁償。ショートソードなら5万円ね」

「はい。親が用意してくれた預金額は3万円でした。普通なら、十分な額ですが、レンタル武器のロストとなると難しいのです。それでもあきらめられず、わたし、は……」


 ……うわあ、ずっとこらえてたのに、ここでついに泣き出しちゃったよ!?


「その、日のうち、に、ショート、ソード、を、お借り、して、翌日の、土曜日は、朝早く、他の、みなさんが、いらっしゃる前に……で、ですが……ここでも、また、ゴブリンが2体、あら、われて……」

「ずいぶんタイミングが悪いわね? とてつもなく運が悪いというか……何か、あるのかしら?」


 ……ゴブリン2体。ゴブリン2体。


 確か、実習の日のトレインで、逃がしたゴブリンは2匹。土曜日も僕は朝一で入って、その時もゴブリン2匹、逃がしたような……ん、んん? あれ? あれあれあれ? なんだか、罪悪感が?


「そ、それでも、わたし、は、あきらめ、が悪、くて、もう一度、ショート、ソードを、お借りして、今日の朝、昨日の、反省で、朝食は、頂いて、から、昨日より、は、ほんの、少しだけ遅い、時間に、ダンジョン、へ……そ、そうし、たら、今日は、後ろ、から、ゴブリンが、2体、で……出口、と反対、だった、ので、さすがに、ショート、ソードを、投げつけ、て、奥に、逃げても、ダメ、ですか、ら。でも、2体、同時、は、戦え、ないで、すから、逃げて、逃げ、て、最後、に、今度は、前から、2体の、ゴブ、リン、が……くぅぅぅ、うぅぅ、ぅぅぅ……」


 ……ついに、涙で語れなくなってしまいました。


 いや、待って。待って待って。


 今朝は、ええと、トレインして、確か、2匹、逃がしてしまった記憶が、あります。はい。そんで、隠し部屋がダメで、ボス部屋へ行って、スタート地点に戻る、と。


 それからもう一回トレインして、最後にファイアストームで全滅させ……たのは、この子と一緒の時か。あ、2匹、逃がし、た……? だから、今朝は時間差で、合わせて、4匹……?


 あれ……? あれれ……?

 まさか……ひょっとして……この子が武器ロストを続けてる原因って……。


「辛かったね。苦しかったね。泣いていいんだよ。しっかり泣きなさい。で、鈴木くん。あなたがこの子を助けた時、この子のショートソードは?」

「あ……」

「うわぁぁぁぁぁんんん、うぇぇぇぇ……ぐふっ、ひっく、ぐぅぇぇぇぇんんん……」

「さすがに15万円のリカバリーは、ねぇ……」

「いいえ、できますっ!」

「鈴木くん⁉」

「……ひっく。え……?」


 いやいや、さすがにこれは、見捨てられないというか、一石二鳥というか……取り分は僕と眼鏡っ子で半分ずつだけど。僕には隠し部屋のリポップが必要でそれには眼鏡っ子が必要。眼鏡っ子にはお金が必要だからダンジョンで戦わなきゃだけど、弱いから僕が必要。


 たぶん、眼鏡っ子がエンカウントしたゴブリンは、僕が逃がしたせいだと思う。言わないけど。うん。今は先生もいるから言わないけど、だからといって、責任を感じない訳じゃない。というか、むしろ、罪悪感で苦しい。叫び出しそう。やばい。


 彼女とパーティーを組むことは、僕には知らないうちにかけてしまった迷惑の責任を取ると同時に、彼女がいることで隠し部屋がリポップ状態になってバスタードソード。一石二鳥。

 彼女は僕とパーティーを組むことで、ソロ――ぼっちとも言う――ではなくなり、ダンジョンでの安全性が高まるととも、ドロップによる収入が増えて退学RTAを回避できる。一石二鳥。


「もう一度言わせて、広島さん! 僕と正式なパーティーを組んでほしい!」

「広島じゃなくて岡山さんだから」

「え、ええと……?」

「僕と正式なパーティーを組んで、きっちり秘密保持契約を結ぼう。そうしたら、僕の知る全てを使って、君を退学から救ってみせる!」

「へぇ~?」

「なんです?」

「いーえー、なんでもー?」

「あの……」


 僕はぐいっとベッドに近づいて床に膝をつき、戸惑っている眼鏡っ子に視線を合わせる。


「あ、あ、あ、あのあの……」


 眼鏡っ子は顔を真っ赤にしているけど、そんなの関係ない。僕は、すっと、眼鏡っ子の手を握って、その眼鏡の奥の目を見つめる。たぶん、ダンジョンで興奮状態になった変なテンションが持続してるという自覚はあるけど、これがどうにも止められない。


「岡山さん。僕は全力で退学から君を守る。まずは必ず退学RTAから君を救い出す。それだけじゃない、君を退学になんてさせない。卒業まで、ずっと君を退学から守り通してみせる。だから、どうかバスタードソードを崇める仲間として、僕の手を取ってほしい。二人で、ペアで、パーティーを組もう」

「うわぁ~……でも、なんでバスタードソード?」

「あ、あのあの、も、もう既に、手を取られて、しまっています……」

「おや、これは失礼した。でも、この手は離さない。それで、岡山さん。君の返事を聞かせてくれ。イエスと言ってくれるまで、僕はここを離れるつもりはないけど」

「これは痛いわぁ~、スマホで録画しとけばよかった~」

「わ、わかりました、わかりましたから! その、い、一緒のパーティーを組みますから!」

「本当かい! ああ、今日はなんて素晴らしい日なんだ! じゃあ今すぐギルドへ行こう! 秘密保持の魔法契約はできるはずだ」

「魔法契約でもなんでもしますからぁ~! だからお願いですぅ~! 手を放してぇ~、離れてくださいぃ~っ! は、裸の男性にベッドの近くにいられるとか、もう無理ですぅ~~~~っっっ!!」


 ……おっと。

 そう言えば、服を着るのを忘れたままだった。いやん。






「……有り得ない。どう考えても……ねえ、あなた、説明してもらえるかしら? 秘密保持の魔法契約とか、この異常な魔石の数とかの、今の有り得ない状況について?」


 そして、ギルドの大人な女性の美女さんのこのセリフに到達することになる。


 もちろん、保健室で先生が出してくれた服は着ています。はい。裸で嫌がられた訳ではないです。






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― 新着の感想 ―
[良い点] やべー、アインより面白い感じがプンプンします [一言] 何故書籍化、メディア化されないのか不思議なくらい面白いです
[一言] ヒロイン?がとにかくうざくて笑う
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