Ⅳ 手掛かり─ⅹⅹⅰ
「まず、すぐ目の前にある外砦。あそこにいるのは兵が五百程度。将がいるって感じじゃなかった。面倒なのは内砦の中。俺が知ってたニットリンデンは、賑やかな街だったよ。人口だってダールガットほどじゃなくても二十万ほどはいたばずだ。子供の声なんかしない、廃墟みてえに静かな街になってた。みんな息を殺して生活してるって感じで、人通りなんかもほとんどねえ。至る所にガラの悪い兵がいて、怪しいとかじゃない、自分が気に入らない理由をでっち上げて道行く民を痛めつけてた」
デュエルはふうっと息をつくと、先程サクラが飲み残した水の入ったグラスをとり、一気に呷った。
「ニットリンデンにある地方院が、駐屯地になってるんだ。街全体に配備されてる兵は全部で一万。これは携わってるヤツに聞いた話だから間違いない。セルシア軍がオクトランまで来てることを話したら、怯えながらでも話してくれた。こんな俺にも泣きながら懇願するんだ。助けてくれって。こんな生活はもう嫌だって」
そう話すときだけは、デュエルの瞳になんともいえない揺らぎが見えて、サクラは黙って視線で先を促した。
「そこの地方院は、建物が回廊造りになっているんだ。その中庭が処刑場になっていて……地方院の外壁には、毎日毎日、新しい死体が吊されてた。悪いけど、俺は強くなんかないのわかってっから、助けようなんてしもしなかったよ。俺がやるべきは、サクラが欲しい情報を持って帰って、礼をすることだと割り切った。言われなくてもそうするだろうけど、助けてやってくれよ? 騎士の制服着たやつらも……だいぶ、吊されてた」
義憤に駆られて出て行ったヤツは殺されたようだ、とは、耳にしていた。
しかし、死してなお冒瀆する扱いに、サクラの胸は痛みを覚える。
これまでに騎士団としてつかんできた情報を裏付けるかのようなデュエルの報告に、彼が嘘をついている訳ではないことは、確かなようだった。




