Ⅳ 手掛かり─ⅹⅸ
ただ、ライオンよりも大きなイリューザーの前肢は、爪は隠されているがぽってりと重く、肉球だってサクラの手ほどもある。甘えて「構え」と要求するときに乗せられれば、それだけでもずっしりとした重量があった。先日、黒豹と戦ったときにも一撃ごとに鈍い音がしていたし、重量がひとつの武器であることは間違いない。日頃はのんびりと伏せてあくびをしていることが多いが、「強さ」において、自然界に敵はそれほどいないのだろう。
シェダルの言うように、その気になればサクラなぞ一呑みだ。しかしほかのオルゴンならいざ知らず、イリューザーに関してその心配はまるでしていない。心身ともに助けられることはあっても、害されたことなど一度もないのだから。
和んでいたところに、幕舎の外から緊迫した声が聞こえた。「止まれ小僧!」「何者だ!」と制止や誰何する声とともに、金属のぶつかる音がする。
クレイセスとクロシェが即座に出て行き、サクラも様子を見ようと動こうとするのを、サンドラに止められた。
少しして幕舎の入り口の布が避けられ。
「サクラ!」
と笑顔で名前を呼び捨てて少年が入って来る。
「デュエルさん?!」
会いたかった~! というように両腕を広げて駆け寄ってくる彼の前に、イリューザーが立ちはだかった。さすがの彼も、その場に止まって空足を踏む。
「みんな心配してたんですよ?」
イリューザー越しにそう言えば、「みんなじゃなくてサクラの心配が欲しいんだけど」といけしゃあと返して来るのに、サンドラの視線が冷たくなったのをサクラが感じた。
「今まで一体どこに」
「ニットリンデン。見てきてやるって言ったろ!」
得意げにそう言う彼はびしょ濡れで、サクラが何か拭くもの、ときょろきょろすれば、サンドラが渋々の体でタオルを一枚投げ渡す。




