Ⅳ 手掛かり─ⅹⅷ
「わたしの剣もね、騎士が普通に使っている物に比べれば軽いのです。クロシェほど軽くすれば速さは得られるでしょうが、どう言えば良いのかな、わたしは軽すぎると芯を定めて繰り出すことが難しかった。自分に合う一本というのを決めるのも、なかなか大変なんですよ。リクバルドは、まだそういう時期だったんです」
サンドラの説明に、サクラはリクバルドの笑顔を思い出す。長官たちについて説明をくれたときの、得意げな表情も。
「何もかも……これから、だったんですね。リクは」
頷いたサンドラに、摘んでしまった未来を思う。
しんみりしてしまった空気を察したように、隅で伏せていたイリューザーが立ち上がり、ゆったりと近付いてくると鼻先でサクラの肘を跳ね上げた。そうして目の前に座り、顎を上げて鬣を差し出す。
「サクラ様、イリューザーのこれは?」
クロシェの問いに、サクラは思わず笑顔になって答えた。
「撫でて元気を出すがいい、のポーズですかね。イリューザーのここの毛だけ、ほかのとこよりずいぶんやわらかくて、めちゃめちゃ気持ちいいんです」
言って、サクラは差し出された顎下から胸元にかけての毛を指で梳く。ここの毛はほかよりもボリュームがあってふわんふわんしているのだ。その気持ち良さにときどき発作を起こして顔をうずめれば、二人だけのときなどは「さあ来い」とばかりに仰向けになってくれる。
「おっさんが見たら泣きそうです」
クロシェが笑い、クレイセスも「確かに」と頷いて言った。
「しかもオルゴンがこれほど人の心の機微に敏いなど、思ってもみませんでした」
イリューザーが標準になってしまったサクラとしては、オルゴンのそもそもはよくわからない。だが話として獰猛だとか孤高だとか聞かされた印象とは、大きくかけ離れているなあとは思う。




