Ⅳ 手掛かり─ⅹⅵ
そう言って笑い、サンドラは水を差し出した。
ようやく整ってきた呼吸にありがたく一気に飲み干せば、もう一杯を入れてくれる。サクラはそれを半分ほど口にして、不思議な気持ちでサンドラを見上げた。
「まあ確かに。サクラは早いですね。伸び方はアクセルみたいだ」
「アクセルさん?」
近衛騎士の中でも最年少の騎士だ。彼は最年長騎士のバララトとセットで配置されることが多く、ダールガットではあまりの人気に使えなかった長官たちに代わり、サクラの傍にずっといた。
「あいつが正騎士章を取ったのは十七のときです。アクセルも根が素直ですし飲み込みが早い。手を合わせれば、毎回上達も見られます。自己研鑽も怠らない。現況の護衛騎士は皆、正騎士章を二十歳になるかならないかで取った者ばかりです。サクラからは、彼らと似たような上達の筋を感じます」
「甘めの評価……」
「ではなく、ただの感想です」
あなたは自分の評価に懐疑的に過ぎます、と言われ、サクラは不思議な気持ちで木剣を見つめた。
「そろそろ、真剣をあつらえてもいいかもしれませんね。アンザートルの商人でも捕まればいいですが。この世界の標準だと、サクラ様には扱いにくそうです」
クロシェの言葉に、「アンザートル?」と首を傾げる。
確かに彼の言うとおり、サンドラが作ってくれた木剣も、サクラの身長に合わせてやや短いものだ。
「地名ですよ。名だたる武器が生まれるのは大体そこで、実際独自の鋳鉄技術があり、鋼の強度が違います。ガゼルがハーシェルから分捕ったあの槍も、元はアンザートルから献上された物です。俺たちの剣も、そこで鍛えられた物ですし」
「へえ……」
武器のブランドってことかあ、とクロシェの説明に彼らが佩いている剣をまじまじと見つめる。ガゼルがハーシェルとの賭けに勝って得た槍は、現況の戦いで大いに戦果を挙げていた。




