Ⅳ 手掛かり─ⅹⅴ
訓練をするときのサンドラの瞳は、常に真剣だ。サクラは「はい」と返事をして、「セルシア」という立場も、自分も守らなくてはならないことを肝に銘じる。
再び木剣を合わせ始めたところで、クレイセスとクロシェが入って来た。
気を取られた一瞬に木剣をサンドラに喉元に突きつけられて、攻防は終わる。
「お前……サクラ様をどこまで強くしたら気が済むんだ」
クロシェが複雑そうな顔でそう言ったのに、クレイセスが笑った。
「本人の希望だし、サンドラのというよりはサクラがどうなりたいのだか」
息の上がったサクラはすぐには答えられないが、何も乱れていないサンドラはニヤリと笑い、自慢げに言う。
「見たかわたしの指導力! そろそろ准騎士連中なら一対一で降せそうだろう?」
え、准騎士? と目を見開けば、クレイセスもクロシェもふむ、というようにサクラを見た。
「戦い方次第でしょうね。力で勝てる訳でないことを十分わかっている剣です。あとは躊躇しなければ勝てそうですね」
クレイセスが言い、クロシェも頷いて言った。
「逃げ切ることが勝ち、なら准騎士程度からは確実に逃げられそうです」
二人の感想に、サクラは「それ、ホントに?」と思わず訝しむ。
サンドラに稽古をつけてもらい始めて三ヶ月ほど。毎日のこととはいえ一時間にも満たない時間の訓練だ。准騎士と言えば、正騎士に準じる強さ。そんなところに、一足飛びにいけるなど。
「サクラ様は体の動かし方については勘がいいのですよ。もともと運動はなさっていたのでは? 小柄だし、力技で騎士に勝とうなどそもそも無理です。でも、筋肉はすべてではありませんからね? でなかったら、わたしは長官になどなれません。戦い方にも要領はあります。サクラ様は教えたことに抵抗せず、素直に吸収されますから、上達は早いんですよ」




