Ⅳ 手掛かり─ⅹⅱ
「すみません。もう大丈夫です。ユリウスさんの件については、今はハーシェル王の判断にお任せするしかないことです。これを隙にしたくありません。ニットリンデンへの経路の話し合いを、続けましょう」
サクラの言葉に、四人が御意、と広げてある地図のまわりにそれぞれが立つ。
先遣隊での偵察を、ここに来てから続けていた。ニットリンデンの外砦の様子しかわからないが、そこから見える警備体制、巡回の時間、あくまでも推察の、兵の数。
そしてニットリンデンに軍を進め、近隣から大きな軍を動かせるような駐屯地が形成されていないかも、騎士の中から厳選され密かに放った者たちが探り続けている。
毎日少しずつ上がってくる報告に、こちらも調えられるだけの用意を始めていた。
進軍だけなら、勢いでやってしまえばいい側面もあるという。
しかし負けるにしても勝つにしても、その先をどうするかだと。
ニットリンデンを押さえたなら、そこを守らせる者を誰にするか。王が土地の扱いを決断するまで、どのような方針をもって治めさせるのか、敗残兵の扱いもダールガットでの経験を踏まえ、確実に文書としてしたためていく。
「今日は、ここまでにしましょう」
クレイセスの声に顔を上げれば、外から食事の支度が出来た旨が伝えられた。
気が付けば、あたりにはいいにおいが漂っている。
サクラはどこかで、熱くなりすぎている自分を自覚した。
みんなで食事を摂り、湯殿に行って風呂を使ったあと、サクラはサンドラとイリューザーを連れ、王都の方角に向かって軍営の端まで歩いた。
「サクラ様。これ以上先は危険です」
サンドラの制止に従い、足を止める。
すでに夜の帳が降りた今は余計に、これ以上先に進むことは迷惑になる。
そうして、サクラは静かに鎮魂歌を口にした。
ユリウスの、冥福を祈って。
王都に届く訳もないとわかっていても、今サクラに出来ることは、これだけだ。




