Ⅳ 手掛かり─ⅹⅰ
(大丈夫)
深呼吸を繰り返す息が、震える。
『恐らく打てる手はすべて打ってくれます。ユリウスが仮に殺されていたならそのことも、彼がエリオット子爵に伝えるはずだった、サラシェリーアの件についても。我々が王都で対処するのと、変わらないことをしてくれる』
クレイセスの言葉を思い出す。
そう。
(ハーシェル王が)
(ユリゼラ様が)
(サラシェリーアの────アプリーゼのことは伝えてくれる)
自分がいたらそうするであろうことを、きっとやってくれる人たちだ。
それは信じられる。
エリオット子爵がどのような反応を見せるかは、それからのこと。
ユリウスが殺された原因も、犯人も。
きっと、探してくれている。
「ありがと、イリューザー」
ぐおん、と小さく喉を鳴らして答え、イリューザーは今は緑に見える目でサクラを気遣わしげに見つめた。
爆発しそうだった頭は、幾分か冷静になれた。
「サクラ様……?」
サンドラが幕舎の布を細くよけて顔をのぞかせたのに、「もう大丈夫です」と答える。すると彼女だけがするりと入って来て、イリューザーの前に座ったままのサクラの前に膝をつき、やわらかく微笑んだ。
何も言わず、その指先が拭い損ねた涙を払う。そして「さあ」と手を差し出し、立ち上がることを促した。
サクラがその手に導かれて立ち上がれば、サンドラはドレスの裾を調える。
「美しく強がる女は大好きです」
翡翠の瞳が、そう言っていたずらっぽく笑いながら見上げた。
美しいかは極めて疑問だが、サクラはサンドラが主君として認めてくれるなら、強がりも背伸びも、目一杯にしたい。
いつかそれが、等身大になるように。
彼女がそれを支えてくれることももう、信じられる。
サンドラが外に向かって「いいぞ」と言えば、外にいたクレイセスとクロシェ、ガゼルが、気遣わしげな表情で入って来た。




