Ⅳ 手掛かり─ⅹ
「その後のハーシェル王の動きを……侯爵はご存知でしたか」
自分を支えきれず、深く腰掛けた状態で聞けば、
「エリオット子爵に対し新たな使者を送り出したことが、私が陣営を出る最後に報告されていたことです。恐らくフィルセイン軍との緊張甚だしい前線にいらっしゃることを気遣い、伏せられているのだろうと」
と、サクラが懸念していたとおりの理由が示された。
頭の中がぐるぐるする。
ユリウスがやはり亡くなっていたことは、予感があっても衝撃で。
ジェラルド卿が王宮にも間諜を潜ませていることも。
ハーシェル王から気遣いを名目に、大事なことを伏せられたことも。
すべてに勝手な落胆と鈍い衝撃を覚えた。
理屈ならわかる。
ここにいても、エリオット子爵に対して出来る何ひとつもない。それより気を取られて判断を誤り、軍に損害を与えることが危惧される、と。
(だめだ)
(気持ちがついていかない)
こんなに揺れてしまうこと自体が、やはり「伏せておくべきだった」と言われてしまうことだとわかっている。
「五分、で、いい」
大きく息をつき、サクラは言った。
「五分でいいから、一人にしてください」
あふれる寸前の涙を堪えて言ったそれに、長官たちは一礼し、皆静かに出て行く。
「────────っ!」
足許に伏せていたイリューザーがお座りの姿勢になり、サクラはその鬣にしがみついて顔を押し付けた。
ダールガットで作戦を立てていたときは、「数」として人を数えたくせに。
顔が、表情が、声がわかる彼らを、即座に「数」として処理できない。アルカミルが教えてくれたこと──それは恐らく騎士たちが、頂点に立つ者に対する当然の期待として抱いていることだ。
サクラが──「セルシア」が打撃を受けてはならない。それは軍を弱体化してしまう。フィルセインに、つけいる隙を与えてしまう。




