Ⅳ 手掛かり─ⅶ
「サクラ様、わたしたちの手を取るのは、怖いですか」
少し泣きそうな表情のサクラに、サンドラは穏やかに話しかける。
「この世の全員と手を取り合えるなんてことは申しません。でも、手を取りたいと願って伸ばされたものを、振り払うこともないのでは? わたしも大して恋愛などして来てないので、偉そうなことは言えないのですが。愛することも愛されることも、きっとその先にある」
今のサクラには、覇気がある。
この世界に来た頃に比べると、表情だってずっと生き生きしている。
周囲はサクラのことを認めているのに、サクラだけが、自分を認めたくないかのように、サンドラには見えた。
「あなたは、自分を認めてあげていないのねって……ユリゼラ様にも言われました」
ぽつんと言ったサクラに、ユリゼラも同じ印象を受けたのかと、サンドラは黙って先を待つ。
「サンドラさんの言うとおり……わたしは両親とうまくやれなくて。両親の期待に応えられる能力がなくて……最初にあった額の傷も、父から受けたものでした」
やはりかと、サンドラは視線を下げてしまった少女を見つめた。
「わたしは多分、もともと疑り深いんだと思います。両親の所為ばかりでもないとは思うんです。でも……この世で親すら価値を見出せなかった人間が、誰かに認められたり、愛されたりなんかあるんだろうかって……。夢は見るんです。物語みたいな恋がしたいって友達と話してるときは、馬鹿みたいだけど半分本気でそう思ってる。でも、一人になって思い返したら……そんなのあり得ないって、あるかもしれない可能性より、ないことを信じるほうが簡単なんです」
サクラの言わんとするところも、サンドラにはわかる。
期待して現実に裏切られるより、端から諦めていたほうが格好良いような気がしていた時期もあった。




