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Ⅳ 手掛かり─ⅵ

 何をどう伝えれば、サクラに届くのか。サンドラは己の心の内を探す。


「わたしの故郷が北のほうというのは、話したことがあると思います」

 サクラの黒目が戸惑ったままサンドラに視線をくれたのに、サンドラは話を続ける。


北方(ほっぽう)はね、様々な理由から小さな争いが絶えない場所です。それゆえ、レフレヴィー伯爵家の当主は代々『北方(ほっぽう)将軍』の異名(いみょう)を取ってきました。幼い頃から教えられるのは、人は自分以外は他人だということです。けれど同時に教えられます。人が寄り集まって生きるのは争うためではなく、手を取り合うためだと」


 サンドラの言わんとするところを探ろうとするように、サクラは黙って聞いていた。


「家族でも、うまくいかないことはあります。わたしには兄が二人おりますが、ひとりは父と折り合いが付かず、常に反目している。ガゼルが、叔父から命を狙われた話は聞きましたか。あいつの背中には、馬車が事故に遭ったときに負った怪我の跡が今も残っています。それで思ったのです。サクラ様の(ひたい)にあったあの傷は、肉親に()るものではないのかと」


 今はもう、その額に傷の跡形もない。

 サクラの目は、驚きと、困惑に揺れていた。


「サクラ様。わたしたちは他人です。けれどサクラ様のご両親も、『あなたではない他の人』です」


 その言葉に、サクラが息を詰めたのがわかった。


「サクラ様はすでに、ユリゼラ様の窮地を救い、クレイセスの命を繋ぎ、子供たちを保護して、フィルセインを退けた。世界に光響を起こして、頻発する地震で立て直せなかった生活に、安定を下さいました。これだけのことがやれていて、まだご自分を認めてあげないのですか? これが他人なら、あなたのことです、きっと素直に称賛なさったでしょう」


 サクラが()かれたような顔をしたのに、サンドラは少し笑う。

 他人に優しくすることは、息をするより簡単にやってのけるのに。

 自分のことになると、途端に「難解なこと」にしてしまう。

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