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Ⅳ 手掛かり─ⅴ

 しかしサンドラにとってのサクラの可愛らしさを列挙したところで、そんなことは信じられないだろう。彼女の自己肯定感や評価の低さは、恐らくメルティアスにいた頃に形成されたものだ。それもきっと家族だろうと、サンドラは推量している。


 彼女は不思議なほどに、家族の話をしない。


 どんなに自立していようと、一度くらい家を恋しがってもおかしくない。しかし一度も家族の話を聞いたことはないし、水を向ければ「サンドラさんのご家族はどうなんですか」と、サンドラの話を聞く体制に入るのだ。


「サクラ様はあいつらの気持ちというより、ご自分が愛されることが、信じられないのですか」


 サンドラの問いに、黒い瞳が困惑に揺れた。

「サクラ様は、ご家族の話をなさいませんね。メルティアスを懐かしむことも。世界についての客観的な事実についてはお答えくださっても、サクラ様の感情が絡むことはお避けになる。何がそれほど、許せないのですか」


「許せない……?」

 サンドラの表現に対して怪訝な顔をする少女に、サンドラは頷いて言った。


「サクラ様は、ご自身を許せないのでは?」

「わたしが、自分を?」


 ここから先は、サンドラにとっても発言に勇気が必要だ。下手をすれば、サクラは二度と自分を頼ることなどしないだろう。ただこれを超えなければ、きっとサクラも、サクラと自分たちの関係も、前に進めない。


 サンドラはわずかな緊張を悟られないよう、深く呼吸をして微笑みを浮かべた。

「うまくやれなかった自分を、もう、許しては如何ですか」

「────……な、んで」


 サクラの目が大きく見開かれ、顔色すら失うように硬直したのに、サンドラはずっとサクラを見て来て得た推量が、外れてないことを確信する。そう思った理由を簡潔に伝えると、触れられたくない場所であるように、自然と痛みを堪えるような表情になった。


「サクラ様。大人って、完璧じゃないんですよ」


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