Ⅳ 手掛かり─ⅲ
「ええと……」
考えて、言い換えるのもためらうように、「色仕掛け?」と言ったのに、サンドラは瞬時に自分の目が据わるのを自覚する。
「ほう? あいつは、サクラ様にどんな不届きを働いたので」
「いや、結局手にキス以上のことはされてないんですけど!」
サンドラの怒りを含んだ雰囲気を察した少女は、あわあわと事実を述べる。
キス、とは確か口付けのこと。あいつめついに、と思いはしたが、色仕掛けと思われているところが、一体どんな状況下だったのか想像がつかない。計算尽くで物事を進めるやつだが、サクラが相手ではその勝手も通じなかったかと首を捻る。
「そんなことまでしなくても、時期が来ればきっと話せるようにもなるのに、そうまでしてなんで今、と……。ついでに好きでもない相手に、そんなことまで出来るんだなと思うと……」
「信用出来ない? ジゼラ風に言うと『嫌だ不潔!』みたいな?」
「う……遠くは、ない、かも」
これほど悩んでいても、投げつければ相手が傷つくかもしれない言葉を選ばない主を偉いと思うが、疲れそうだ、とサンドラは軽い溜息をついた。
「わたしが不思議なのは、なぜ『好きでもない相手』と断じていらっしゃるのかですけど」
「今までそんなの、微塵も感じなかったし……」
「クロシェのは感じてたんですか?」
「……いえ、全然」
言われてみればといった風に逡巡を見せた主に、それもおかしくて笑ってしまう。
「クロシェのときもわかりやすかったので、あいつは問い詰めました。サクラ様に騎士の手順で告白したことは聞き出しましたので、くれぐれも不埒な真似をしないよう、《《優しく》》諭しておきました」
「さすがお姉さん……」
「はい、お姉さんですから」
半ば感動の色すら浮かべて自分を見上げる主に、良い子の微笑みでもって臨むと、サンドラは話を掘り下げる。
「それでサクラ様におかれましては、どちらも警戒はしても心揺れる対象ではない?」
「心揺れる……心揺れる、ですか」




