Ⅰ 春希祭(キアラン)─ⅶ
「お帰りなさい。無事で良かったです。何かあった……んですねえ」
珍しく息を切らせたサンドラの頬に、わかりやすいキスマークを見つけ、サクラはハンカチでそれを拭き取る。
どうやら、熱烈に追い回されていたようだ。
「ぎゃ?! すみません! もう、会場では早くも酒が入っていて……っ」
息を整えながらそう言うサンドラに、サクラは水を入れてグラスを差し出す。サンドラは礼を言って受け取り、それを一気に飲み干した。
一息ついて口許を拭った彼女は、サクラを見て快活な笑みを見せる。
「お一人で頑張りましたね! 綺麗に出来てます。背中はどうやって……ああ」
背中を見せたサクラに、サンドラはグラスをテーブルに置くと、簡単に結んでいただけの紐をほどき、根元から美しく見えるよう締め上げていく。
「良かった、戻って来てくださって。髪の毛はクロシェさんにしてもらったんです。これ編み上げるのも、お願いしようかと思ってたところでした」
「まあ、あいつもクレイセスも、これくらいは出来ないこともないでしょうけど。間に合って良かった」
苦しくないですか? と聞きながら締め上げるサンドラに、サクラは大丈夫ですと、揺れないように力を入れて姿勢を正す。その間に何があったのかを聞けば、久々の祭りに祝勝会の雰囲気も混じり合い、すでに会場となる広場は賑わっているという。しかも酒の入った人々は陽気に羽目を外しはじめ、調子に乗って暴れ始めた何人かはしょっ引いて来たのだとか。その勇姿に興奮した女がひとり、サンドラにしがみついてこの有様、ということのようだった。
出来ましたよ、と言われて背中を鏡に向ければ、編み上げられた組紐は、首元で花の形を作って留められている。
「うわあ……。え? こんなの、クレイセスもクロシェさんも出来るんですか?!」
「わたしの幼なじみですよ? 当然です」
「サンドラさんの教育すごい……」