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Ⅳ 手掛かり─ⅰ

「溜息ばかりですね」


 サンドラが知る限り、本日通算二十三回目の溜息を湯船の中で()いた(あるじ)は、はっとしたように小さな手で口許を押さえ、上目遣いにサンドラを見上げた。


「すみません……」

「謝ることではありません。ですが、サンドラではお力になれませんか」

 言えば、何をどう説明したらいいのかわからないんです、と言いながら、ぶくぶくと湯に沈んでいく。息が苦しくなると自力で顔をのぞかせるのに、サンドラはどうしたものかと思いつつ、顔が緩んだ。


 ここは川縁(かわべり)に建てられた湯殿(ゆどの)


 殲滅(せんめつ)された村、ノルトから戻ったサクラは、着替えたのちに村の重傷者を治癒して回った。深手を負った者、傷が化膿して腐りはじめた者も、たちどころに痛みが取り払われ、傷の跡形もなくなった奇跡に、皆が頭を地にこすりつけ、涙しながら感謝した。サクラはそれにどう対処して良いかわからなかったようで、治してやるたびに困ったような顔をしていたが。


 サクラは治癒の力を使うと強烈な眠気を催すのか、二日間ほどこんこんと眠り続けた。その間に、サクラが風呂好きなことを知った村人の好意で、一日でここが設置されたのだ。せめてもの感謝の気持ちにと、夕方になると毎日村人の手で用意され、サクラは恐縮しつつも、ありがたく浸かっている。


 人目にさらされる機会も増え、サクラが気を張ることも多くなった。その中にあって、湯殿の中で見せる無意識の行動は、サンドラに心を許してくれている証拠に思える。しかし肝心の中身についてはひとりで悩みを深くしているようで、言葉として伝えられることも、相談されることもない。


「なら、当ててみせましょうか」

「え?」

 湯船の(へり)に袖をまくり上げた肘をつき、頬杖をついて言えば、サクラがぎょっとしたように目を見開いた。


「悩みの根源はクレイセスとクロシェですね」

 さらに見開かれた目に、とどめのように投げかける。


「どちらにも想いを告げられましたか?」

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