Ⅲ ジェラルド卿の謀 ─ⅹⅹⅲ
サンドラに悟られず、サクラに何かを仕掛けるなど無理だ。あの幼なじみは、凄まじく勘が良い。
クロシェが想いを告げたあの二日後、サンドラは「ちょっと顔を貸せ」と訓練中に現れた。ピリピリした空気感に、これは来るな、と身構えていたから対処出来たが、本当になんの気ない振り向きざまに抜き身の剣を突きつけられたのだ。
一体何年ぶりだろう。
ここまでひどいのはそう、クロシェがサンドラの身長を抜いてしまった十三のとき以来だ。あのとき彼女は、「ちーぢーめー!!」と言いながら鬼の形相で追いかけて来た。今回もあのとき同様、「吐~けー!!」と追いかけて来たのだ。「サクラ様が痛いのは足のはずなのに、顔を赤くしながら頭を抱えておいでだ」と言う。宴の最後に付き添ったお前が元凶だな?! というなんとも強引な結論だが、そんな不埒なことをしたつもりもないため、一応顛末は伝えたが。
『清く正しく攻略するなら目を瞑っていてやる。少しでもサクラ様を泣かせたら、たたっ斬る!』
と、どでかい釘を刺された。
大体、サクラは平静を装おうとするとき、頑張ってはいるが顔色に出てしまうのだ。あれでは相手が普通にしていても、バレてしまうというもの。自分は女性という女性から逃げてきた所為で恋愛経験は皆無だが、恐らく彼女の経験値も、似たようなものだろう。
ほうっと、クロシェは深い溜息をつく。
クレイセスは自分にとっては兄のようで、常に目指すべき目標であり、壁だった。まさかこんな形で、同じ人に手を伸ばすなど。
ユリウスが亡くなったことを、彼女に伝えなくてはならない。
それと同時に、フィルセインの噂も。
真実が届かなかったエリオット子爵のことも気になった。
そしてどう働きかけたら、彼女の殻を破れるのだろう……?
彼女が何を判断し、誰を選ぶのか……クロシェは己の分の悪さだけを自覚しながら、もう一度溜息をついたのだった。




