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Ⅲ ジェラルド卿の謀 ─ⅹⅹⅱ

「アーニャはともかく、従騎士の誰もが事実だけ作る結婚なら横並びに都合がいいと思うんだよね」

「クレイセスはわかります。ガゼルはもともとの出自はそうですが、今は厳しいのでは」

「ところがさー、その『身軽さ』が売りになるってこともあるかなって」

 父の言うところがわからず考え込めば、またニヤニヤと意味ありげな笑顔が表出する。


「何を知っているのです」

「んー? セルシアが世界と約束したことって、フィルセインを片付けることだけじゃないらしいってことくらいかな。お前のほうこそ、それだけ近くにいて、俺より知らなさすぎじゃない?」


 舌打ちをしたい気持ちを抑えつつ、クロシェは父を見る。確かに自分は、サクラから何も聞き出せてはいない。何かを隠していることは、誰もが認識していることだ。従騎士としても万全の信頼を得られていない状況で、その先を求めることなど……本当なら不遜ですらあるだろう。


 考えながら口にした杯は酒の味がして、クロシェはチッと横に避ける。父の謎かけを、早いところ解いてしまいたい。

「本当にご存知ないので?」

「知る訳ないよ。ただ、じっとしてるだけの子でもないよね。それって何かの準備かな、とか、私は考えてしまうんだけど」


 それなりの酒量だったが、顔色は早くもほんのりと色づいた程度におさまってきた。口調すらも冷静を取り戻しつつある。


「準備……?」

「考えすぎかもしれないけどね。世界と約束するような内容なんて、てんで思いつかないからさ。ただ、言っとくよクロシェ。優しいだけじゃ、ただの『イイ人』で終わるんだ。お前が本気で彼女を手に入れたいなら、アーニャにバレない程度にきわどいことも仕掛けてみるんだね」


 それだけ言って笑うと、「もうダメだなあ、酒が入るとすぐに眠くなる」とよろよろと立ち上がり、父は寝台へと倒れ込むようにして眠ってしまった。


 クロシェはひとり、木の実を口に入れる。カリリと軽い音が、やけに響いて聞こえた。

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