Ⅲ ジェラルド卿の謀 ─ⅹⅵ
帰還したらジゼラ泣かす、とクロシェは心に決める。しかし、それを読んだように父は笑って言った。
「内容は間違っていないだろう? 十六歳、少女趣味と言えるほど幼い訳でもないね。彼女の容姿がそう思わせる側面はあるだろうけどさ。あんな規模の水攻め考えつくってだけで、私は怖い子を選ぶなあと思ったもんだけど」
「怖い方ではありませんよ」
「それだけ?」
「ほかに何が聞きたいと」
「息子初の恋愛相談とか聞けるかなって、ドキドキして待ってたのに」
「しません」
つまんない子だねえと笑う父に、クロシェは全身が重くなった気がした。
もうそんなどうでもいい尋問しかないなら、とっととサクラのいる陣営に帰りたい。
「とりあえず……重篤でないので安心しました。俺はオクトランに戻ります」
ピンピンしている父なら、以降の防衛戦は問題ないと判断し、クロシェは踵を返す。
「そんなに急ぐなよ。オクトランはしばらく《《動けない》》だろう? それに、少しは兵も休ませないとね? あと……いいことを教えてやろう。ハーシェル王は、あの幼いセルシアが帰って来るまで黙っているつもりだろうからね」
不穏をほのめかす父に、クロシェは振り向いた。
「ハーシェルが、何かを隠しているのですか」
「ああ。ゆっくり話してやるから、とりあえず指示を出しておいで。これからしばらくはまた顔も見られなくなるだろうし、今夜くらいは私に付き合いなさい」
真面目くさった表情……に何か混じっているものを感じつつ、クロシェは各隊に指示を出し、一晩父の話に付き合うことにしたのだった。
前線とは言え、食事は領民が手を尽くしてくれているらしく、騎士団のそれよりはずっと豪華だ。酒も勧められ、一杯くらいいいだろうと言う父の杯を受け取る。
「それで? ハーシェルが隠していることとは、なんなんです」
「せっかちだな、お前。女の子に嫌われるぞ?」
「望むところです」




